14-2.毒アサシンとトップ夫婦の馴れ初め
いやー、強い。
私が教えることとか何も無いんじゃないでしょうか。
いかにクリティカルが入りやすい敵とは言え、適正レベルから40レベルも低いはずのキャラクターで鎧袖一触にするのは、結構驚きだ。
正面は私が持っているけれど、それにしたって後ろへの回り方も上手い。
ニャオ姉さんのバフも回復も完璧で、何かをやっているという感慨もないままさくっとねむ蝉さんのレベルは150に乗った。
「いやあ、お強いですねえ」
「まーユールはレベル上げにはよく使うからなー。手伝いでもよく来るし」
「最近じゃアサシンの手が空いてるなら人魚の次はここだにゃ。あとねー君は手伝ってもらってる側だにゃ」
「まあそうだけどもさ!」
安全地帯の木の上でお二人が笑う。
寄り添うのがとても自然な、本当に長年連れ添ったのだろうと思わせる空気がある。
「お二人は、ずっといっしょにゲームされてるんですか?」
「ん?んー、一緒にやるようになったのはニャオ姉が家出てからだから…10年くらい?」
「かにゃ?アウタースカイオンラインが初めてやったMMOだったにゃ」
アウタースカイオンライン、知らないゲームだ。
「オレは中学くらいからずっとやってたんだけどね。ニャオ姉の方はなんていうか……」
「一緒にやると鬱陶しいのがいたからにゃー。ちょっと難しかったにゃ」
「鬱陶しいの?」
首をかしげる。ペットとかだろうか?
「あー…あんま楽しい話じゃねーんだけど」
「伺っていいなら聞きたいです」
「まあ話していいっていうか、ギルメンは皆知ってるし、セリスちゃんだけ知らないのも微妙かにゃ」
「それもそうか。ニャオ姉の妹がオレと同い年で、ちっちゃい頃から家族ぐるみで遊んでたんだけど」
「その妹がね~、ちょっと欲しがりさんで」
「欲しがりさん……?」
「お姉ちゃんのものが何でも欲しい~って感じ」
「ああ、おもちゃを欲しがるみたいな話ですか?」
「そうそう。お姉ちゃんばっかり持っててずるい、私もほしいって。ぬいぐるみも、絵本も、おもちゃも、おやつも、ゲームも」
「ニャオ姉がそれで何でもあげちゃってたからな」
「絡まれるの面倒くさいんだもん、あげちゃったほうが楽で」
うーん、何でもほしいほしいって言ってくる年下か……ずっと泣かれたりしたら、確かに、よっぽど大切なもの以外はあげちゃうかもしれない。
教育上は良くない気がするけれど、そこは親の役割だろうし。
「まあお義母さんもお義母さんで二言目にはお姉ちゃんなんだから、だったしなー」
「そうそう。あげないとこっちが悪者なんだから」
「わぁ…」
「あいつはあいつでもらってもあんま大事にしてなくてなー」
「奪うのが目的なんだから大事になんてするわけないにゃ」
「わぁ…………」
ここまでくると大分可哀そうだ。兄弟いるって皆そんな感じなんだろうか……。
「そんな状態でオンラインゲームなんてできないにゃ。レアアイテム奪われるのが見え見えにゃ」
「それはそうですねえ……」
「オフゲーだったらセーブデータコピーしておくとかできるけどなあ」
「ゲーム自体奪われて返ってこないからそれもちょっとねえ」
「やっぱあいつ性根がゴミなんだよな……」
「外面はいいんだけど、根が悪い子なのよね」
「その言葉がそっちの向きで使われてるの、初めて聞きましたね」
口は悪いけど根はいい子、みたいに使うものだと思うんですけど。
「最後にあいつ、オレが欲しい、お姉ちゃんだけずるいって言ってきてなー」
「え〜そこも話すの?」
「…………え?」
「ギルドで話題になるのはどっちかってとこっちじゃん。なんで幼馴染のあたしじゃなくてお姉ちゃんなの、おかしいって言い出したんだけどさー。何でニャオ姉から奪うだけ奪って翌日にはゴミ箱に捨ててる女を好きになると思うんだろうね……」
「それは、人としてどうなんですかね?」
「うん、人としてどうかと思ってるって言ったらなんか意味不明な逆ギレされた」
いやあ……ええ……それはさすがにドン引きですが……。
「え、え……それ、ご両親はなんて……?」
「流石にそのセリフはウチの親もおかしいと思ったらしくて、親はこっちについてくれたんだけど、同じ家に住んでるのは無理になって家を出たにゃ」
「あの時のニャオ姉がめっちゃかっこよくてなー!」
「その話はやめるにゃ」
「ニャオ姉さんはわりといつもかっこいいと思いますが」
「セリスちゃんもやめるにゃ」
「セリスちゃん分かってるぅ」
いやニャオ姉さんはいつもかっこいいですよ?
皆のことよく見ている、気さくな大人のお姉さんという感じだ。会話の回しもすごくうまくて、ニャオ姉さんがいるだけで場が一気に和やかになる。
可愛らしくて、そしてかっこいい。大人になったらこんな方になりたい。
「かっこいいエピソード聞きたいです」
「あのねあのね」
「はい、はい休憩終わり!終わり!」
「ねー君は私のものじゃないから、あげられないわ、って」
「もう!終わりだってば!」
「傍にいてもらえるように努力して、傍にいてもらえるようになったの。私が彼を選んだんじゃなくて、彼が私の隣を選んだの。物のように手に入れたわけじゃないわ。あなたは彼に好かれる努力を一瞬でもしたの?って」
「かっっっっっっっこいいいいいいい」
「私も若かったの!もうやめて!!!!」
えええ、なにそれかっこいい。
ニャオ姉さんは顔を隠して伏せてしまった。
猫耳がぴこぴことせわしなく動いている。これ動作制御どうなってるんだろう。
「いやそれ咄嗟に言えるのかっこよすぎじゃないですか」
「そうなんだよー!俺これで完全にニャオ姉のものになったよね」
「ちょっと黙って!!!!」
「ニャオ姉のかっこいい話とか何時間でもしたいからな!」
「私のものなら言うことを聞きなさい!」
「ものじゃないから無理かな~」
「もうっ!調子いいんだからっ!!」
素敵な御夫婦だ。本当に。
ニャオ姉さんの復帰には、たっぷり30分かかった。




