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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
十七章 EFOに血の降る日

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17-1.新学期と新要素

 シアさんにみっともなく泣きじゃくって、少し気持ちが落ち着いた。


 ちゃんと、距離を取ろう。二人きりになるのはやめよう。

 友達のままでいられれば、空気も壊さないし、少なくとも側にはいられるのだから。


 少しだけ距離を取る、二人きりにならない、というのは、やろうと思えば簡単だった。

 相談をする時は最初にロイドさんに声をかける。伝言は一旦ドリアンさんかびっくり箱さんに。なにかする時にはまずニンカさんを誘う。

 じわりと距離を取る。これくらいの距離でいようと決めたら、あっさりとその距離感は実現した。

 これでいい。これがいい。

 気持ちが突然跳ねることもなくなり、穏やかに新学期が始まり、二週間はあっという間に経った。



 4月18日。2.5周年アップデートが実施された。



 目玉は新しい戦闘要素。EFOでは初めて、ランダムマップが実装されるとのこと。ソロからパーティまで参加可能で、クリアすると付与されるポイントで色々アイテムを交換できるらしい。

 それに伴い交換用目玉アイテムが発表された。――――超越ポイント、そのものだ。


 最初はPvEで、大型アプデ翌週の定期メンテナンスでPvP要素も追加になるらしい。




『冒険者様が緑の女神様を調伏して下さいましたが、未だ森はマナが荒れ狂っておりまして。学者様も調べてくださったのですが、これはもう溢れるマナを使い切るしか方法がないと。そこで、冒険者様方に是非内部で沢山武技や魔術を使っていただいて、マナを消費していただきたいのです。もちろんただでとは申しません。マナの狂うこの森でしか採取できない特殊な鉱石がございまして。荒れ狂っていたとは言え女神様の御力を多分に含んでおりますので、きっと皆様のお力になるでしょう。森は木々が狂い育ち入るたびに様相を変えますが、冒険者様でしたら問題ないと信じております』


 アップデート初日。説明用NPCがそんなことを言っていた。

 森林フィールドのみだけど、毎回マップ構造が変わる、ってことかな。


 ひとまずチュートリアル戦闘を一度。

 倒す敵は、オオカミ3、陽炎ネズミ3、そしてイヌワシ3。

 オオカミと陽炎ネズミはともかくとして、イヌワシが結構厄介だった。こちらの攻撃がなかなか届かない。

 木に登っての待ち伏せが多分正攻法だと思う。しっかり3次元機動を要求する戦闘というのも今まであまりなかった。ちょっと面白いな。


 難易度を少しずつ上げながら都合3回ほどプレイして、一旦終わりにした。





「新要素、結構面白いですね」


 ギルドでみなさんとお喋りをする。


「超越ポイントの取得が面倒くさい問題の解決、結構早かったな」

「まあ、交換上限ありますから完全解消ではないですし、結局あれもボス戦並には周回しないとですけどね」

「エンジョイ勢だったら巨人周回のが楽だしな。巨人は頭打ちになっちゃった中間層の週末プレイヤーがターゲットっぽいか」

「スタックする超越ポイント用アイテムっていうのがオレ的にはかーなーり嬉しい!これでまたキャラ増えても安心!」

「ニャオ姉に言いつけるぞ」

「ご勘弁を!」

「来週にはPvPも解禁でしょ?そっちも楽しみだよね~」

「これあれっしょ、次の大会ランダムマップPvPでしょ」

「まあタイミング的にそれだろうね」


 大会概要はまだ出ていないけれど、まあそうでしょうね。


 来週のアップデートも楽しみだ。






 って、思っていたんですが。


 翌週のアップデート日はギルドメンバー数名と組んで楽しく遊び、その後平日は少々立て込んでいてログインできなかった。体育祭とか消えてなくなればいいのに。

 土曜日にログインしたらリーダーさんからメッセージが入っていて、女神の森の前にギルドに来るように、と。

 指定された中会議室にはリーダーさん、ロイドさん、グライドさん、ねむ蝉さん、ニャオ姉さん。

 空気は随分とひりついている。


「来たか」

「えっと……遅くなりました?」

「いや、いい。セリス、BBSって見た?」

「公式掲示板ですか?いえ、見てないです」

「OK、イチから説明する。PvPアプデ早々だけど、チートが出た」


 ちーと。

 えーと、不正のこと?ですかね?


