12-6.トップレンジャーと超越
『なぜだ』
フィツィロの声が響く。
チャージが効かない。ステータス画面も開けない。流石に終わりだろう。終わったよね?
『なぜだなぜだなぜだなぜだ』
翼がボロボロと崩れていく。長い尻尾が急速に劣化し、塵となって風に舞う。
『キサマらのような、成り損ないなどにいいいいいいいいいいいいいい』
悲鳴のような叫び声。直後にぐしゃりと全ての体が潰れて、
ずっと視界の隅にあった『フィツィロを打ち倒せ』に、CLEARアイコンが光った。
「「「っしゃああああああああああ!!!!!」」」
リーダーとロイドに駆け寄って手を合わせる。バチンと派手な音が鳴って最高に気分がいい!
っとと、しまった、先生大丈夫か!?
「先生大丈夫!?」
「あー…………わるいんだけどちょっと待ってくれるかい、頭動いていない…………」
「少し休ませてくださいね」
完全に座り込んだ先生の横で、まりもさんも寄り添うようにしゃがみこんだ。
「お疲れ様です」
「セリスもおっつかれー!」
差し出された手にぺちんと控えめな音が鳴る。
「すみません、奥義出遅れました」
「あーいや、あれが正解だったと思う!」
「流石にあの残りHPで上級奥義3連打で落ちないのは考えにくい。おそらくだが、ラストアタック用のダメージロックだろう」
「なんでまあ、セリスのあれが結果的には正解でしょ」
「……あれ?ということは、私演出何か飛ばしましたか?」
「それは、まあ、うん。多分」
「第二形態すっ飛ばしてるから、それはもう今更でしょwっと、録画……え?配信止まってない」
「というか、エンドロール来ないですし、ストーリーの続きですかね……ああ、来ました、うさぎさん」
序盤で蛇が引き抜かれ、どこかへ逃げていったウサギが戻ってきた。
名前が変わっている。マニ。……あー、欠けた月か、発音違うけど。太陽に侵食されてた月で、ソマニか?
『感謝を――あなたが最初に私に気付かなかった時はもう終わりかと思っていました』
そういうストーリーだったの。20回討伐してることは許して。
『器は、育ったようですね』
おうさ。レベルカンストやぞ。
『今のあなたになら、御せるでしょう』
懐が輝き、ストーリーで取得したアイテム、ソマニの欠片が目の前に浮いた。
『選びなさい。どうなりたいのか』
ソマニの欠片の周囲に色が浮く。
赤い色、武技の力
紫の色、魔術の力
青い色、俊敏の力
緑の色、守護の力
黄の色、支援の力
――――え、これ…
「これさ」
「うん」
「いわゆる"取り返しのつかない要素"ってやつ?」
「まー、最悪サブキャラでやり直せるとは思うけど……」
「選んじゃっていいですか?」
「ん、いいよ、セリスはどれにする」
「俊敏の力です」
「ま、そうなるか」
セリスが、明るい青色に輝く光を掴み取った。
「じゃあオレも」
ま、いっか。最悪やり直す。いつものこといつものこと。
オレも青色を掴む。足で稼ぐレンジャー、好きなんだよね。
「私はこれだな」
「私も、これです」
先生は守護の力、まりもさんは支援の力を選ぶ。
「まあ、俺はこれ一択だが」
ロイドが魔術の力を選び取る。
リーダーが、選択肢をじっと見て、言った。
「ロイド」
「ああ」
「お前と組むには、これだろうなって思ってんだけどさ」
「気にするな、好きに選べ。後のことはなんとかする」
「……そか」
「どれにする」
「俺さ」
「ああ」
「やっぱ、アタッカー好きなんだよ」
リーダーはそう言って、赤い光を掴んだ。
全員が選んだことでソマニの欠片が青く輝いて……マニの祝福(俊敏)というアイテムに変わった。
『どうか彼を救って……世界に安寧を』
視界がセピアに染まる。
大勢の武装した人たちが並び、その中にオレや、リーダーやロイドや、セリスや先生やまりもさんっぽい見た目の人も居る。
『偽りの太陽を落とせ!』『真実の太陽を取り戻せ!』『尊厳を取り戻せ!』『これ以上■■■■■■■■!』
わあああああという怒声にまぎれて最後が聞き取れない。
武器を掲げた人々が一斉に蜂起し……
視界の色が戻ってきた。
いつの間にかウサギもいなくなっている。
「こっからは考察ギルド行きだな」
「だな」
「ってか配信止まってるわ。どこで止まったんだ?」
「運営的にはマニの祝福を得るところまでは流したいんだろう。そこじゃないか?」
「じゃあ今一瞬切れただけか。あー、どうすっかな……っと、運営連絡来たね――は?」
