15-7.大団円の裏側で 上
ギルドチャットルーム 告知事項
<このチャットルームは閲覧専用です>
リーダー:ニャオ姉の件ですが、在籍・引退含め現在協議中です。まだギルド外へは漏洩しないようにしてください。
詳細については個人情報を多く含むため、現在は俺の方からはお話しできません。
リーダー:ニャオ姉の件、一旦話がついたのでお知らせします。外部への公開時期はニャオ姉とねむ蝉が決定します。勝手に拡散しないようにしてください。
まず、ニャオ姉の状況ですが、現在妊娠16週に入ったところだそうです。
出産・育児に伴い、ニャオ姉・ねむ蝉共にプレイ時間が激減する見込みです。
特にニャオ姉はボス戦等攻略への参加はできなくなる見込みで、代理ヒーラーの募集について協議していました。
リーダー:代理ヒーラーですが、既にギルド通知でご存知の通り、旧ギルドトラ小屋より、ボンレスハムさんが加入しました。トラ小屋チーム所属ですが、前線チームのヒーラーとしても活躍します。
ニャオ姉は稼働は落ちますが、在籍し続けます。
今後の攻略体制についてはまた改めて通知します。
リーダー:ニャオ姉との今後のプレイについて。
本人の意思を最大限に尊重してプレイに誘って下さい。決して無理強いしないように。
普段より一層休憩時間を多く取るようにお願いします。特に水分補給のためのログアウト時間は必ずこまめに入れるよう留意して下さい。
・・・
ギルドチャットルーム 全体
ボンレスハム:ご紹介に預かりましたボンレスハムです。普段はトラ小屋チームにいますので、御用の際はギルドチャットで呼び出して下さい。よろしくお願いします。
まっしろおもち:ハムさんいらっしゃああああああああああい!!!!!
ぽんすけ:ようこそ!!!!!
ニャオニャオ:よろしくにゃ~!
無卿:何もかもが落ち着くとこに落ち着いてよかった……ハムさんいらっしゃーい!よろしく!
ニャオニャオ:かっこよくいなくなる予定だったんだけどにゃ~
ぽんすけ:だめ
ニンカ:ハムさんいらっしゃい!!!!!!
ニンカ:ニャオ姉はそんな事言わないの!泣くよ!!!
ENVY:もしかして:もう泣いてる
ENVY:ハムさんよろよろですー!
まっしろおもち:かっこよすぎる罪で終身刑
グライド:ハムさんいらっしゃい、よろです。
グライド:ニャオ姉のそれはかっこよすぎてだめだろ。それはそれとしてリーダーとロイドは今度俺に酒を奢るように。
リーダー:@グライド 俺のとっておきを開けるのと俺のとっておきの店に行くんだったらどっちがいい?
グライド:あんたのとっておきの店ってドレスコードあるやつじゃん。やだよ。
無卿:え、俺もリーダーのとっておき飲みたい
リーダー:グライド以外にはやらんぞ!?
