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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
十三章 バレンタインのメッセージ

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■-1.姉の呼び出し

『最速でこっち来いって言ったらいつこれる?』


 姉からそんなメッセージが送られてきたのは先週のこと。

 ちょうど週明けは予定がなかったので、今日は朝から車を走らせた。


「久しぶり姉さん。結花ちゃんも、こんにちは」

「来たわね理人」

「ぃひとおじちゃんこんにちわ」

「はーいこんにちは、理人おじちゃんですよー」


 ちょっと見ないうちに大きくなったなー。今3歳だっけ?3歳児ってこんなに走れるんだ。びっくり。

 最近はプリンセスがブームだと言うので、お土産はきせかえくまさんだ。プリンセス風ドレスとティアラがついている。


「くまさんのぷりんせす!」


 結花ちゃんはキラキラした目で服の着せ替えを始めた。

 幸人君はそろそろ9ヶ月。もうひとり座りができるし、ゆっくりだけどはいはいもしている。

 やっべーでかくなったなぁ。前に見た時はまだ猿の親戚だったのに。

 はい、君には噛めるぬいぐるみ。固いオモチャはもうちょっと大きくなったらね。


「相変わらずあんたは手土産のセンスいいわね」

「あー。この手のはドリアン――うちのマネージャーが詳しいんだ。あいつ甥っ子姪っ子が7人とかいるから」

「大事にしなさいよ」

「してるって」

「というかいい加減どっか大きいとこ入ったら?そろそろ個人の規模じゃないでしょ」

「オファーは結構来てっけどなあ。ぱっとしない」

「贅沢ねえ」


 多少以上に贅沢なことを言っている自覚はあるのだけど、良くも悪くも自己責任のこの状況は個人的には比較的気に入っている。

 実質配信者事務所として機能し始めてしまっていて、規模に対して人が足りていないことは、まあ自覚はしているけど。


「ここまで配信業デカくする予定なかったからなあ、あんまり将来展望がないままずるずる規模だけ大きくなってんだよね」

「今40万だっけ?10万超えたら人気配信者って言われてる世界で何言ってんだか」

「それなぁ。5万くらいで程々にやってくはずだったんだけど、どうしてこうなったんだろう」


 こればっかりは本当に首をひねるしかない。

 VRが出る前は、本当にそれくらいの規模だったんだけどな。

 やっぱロイドか?


 しばらく遊んでから、シッターさんが結花ちゃんと幸人君を連れて別室へ下がっていく。


「結花の時はミルクは飲まないし離乳食も食べないしでどうやって体重増やすかって毎日頭かかえてたんだけどねえ」

「抱えてたねえ。栄養資格持ってるシッターさん連れてたよね?」

「そう、もう心配で心配で」

「幸人君はどう?結花ちゃんよりだいぶムチッとしてるけど」

「これ以上はミルクを増やさないようにって」

「極端」

「結花見てきたから、飲んでると安心しちゃうのよね。二人目だっていうのに育児とか何にも分かんないわ」

「人間が育ってんの意味分からんくらいすごいからなあ。ほんとおつかれ。今日はどうする?出かけんなら車出すけど」


 呼ばれた用件はまだ聞いていない。

 外出っていう格好じゃないから、多分違うんだろうなと思いつつ一応聞いてみる。


「違うわよ。見りゃ分かんでしょ」

「まあそうだけど、一応」

「あの人のことよ。悪かったわね」

「――――別に、姉さんが謝ることなんもねーけど」

「あんたのとこのメンバーに迷惑かけたって聞いてる」

「それ含めて、絵理奈姉さんが謝ることはなんもない。クソ親父のクソバカ案件で姉さんに頭下げられんのは嫌」

「そう。じゃあコレは終わり」

「おう」


 姉さんはさっぱりとそう言ってお茶を一口飲む。


「今、配信スタッフは二人だっけ?」

「ん?あー、うん、俺とロイドと、マネージャースタッフが一人と、編集スタッフが一人」

「なるはやでもう一人雇いなさい」

「は?」

()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………」

「…………」

「――――そういや、そうだな。いい加減増やすわ」

「そうしなさい。さて。お出かけじゃなくてあんたの話聞きたかったのよ。そっちの調子はどうなわけ?大型新人入ったとは聞いてるけど」

「あー大型新人ね。入りましたよ。とんでもないのがw」

「ロイ君とどっちがとんでもない?」

「局所的には新人……セリスのほうがとんでもない」

「うそでしょ?」

「マジなんだよー」


 ・・・



「というわけでな」


 帰宅即緊急招集したワークスペースで、ロイとドリアンに顛末を話す。

 二人は揃って難しい顔をした。


「絵理奈さんからのリークか……流石に無視できないな」

「雪が溶ける頃って、あと1ヶ月じゃないですか……」

「それな……まあつまりもう本決まりの何かがあって、俺は断れないわけだ」


 むちゃくちゃ言いやがる。西生寺グループ系の案件はほとんど受けてないんだけど、正気か?


「仕事についてはもう受けるのが決まっちゃってるやつは仕方ないとして、しばらく少し本数を絞る。まあもともと例の件絡みで絞るつもりではあったから、予定通りだな」

「分かりました。もう少し絞り気味にしますね。と言ってももう結構先まで入っているわけですが」

「例の件の進行はどうする?」

「期日を延ばす。夏まで希望だったけど、無理のない範囲で進行しよう。受けちゃってる分の仕事はもう仕方ないから、場合によっては打ち合わせは俺とロイドで分かれて行く」


 ああなるほど、もう一人増やせってそういうことね。


「スタッフの増員、結構しんどいよな」

「まあ、管理規模が大きくなってきたので増やしてもいいとは思っていた。ちょうどいいんじゃないか?」

「今から人募集して面接してってのが間に合わねえ。どうすっかな」

「それについては、知り合いを推薦してもいいですか?」

「ん、ドリアンの?そりゃもちろん」

「知人がもう転職したい転職したいと耳にタコができるほど言っていまして。口の硬さと人柄は保証します。私と同じくらいは仕事できますよ」

「ドリアンと同じくらいって本気か?お前自分に超引き抜き来てるの知ってる?」

「知ってますけど、最低でもここより良い給料出してもらわないと話にもなりませんよ。あと優秀さで言ったら下手したら私以上です」


 最初にドリアンを札束で殴ったのは正解だったな。

 で、お前以上、ねえ。まあドリアンはちょっと謙遜しすぎる面があるから、あんまアテにはならんけど。


「とりあえずドリアンの初年の給料基準にして……こんなもん?ロイ、経営状況的にはどう?」

「とりあえずの問題はない。必要なら出せる。ただ、うちは普通の職業とは大分違うし、ストレスも結構かかるぞ」

「金払いが良ければあとは大丈夫ですよ。その知り合い、びっくり箱って言うんですけど、面接いります?」



 ――――めっちゃ身内じゃねえかよ!



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