16-3.新米プロと毒アサシン 下
上級の2体目はバンドユールの瘴気。
クリティカル倍率が高い代わりに、通常のダメージがあまり入らないタイプのボスだ。
普通はアサシンが一閃するんだけど……
「いやーカンストアサシンがいて苦戦するとは思わなんだ」
「すみません、クリティカル側のスキルはほとんど育っていなくて……」
「まあ、倒せたからいいでしょw」
いやー。本当にクリティカルとってないのな。びっくりだよ。
まあぼくの奇術師がクリティカル寄りの振り方してるから、削りきったけどね。
少しばかり瞳を伏せてしまった彼女の頭をぽんぽんと叩く。
「倒せたんだからいいんだって。毒アサなのは知ってて誘ってんだから」
「えと、はい、ありがとうございます」
「これ向こうはどうやって倒してんだろうね?」
「マコトがクリティカル寄りのレンジャーだからいけるいける」
「ああ、なるほど」
「さて、ラスト行こうか」
「取り巻き型かー」
「遠距離いないから最後の関門って感じだよね」
「一応超上級までやるかんな!」
「むちゃを言いよるw」
「さすがに無理っすよトシさん~」
上級最後のボスは強欲の魔人。
取り巻きが続々と召喚されて、取り巻きの数が多いほどボスが固い、取り巻きが少ないほど火力が高いというタイプのボスだ。攻撃はカウンター寄りで、通常討伐方法だとタンクが役に立たない。
一般的には遠距離ができるキャラが取り巻きを倒しまくり、ソードマンあたりが正面に突っ込んで切り刻む。
こちらから攻撃しなければ相手の攻撃手数もあまり多くないので、周囲を壁で固めてブラマジ棒立ちからの地獄の門が実は最適解だ。初クリアも最高スコアもですぺなるてぃが持っている。
「セリスちゃんにまたセージやってもらって、ぼくとセリスちゃんで取り巻き落とすのがいいかな?」
「そうだなー、ここアサシン微妙だしな」
「分かりました、よろしくお願いします」
「「「うーん…………」」」
遠距離火力不足が嫌と言うほど出ている。
取り巻きが減らないせいで敵が硬いままで、またしてもMP切れ負け。
「セリスのレベルが根本的に足りてねーな」
「すみません……」
「まーしゃーない。ボス戦するキャラじゃねーからな」
「ぼくの他のキャラは皆前衛キャラなんですよね…これ以上後衛火力は出せないっす」
「ちょっと、キャラ変えてきます」
「お、セリスが?」
「ええ、はい。セージよりはお役に立ちます」
戻ってきた彼女は緑色の髪。手には細剣。――――細剣士?
「ああ、なるほどね」
何が。
「はい、多分コレが一番いいと思います。MPはなんとかするので、短時間でお願いできますか?」
「了解」
だから何を。
「最悪リーダーさんもお願いします」
「そうだね。まあ大丈夫だろうけど」
完全にリーダーとセリスちゃんの二人だけでわかり合っている状態で、ボス戦が始まった。
セリスちゃんが走り出す。
敵のいないところやちょっと邪魔っぽいところまで走り込んでいく。取り巻きの討伐は最低限すれ違いざまに剣を刺す程度で、あまり真面目に倒さない。
ワープマーカーか?
「リーダーさん!」
「OK!」
「弱点看破」
「勇気を」
「「えっ!?」」
「神出鬼没 刺突撃」
「っ、奇術の時間!」
慌ててこちらも覚醒を打つ。
覚醒技は打ち合わせしろ!