オレのところにもメッセージが届く。
いつものボス初討伐に名前を載せるかというやつかと思ったら、これは……
「公式PV化の許可……え、えええ?」
「こちらは許可を出したよ」
「え、先生いいの?」
「もちろん、光栄だね」
「先生がいいなら構いません」
「ま、ですぺな側がいいならいっか」
許可ボタンぽちっと。
「配信業なんて目立ってなんぼだしな」
「こちらも許可押しました」
「ちょっと楽しみだねw」
「ストーリー扱いで、ランキングはなしですかね」
「かもしれないな。それならそれでもいいだろう」
さて、この後じっくりとこのチュートリアルに追加された「超越」ってやつを読み込まないとっすねえ。
「超越はあとでゆっくり確認しよう。一瞬配信再開するね。――――はーいおまたせ!いやいつもの!ストーリーモードで勝手に切れるやつ!ということで、フィツィロ討伐完了しました~!」
「結構きつかったな。人数で強さが変わりそうだ。流石にあのボスをソロやペアで討伐は無理だと思う」
「ま、そのへんは検証やってる人たちに頑張ってもらいましょ」
「フィツィロの出現解説は……すまないが、俺達ではできない。アルマジロ先生とセリスが解いたので、二人の解説が要る」
「解説は構わないんだけど、休憩させてほしいんだよね」
「だよね。それなりのしんどさだったから。ってことで、今時間も微妙だしさ。午後にでも別枠取るよ。先生呼んでいい?」
「もちろん、お呼ばれしようか」
「セリスは時間平気?」
「今日ならいつでも大丈夫です」
「はい、ってことで、考察やボス解説は午後やります!この枠は一旦切るね!突発だったけど見てくれてありがと~!それじゃあオツカレサンシタ~ばいばいっ」
カメラアドオンが光を亡くして消滅した。
「はいほんとに終わり、おつかれ~」
「午後は14時頃に打ち合わせさせてもらっていいですか?配信は15時くらいで」
「ああ、分かった」
「私はいかなくてもいいでしょうか?」
「いてもいいのよ?」
「何も喋らないでカメラに映ってるのもちょっと……」
「そっか、じゃあまりもさんは不参加で」
サクサクと午後の予定を決定して行く。
話が概ね終わったところで、少しばかりアルマジロ先生に近づいた。
「ジロちゃん」
「…………その呼び方、やめろって」
「ニャオ姉がやめたらやめるよ?」
「一生やめない気かよ」
ほんと、先生モードとオフモードで全然口調違うのよな。
「あのさ、聞きたいことがあって」
「うん?」
「そのスタイル、ほんとにジロちゃんがやりたいの?」
「……」
「ジロちゃんがやりたいなら、まあいいと思うよ。皆納得してんならオレが言うことじゃないし。ただ、うーん、言葉にしにくいんだけど、らしくねーなって」
「らしくない、か」
「うん。逆なら分かるんだけど、そっちはらしくない」
自分を犠牲にして生徒が遊べるようにする、なら分かる。でも、生徒を犠牲にして自分が遊べるようにする、は分からない。
この人はそういう人じゃないと思ってる。
「そう、かもな」
自嘲気味にそれだけつぶやいた目の前のくまさんの肩を、ぽんとたたいた。
「ちゃんと話せよ。早めにさ」
「浮気を疑われて泣きついてきた男は言うことが違うな」
「その話は忘れてもらってもいい?」
ちょっとEFOが楽しすぎて、直帰の日にネカフェで遊んじゃってただけなんだよ!
「本当に何で俺のこと巻き込んだの?自分で誤解解けよ」
「嫁さんが完全冷戦モードで話聞いてくれなかったの!仕方なかったの!!一緒に大剣やってたんだからいいだろ!」
「よくないだろ独り身を挟むな」
「既婚者挟むよりはマシだろ!?」
「……なんか思い出したらちょっとムカついてきたから今度一杯奢れ」
「わーかーりーまーしーたーよー!」
「あとな」
「なんだよもう!」
「心配、してくれてありがとな」
「……おう」
ジロちゃん――アルマジロ先生は、少しばかり凪いだ笑顔を見せた。
「ねむ蝉~、せんせー、そろそろ解散しちゃうけどいいー?」
「ああ、OKっすー」
「うん、こっちも一旦落ちるよ」
「じゃあまた後で!午後にもう一回招待送るね」
「待ってるよ」
全員がログアウトして、俺も、嫁さんの待っている現実へ戻った。
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事情を聞いたギルド員「ヒャクゼロでねむ蝉が悪いからさっさと土下座してきなよ」