ボロネーゼ:ハムさんいらっしゃーい!仲良くしてね~~
・・・
・・・・
翌日のチャットルームと談話室はお祭り騒ぎで、ちょっと入り辛くて別のところに行こうと思った。
自分のルームに入ろうと思って……ふと思い立って、ニャオ姉さんのルームを選択した。
フレンドには開放しているからいつでも入っていいとは言われたけれど、家主不在の部屋に入るのは少しばかり緊張する。
室内には誰もいない。ただ、内装は以前見たものとははっきりと様変わりしていた。
八畳ほどの部屋の壁にはみんなで遊んだ時のものだろうスクリーンショットが沢山飾られている。部屋の中央に大きなテーブルが置かれ、第三回公式大会二位のトロフィーを真ん中に、おそらくは思い入れのあるアイテムなのだろうものが円を描くように可愛らしくディスプレイされていた。
「これを残して行こうとしていたのは、ずるいですよ」
テーブルの周りに置かれた椅子の一つに腰掛ける。
チャットルームを開いて、先程からずーっと流れ続けている全体チャットを開いた。
ニャオ姉さん、愛されているなぁ。
ぼんやりとチャットを眺めていると、かちゃりと部屋が開いた。
「あれ?セリス?」
「リーダーさん」
なんだか少しボロっとしたエフェクトを纏ったリーダーさんが、部屋の中に入ってきた。
「こりゃまた、随分思い切った変更したな」
私と同じく人混みとお祭り騒ぎから逃げてきたらしいリーダーさんが、ぐるりと部屋を見渡して言った。
「これ置いてギルド辞めるつもりだったんですね」
「全員泣くぞ」
飾られたスクリーンショットを一枚一枚丁寧に眺めて、そのうちの一枚の前で足を止める。
「これ、ギルド立ち上げた時のスクショだな」
「へえ、ねむ蝉さんとニャオ姉さん、本当に最初からいらっしゃったんですね」
スクショにはリーダーさんとロイドさん、ねむ蝉さんとニャオ姉さん、それからドリアンさんが写っている。
「ゲーム初日にスタートダッシュして、チュートリアル終わらせてファイターとメイジに転職してさ。ポーション節約にアコライトが欲しくて野良募集してたんだよね。ほら、序盤ってゴールドがカツいから」
「そうですねえ」
「ちょっと待って人来なかったら二人でやろうって思っててさ。そこにニャオ姉が来て」
「それで一緒に組んだんですか」
「あー、いや、最初は断ったんだ」
「へ?」
「んー……姫って言ってわかる?」
「えーと、寄生行為を積極的に行う女性プレイヤー、という認識です」
「大体合ってる。アコライトって、姫プレイヤーがすげえ多いんだよね。ガチな人に来てほしかったから女性アコはちょっと敬遠してて」
「あー……」
リーダーさんが本気でプレイしていたら、寄生するようなプレイヤーは多分ついていけませんしねえ……。
「断ったらニコッと笑ってさ。旦那と一緒ならいいかって」
「それはまた」
「試されてたっぽいんだよねー。女性アコ単品を喜んで受け入れるような人だったら入らないつもりだったっぽい」
「それ、逆恨みされたら危なかったのでは……」
「うーん、まあランダムに声かけてたわけではなかったというか、俺とロイドの視線で、男性プレイヤーを探してるのはわかってたみたいでさ」
「視線?」
「ほら、プレイヤーの職業欄見るのに頭の上見るでしょ」
リーダーさんが頭の上を指差す。
リーダー:ソードマンLv200 と書かれた文字がちょうどそこにある。
「それを見てる視線の位置が高い人を探してたんだって。女プレイヤーを探してるなら視線が低くなるから」
「あ、あー、なるほど」
「ねむ蝉が見つけて、ニャオ姉がテストして、それで合流したんだよね」
「かっこいいですけど……ニャオ姉さん、ちょっと自分を犠牲にし過ぎなきがします……」
「それは本当に。もう絶対にやるなって結構きつく言った」
リーダーさんが懐かしそうに苦笑する。
「本当に最初の一人だからさ。どうしてもやめてほしくなかった」
「はい」
「他の人ならやめてもいいって話ではもちろんなくてさ。皆やめないで欲しいし、引退なんて大げさに言わないで休養期間挟んでもいつでも帰ってきて欲しいって思ってるけど。彼女がいなくなったギルドとか、本当にイメージできなくてさ」
「分かります」
「――――ハムさんには、悪いことしちまった」
「そう、なんですか?」
「トラ小屋は、俺達にとってのサザンクロスだからさ」
「?ええ」
「完全解散させちゃったのは、本当に、なんていうか、言葉になんねえ」
くしゃりと髪をかき乱す彼の、言葉の意味がわからない。
「え?あの……トラ小屋は、もうずっと前に解散していたのでは?」
「ん……あー、トラ小屋は非公開ギルドになってたんだ。最少人数でハムさんがギルドリーダーやってたはずだから、あの人が抜けたんなら完全解散になったはず」
「――――――――え?」




