14-1.毒アサシンとトップ夫婦のレベリング
「セリスちゃん、今日ってヒマかにゃ?」
バレンタインイベントが何となく一段落着いた2月も終盤。
ニャオ姉さんとねむ蝉さんが話しかけてきた。
「えっと、はい、ヒマです」
今日はニンカさん達がデートでいなくて、なんとなくヒマを持て余している。
丁度適当な素材集めにでも行こうかと思っていた。
「ねー君のエクストラの育成手伝ってくれないかにゃ?」
「もちろんです。今は何を育ててるんですか?」
「アサシン!」
ねむ蝉さんがいい笑顔でピースする。
アサシンか。じゃあ私はファイターか細剣あたりがいいかな?レベリングどこだろう。
「ちょっと動きも見てほしくてさー!」
「私、双短剣は使えないので、一般的なアサシン挙動はいまいちですよ?」
「いや、避けアサシン見て欲しいんだよね!」
「えっと……避けアサシン、やるんですか?」
「ずーーーーーっとやりたかったんだよ~!枠増えたからようやくできるわ!」
「ああ、色々手を出してるって仰ってましたもんね」
「そうそう。メインのレンジャーに、ニャオ姉とペアやるためのブレイダーでしょ、汎用最強のソードマン、あと打属性もほしいからモンク。ここまで確定で、ラス2枠しか自由枠ないとか少なすぎだよね!エクストラは上限100枠とか分かってるわ~」
「100枠全部買ったら分かってるよね?」
「はい、分かってます」
ニャオ姉さんの迫力のある笑顔に、ねむ蝉さんがぴしっと背筋を伸ばす。
100枠は「ここまであれば足りない人はいないよね」という意思を感じるので、そんなに買うものではないと思います。
というか20枠買ったって本当なんでしょうか……。
「えーと…とりあえずファイターで行くので必要だったら変えますね」
「よろよろ~!武器チェンファイターだけはできる気がしねーわ。超かっこいいんだけどな」
「あはは…今回はニャオ姉さんいらっしゃるので、基本拳だけの予定ですけどね」
「バフなら任せるにゃ~」
ねむ蝉さんは相変わらず賑やかだな、と思いながら動き出す。
「どこ行きますか?」
「今オレのレベルがちょうど140で転職直後なんだけど、ローム古神殿かバンドユールあたり?」
「スキル構成はクリティカルですか?」
「うん、流石に毒は無理」
「じゃあバンドユールですかね」
バンドユールの樹海は出てくる敵がクリティカルを受けやすいので、低レベルでもアサシンなら火力が期待できる。
フィールド適正は180レベル。190レベルファイターと、カンストビショップが一緒なら回れるだろう。
ふんふんとごきげんな鼻歌を歌う上忍装備のねむ蝉さんについて移動していく。
「えっと、ご機嫌ですね?」
「あ、なんかテンション高くてごめんな?いやー避けアサさんに避けアサシン教えてもらうの超楽しみだったんだよね~」
「……避けアサ、さん?」
いや確かに避けアサシンではあるんだけど、そう呼ばれたことはない。大抵は匿名希望さん、だから。
「あれ、リーダーから聞いてねーの?」
「何をでしょう?」
「セリスちゃん見つけたの、オレよ?」
「へ?」
――――へ?
言われてみればそうか。
サザンクロスが180レベルエリアにいる理由なんて、素材集めかサブキャラのレベル上げだけ。
ビッグノームはあまり終盤に使える素材は出ない。ということはサブのレベル上げをしていたはずで。
サブを一番育てているのは、間違いなく目の前にいるねむ蝉さんだ。
「その内教えてもらお~と思ってスクショだけ撮ってさ。そっから仕事が死ぬほど忙しくてサブの育成できなかったんだよね」
「そうだったんですね」
「ラフェルの時リーダーが避けタンクできないかって聞いてきて、オレはできないけどできそうな人知ってるよ~って教えたの。ああ、勝手に教えちゃったのはごめんな?」
「いえ、さらし目的とかじゃないですし、適正利用範囲だと思います。いつもそんな感じでサブジョブ決めてるんですか?」
「そうだよー。かっこいいプレイしてる人見て、やってみて~って思って作んの」
「ねー君のスクショフォルダ、かっこいいプレイコレクションでいっぱいだにゃ」
「かっこいいプレイスクショはなんぼあってもいいとされていますのでね!」
「お金が有限なことはもうちょっと理解してほしいにゃ?」
「はい、すみません」
慣れたような会話に思わず笑いがこぼれる。
さて、おしゃべりをしている間に樹海に着いた。
「ひとまずレベル上げ優先で、避けアサシンの動きはもう少しレベル上がってからのほうが良いと思います。150レベルで取れるパッシブがほぼ必須なので」
「うぃうぃ、じゃあ行きますか――瘴気のお猿狩り」
にこにこと短剣を構えた彼が、駆け出した。