「神出鬼没」
フィールドのあちこちに的確に転移して、散逸する取り巻きを落としていく。
ほぼノールックで打っているのに、弱点を正確に突けているのか、ほとんどの取り巻きを刺突撃一撃で落としていく。
場合によってはスキルすら使っていない。どうなってんのあれ。
リーダーもボスを削りながら、ボスからの固定リポップ取り巻きをスキル連打で落としていく。
こちらも負けじと足で稼いでカードを投げつけていく。
奇術の時間分ブーストあるから、さっきよりは落ちる。
リーダーがMPポーションを使用する。
いやブレイヴァーはスキル連打用覚醒技だから、MPぜってえ足りないんだけど。
「神出鬼没」
さっき「そこ通るの邪魔じゃね?」と思った場所に転移した彼女が、MPポーションをリーダーに投げつけた。
…………ちょいまて。
ショートカットからはアイテム「使用」しかできない。いつポーション出した。
「手に持つ」はアイテム欄から取り出さないと出来ないんだぞ。
取り巻きの数は中々減らない。何となくぼくと彼女でフィールドの半分ずつくらいを担当しながら敵を倒していく。
ようやく取り巻きの大半を処理し終えて。
彼女が2本めのMPポーションをリーダーに投げつけて。
「秘剣 光雷一閃」
「秘槍 勝利を齎す槍」
トシさんとリーダーの上級奥義が魔人を蹴散らした。
「よーしできたねー」
「勝てました~」
「勝てました~じゃねーんですけど?」
「ふたりともそこに正座」
楽しげにハイタッチする二人に待ったをかける。
「へ?」
「えー、いーじゃん」
「よくねえ!覚醒技使うなら先に相談しろ!」
「え、しましたよね?」
「うん、二人でダメなら俺も細剣で遊撃やるつもりだった。ジン君に前衛お願いして交代かな」
「分かり合うな相談しろ」
「え……えー、セリスちゃん、もしかしていつもそういう感じ……?」
「あ、はい、ジンさん、先程の返答なんですが」
「ん、さっき?」
「はい。あの、コレくらいでわかるので、あまり細かい相談とかは……。試行錯誤は、たまにはしますが」
あ、あー、なるほど。さっきの困った顔はそういうこと。話すまでもないのに何を相談するんですかってか?
この子も天才の極星なの。嘘だろ。
「セリスちゃん」
「えっと、はい」
「とりあえず、フレコ交換しよ」
「え?あ、はい?」
「さっきのやつ、武器チェン?」
「はい、そうです。武器欄ではなくて、アイテム欄を開いていました」
「今度教えて」
「え?えーと……私、教える程は詳しくなくて……」
「世界に2人しか居ない武器チェンファイターが何言ってんのさ〜教えてよトラよりマシでしょ!」
「ジン~何やってんだ?」
「フレンド登録っす!今度武器チェン教えてもらいます!」
割り込んだトシさんに言い放つ。
「あれ、EFO以外じゃあんま使えねーよ?」
トシさんの後ろからリーダーが顔を出して言った。
「EFOもこんだけ人気続いてんだからそのうち懸賞来るかもじゃないっすか!」
「まあ、規模的にはあるかもしれねーけどなあ」
「セリスちゃん!いいでしょ!」
「え、えと……私、教えられるかはわからないですけど……」
「とりあえずやってみよ!」
「ジン~ナンパみたいになってんぞw」
「えー、女の子とサシがだめっすか?じゃあウチで興味あるやつも連れてくるからさあ!」
「ああ、トラ君のやつセリスさんが翻訳してたじゃん。あれでも分かんないって言ってるメンバーは結構いるよね」
「もう全員連れて来る!?その規模だったら動画撮れるじゃん!セリスちゃんウチに出ない?」
「いえ、あの、えっと」
「いいじゃん、やろうよ!ぼくのチャンネルのほうでコラボしよ!」
「ジン君」
リーダーが明らかに鋭い目を向けた。一瞬背中がヒヤッとする。
「待たせたか?」
低い男の声に振り返ると、Bチームが背後で待っていた。
「いや……そんなに待ってねーよ。おつかれロイド」
「なら良かった」
「っし!AB両チーム戻ったし!オチを撮りに行こっか!ほらジン、話は後だ」
「はーいっす!」
――――いやトシさん、自分でオチって言っちゃってんじゃん。




