17-3.ぶっ壊れ
??? → セリス視点
「お?」
「おおお、これは!」
「引いたねえ!!!」
「っしゃあ!ぶっ飛ばしてやろうぜ!!!」
チャージスキル一覧に出てきた名前はリーダー、ねむねむ蝉、ニャオニャオ……このゲームに「リーダー」は一人しかいないので間違いない。サザンクロスだ。
「フルメンバーじゃん!いいねいいね、ぶっ殺してやろうねえ!」
「んー、初期位置で二人止まったか~?」
「ヒーラーいるならそれと護衛じゃね?ニャオニャオとグライドだろ」
「そっかー。ヒーラー嬲り殺すのは最後がいいよなー」
「だな、とりあえずリーダー探そうぜ。二手に分かれたの、どっち行く?」
「俺右~」
「じゃ俺左な」
適当にメンバーが二手に割れていく。
んっんー。楽しいねえ。そろそろBAN来っかなと思ってるけど、終わる前にどでかい相手がきたねえ!
いやー。楽しい楽しい。即席のパワーレベリングでもめちゃめちゃ勝てるし。スキル進化みたいなめんどくっせー異世界仕様がないの、いいよねえ。
細剣を軽く振って、森の中を歩き出す。
「森の中~止まった?」
「とまったねえ。待ち伏せ?」
「ぶはは!待ち伏せとかウケるwみえてるっつのwww」
レーダーにはくっきりと黄色い点が二つ寄り添っている様子が見えている。
茂みで待ち伏せでちゅか~。見えてんだよばああああか。
「貴方に特別な賞品を」
適当に黄色の点に向かってプレゼントを放り込む。
茂みが焦げ付いて低木が倒れ――――
「――――ロイド、やれ」
プレゼントを放った場所の真上から、声が降ってきた。
「は?」
「……は?はあ!?なんだよ、え?なんだよこれ!?!?」
何だ?何が起こった?
「え?は?エラー?」
一瞬会話ログがだっと走り、直後に視界の大半がエラー表示で埋め尽くされた。
文字通りの一面エラーで他のものがほとんど見えない。
BAN?いやおかしい、BANならゲームから弾かれるだろ。
なん、で?ツールが壊れた?何で急に?
「視界がない程度で棒立ちなんて、みっともないですよ?」
女の声が頭上に響いて、おそらく死んだのだろう、エラー画面の外側が暗転した。
□■□■□■□■□■□
「一つ、やってみたいことがあるんだが」
最初のチーターを撃破した直後、ロイドさんが言った。
いやー、思った以上に弱かったですね。勝負になるとかならないとかそういう話じゃなかったです。
「おう?なにやりたいの?」
「スキル構成を変えたい。ただ、これをやろうとすると俺は棒立ちになる。戦闘には参加できない上に、護衛が必須だ」
「ほう?」
「通常プレイヤーに対してはほとんど無力になる。その…真面目にやっているプレイヤーに対しては舐めプもいいところだし、戦闘自体も負けかねない。実質4対6になるわけだからな」
「うーん、まあ、そこは一旦いいよ。流石にこの騒動終わったら戦績はリセットされるだろうし、この際負けが残ってもいいでしょ。で、何したいの?」
ロイドさんはそれほどいつもと変わらない様子で、淡々と言った。
「ツールを、壊してみたい」
「ホントに壊れちゃいましたねえ」
「ふっくく……ぶっ……いや、えええまじ、マジ壊れんの、ぶっ、くく……」
チーターであることをきちんと確認してから実行されたロイドさんのぶっ壊れは文字通りにツールをぶっ壊して、棒立ちのチーター三人は適当に切り捨てた。エラー表示がどんなだったかは知らないけれど、ちょっと視界が消えた程度で棒立ちなんて、真面目にやる気があるのだろうか。……ないんだろうな、チートなんて使うくらいだし。
すべてが終わって、今リーダーさんは顔を手で覆って肩を震わせている。
「くっははははは、いややっぱあいつ最高だわ!あっはっはっはっは!」
「いやー、とんでもないですねえ……」
「いやほんとに、意味わっかんねえよな!くくく、」
「50個のスキルの同時チャージって、人類に本当に可能なんですかね?」
メイジ系は細々したスキルが他の職に比べて非常に多い。
火水土風雷氷隕石の7属性があり、それらの全てに低位の魔法スキルが存在するため、単純なアクティブスキルの数だけなら他の追随を許さない。
一般には2~4つ属性を選んで伸ばすのがいいと言われている。スキルポイントが有限だからだ。
構成とか強さとかをかなぐり捨てて、とにかく低位でいいので沢山のアクティブスキルを取得した場合、攻撃・補助含め50ものスキルを取得できる。
その全てのスキルを目の前に並べて、全てのチャージを同時に発動する。
ツールが受付限界を超えて処理落ちしたらしい。
程なくして戦闘終了のファンファーレが鳴り、待機部屋に転送された。
「あー笑った笑った!」
「ちょっと笑いすぎですよ、リーダーさん」
「いやー、アレは笑っちゃうにゃ」
「突然意味不明な鳴き声上げながら棒立ちになったからなw」
「ああ、そんな事になっていたのか」
「うわー見たかった!」
やった当人とグライドさんは何が起こったのか分からないんですよね。
「後で配信アーカイブでも見てくれ。消されてなければ」
「そうします」
「さて!んーと……あ、ごめん一回配信切るわ」
今回の配信は垂れ流し。特にコメントも拾わず、挨拶もろくにしていない。
配信用に飛び回っていたカメラがふつりと光を失くした。
「ドリアンからメッセきた」
「……今回は、ちゃんと伝えてあったんだが」
「何で怒られる前提なんだよwえーとね、佐々木さんから個人メールが来て」
「ああ」
「ログがほしいからもう何件かできないか、らしいよ」
「建前、建前どこいった」
「消えたねえ、建前」
「やれるかやれないかという話なら、もちろん可能だ。視界がほぼないので移動はできないが、あまり考えることはないからな」
「考えることがない……?」
「ちょっと何言ってるか分からないですね」
50個のスキルチャージって、何も考えないで回せるんですかね……?
「悪いんだけど、わたしはもう落ちるにゃ」
ニャオ姉さんが言った。
「うん、了解」
「ごめんねー」
「いやいや、付き合ってくれてありがとう。お昼寝はできそう?」
「そりゃもう、バッチリ良く眠れそうにゃ」
待機室に朗らかな笑いが溢れる。
よく眠れそうなら良かった。気になることがあると眠りって浅くなりますからね。
ニャオ姉さんは配信楽しみにしていると笑いながら、ログアウトした。
「ニャオ姉抜けるなら、ニンカ呼んでもいいすかね?森林フィールドだとあんまり強くねえんだけど」
「ああいいよ。呼ぼう呼ぼう。もう一般プレイヤーには負けても良いってことで進行しよう。その方がいいだろ」
「了解、呼びます。ポイント稼ぎどうしようかって相談してたんで、丁度いいっす」
「PvPなら負けてもポイントは貰えるからな」
「っすね――――死が二人を分かつまで」
「――はーいおまたせ~きたよー」
「ちょっと待てお前今結婚指輪付けてんの?」
「ガチのとき以外は割といつも付けてますよ?」
「今ガチじゃねえのかよ」
「いやもう、セリスさんの発言が面白すぎてガチ装備に変え忘れました」
「なーんも状況分かってないからとりあえず共有しろ?」
グライドさんの真後ろに転移してきたニンカさんが、グライドさんの頭を小突いた。




