15-3.トップタンクの思い出3
「グライドっす。タンクやってます。世話になります」
「ニンカ、です。よろしくお願いします」
「ってことで待望のタンクと!スコラン一位のアサシンが入りまーす!仲良くしろよ~」
20人ほどの会議室から拍手が上がる。
動画配信で見る顔も多いし、野良で組んだ記憶のある人もチラチラ混ざっている。
「様子を見ながらになるが、二人とも最前線の予定だ。そのつもりでいてくれ」
「最前線以外も手伝ってくれるやろ!?」
「お前は落ち着け」
「新人を暗闇に突き落とすな」
「え、えーと、手伝い自体はしますんで、必要だったら声かけて下さい」
「グライド、詳細は後で話すがあいつの――びっくり箱の前で迂闊なことを言うな」
「え?」
「ひゃっほう!言質取ったで!」
「えっ?」
え?俺なんかまずった?普通のことを言ったつもりなんだけど。
「2時間コースかな……」
「あー……救出班は組んでおく。一回目は諦めてくれ」
「え?俺何やらされるやつっすか?!」
「まあそのうち分かるよ。びっくり箱、今日すぐはだめだ。そこは分かれ」
「わーっとる!時間取ってみっちり組むからよろしゅうな!」
あ、なんか知らないけどヤバそう。
「ニンカちゃんね!ニャオニャオだにゃ~よろしく!」
底抜けに明るい女性の声が相棒を呼ぶ。
一緒にプレイしたことはないけれど、動画では何度か見たことがある。メインヒーラーのニャオニャオさんだ。
「ニャオ姉って呼んでね~、グライド君も」
「あ、えと、よろしく、お願いします、ニャオ姉さん?」
「んーと、よろしくっすニャオ姉。すんませんニンカはギルド初めてなんで、慣れるまではもうちょいかかります」
「そうなんだ?MMO初めて?」
「あ、はい……そうです」
「それも含めて、ちょっと打ち合わせをしたい。前線チームと、びっくり箱とボタニカは残ってくれ。はいかいさーん」
パラパラと人のいなくなる会議室。
何人かから送られてきたフレンド申請に却下を押して、席に座る。
「ニンカのことで申し送り事項がある」
ロイドさんが全体を見渡して、ゆっくりと言葉を紡いだ。
話を聞いた数人が難しい顔をする。空気が重たい。
びっくり箱さんが、なるほどなあと呟いて、ニンカを見た。
「ちなみにニンカ、雑魚狩りに抵抗はあるか?格下をぎょうさん狩るみたいなやつ」
「え?えっと、素材集めってことですよね?だいじょうぶ、です。あまりやったことないですけど」
「ならええな。サポートからは以上や」
ニンカは頭にハテナを出した顔をしている。
素材集め、人足りてないやつかな。まあ雑魚狩りならニンカでもいける。問題ないはずだ。
「んー、ニンカちゃん」
ニャオニャオさんがにこにこと言った。
「は、い」
「EFO、楽しい?」
「え?」
思っていなかった方向からの質問に、ニンカがぽかんとした顔をした。
「楽しんでるかな?って」
「え、えっと、楽しい、です」
「良かった~!ギルドもさ、楽しいって思ってくれたら嬉しいにゃ!」
人懐っこい、明るい笑顔が差して、部屋が一段明るくなったように錯覚する。
「えっと」
「うちは変なやつはいっぱいだけど、嫌なやつはいないにゃ。そこは保証するにゃ~」
「あ、あの、あたし」
「だいじょーぶ」
「グライド君とわたしが守って、ねー君とリー君とロイ君が削って、ニンカちゃんが倒す。きっと最強のチームになるにゃ」
優しい優しい、それでいて、芯のある声が会議室に響く。
「――――まあ、フィニッシャーもいると便利だからな~」
「タンク呼んだらスコラン一位が付いてきたとかラッキーにも程がある」
「ふつーにスコアランキング動画撮りたいよね」
「え?ニンカちゃんのスコアランキング更新するまで終われない耐久配信?」
「耐久させんなwwww」
空気が一気に朗らかになっていく。
説明が終わった直後の張り詰めた緊張感はもうどこにもない。
「スコラン更新耐久は」
「うん?」
「5分で終わっちゃうので、耐久になんないですよ」
「言うねえ」
ニンカが少しだけいつもの調子になって言う。
その目尻が少しだけ赤いことに、俺と、多分彼女だけが気付いていた。
…
―――
―――――
―――――――
『グライド君とわたしが守って、ねー君とリー君とロイ君が削って、ニンカちゃんが倒す。きっと最強のチームになるにゃ』
別に、彼女の回復が上手かったわけじゃない。
バフ切らしのような凡ミスも多かった。過剰回復でヘイトが貫通したことも数え切れない。
強いやつを6人集めたから強かったんじゃない。
ニンカを足の動かない少女ではなく、フィニッシャーだと言ってくれる彼女だったから。
ヒーラーである自分を、守られる役目ではなく、守る側だと言ってのける彼女だったから。
俺のミスを一緒に背負ってくれる彼女だったから。
ニャオ姉がいるあのチームだったから、みんなで、最前線に立てた。
「たかひろ?」
プライベートルームにはいつの間にか立花が入室していて、俺の顔を覗き込んでいた。
リアルと同じふわりとした栗色の髪が何故か茜色に焼けて見えて。
「どうした?考え事?」
心配そうにこちらを覗く茶色の瞳に翡翠の色が踊って見えて。
言葉にならないまま、その細い体を抱きしめた。