 ここ最近プリンシプルウォーズという別のMMORPGで問題になっているチートツールがあるらしい。

 そのツールがEFOにも流用されたらしく、昨日からチーターが現れて、EFO側でも問題になっているらしい。


「ツール使った阿呆が使用の様子を動画で投稿した。すぐ消えたけど、リスナーから入手した。見てくれ」


 完全一人称視点。動画主は細剣士らしい。

 視界右上にはエリアレーダー。本来は開始早々では分からないはずの、敵プレイヤーのマーカーが全て出ている。

 そして右下、本来は会話ログが流れる場所に流れ出したのは。


「…………チャージスキル、ですかね?」

「プリウォと同じなら、敵のチャージ中のスキル名、チャージパーセントが全て見れるそうだ」

「使ってるスキルも、多分おかしいですね。プライズイズアサプライズがこんなに当たるわけありません」

「うん。推定だけど、命中の100化がされてる」

「プレイヤー位置丸見え、スキルチャージ全バレ、敵の命中は百」

「必中ではないにゃ。さすがにプレゼントがホーミングしてたりはしない」

「なるほど」

「このチートツール自体、隠匿がかなり強くて、今のところツールスタートまで発見できないそうだ」

「現在のEFOの対応はどうなっていますか?」

「ツールを検知した段階でプレイヤーを一発BAN。だけど見逃しも結構多いっぽいというか……多分、人力で見てBANしてる」

「人力……」

「やり口は不明なんだけど、AI判定をかいくぐってる。プリウォもそれで随分難航してるらしい」

「今アプデ直後で人も多いからな……」

「PvPの停止は予定していないんですね?」

「公式発表は特になし。ただ目玉アプデだしな。負けてもさほどマイナス要素のない内容だから、微妙なのかも」


 女神の森でのPvPでは、敗北してもデスペナルティが付かない。ポイントも負けても少しもらえる。

 不正で負けるのはもちろんとても嫌だけど、すぐに新要素を停止するべきかと聞かれると、どうだろうか。


「サザンクロスの決定事項として聞いて欲しい」


 リーダーさんが見たこともない鋭い目で言った。


「このクソ野郎どもに勝つ。協力してくれ」

「了解」「OK」「承知しました」「しかたないにゃ」

「ありがとう。とりあえず、対策を考えたい。全員の意見を聞かせてくれ」


 みなさんがめいめい話し出す。

 色々な話がぽつぽつとでて、消えていく。だけどやはり顔は難しそうで。


 それがどうにも、分からない。


「っぱ、ネックはマップデータか?」

「セリスはどう思う?――――セリス?」

「あっ、はい、あの……」

「うん、何でも言って」

「えっと、その、あの、私、PvP要素のあるゲームって、EFO以外触ったことがなくて」

「うん?」

「なので、えっと、あの、煽ってるとかバカにしてるとかではなくて、本当に分からなくて」

「えーと?質問でも何でも」

「その……的はずれなことを言っているのかもしれないんですが……」

「うん、とりあえずどうぞ?」




「チートがなければ敵の位置すら分からないプレイヤーに、どうやって負けるんですか?」



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― 新着の感想 ―
[一言] 当たらなければどうということはないに通じる天才の理論で笑う。
[一言] 臆病さを覚えたのは前進なんだろうけど、この子が健気に振る舞っててもスカポンタンが野次馬勢に小突き回される未来しか見えない_(:3」∠)_w pvpはソロ戦かチーム戦か、スキルリセット込みか…
[一言] 聴覚優れているトラさんが言うならわかるけど、セリスが言うのかー
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