12-4.トップレンジャーとロマン構成の向こう側
「え……それ俺等聞いてよかったやつ?」
リーダーが若干頬を引きつらせて聞く。
いやほんとに、それオレら聞いてよかったの?明らかにPvPの急所だけど。
「まあそろそろ隠し通せないなと思ってはいたよ。ボスがレイの一撃で落ちなくなってきてね……。ただね、セリスさん、学校で習っていると思うけれど、気づいたことをすぐに言ってはいけないよ」
「え、あ……すみません、私、その、専門の学校には、行っていなくて」
セリスが体を縮こませて目を泳がせる。先生の顔がすっと厳しくなった。
なにか虚空を操作する。セリスも何か触れるように動いて、二人の息遣いの音が会議室から消えた。ウィスパーモードに入ったらしい。
「え、セリスギフテッドってマ?」
リーダーとロイドに顔を近づけて小声で聞く。
「いや、ごめん俺も知らない。高校は名門校だけど、普通校だし……」
「雰囲気は近いとは思うが、俺もリーダーも本物には会ったことがない」
「あれ、お前は?」
「俺も普通校だ。検査も受けていない」
「マジかよ」
「てかロイドが施設通ってたら俺とは会ってねえって」
「そ……っか」
セリスを見やる。
何か先生と真剣な顔で話し込んでいる。
少し離れた場所でまりもさんが所在なさげに座っている。
「あーまりもさん」
「えっ、あ、はい」
「答えられなかったらそれでいいんだけど、もしかしてブレイザー君のあのスタイルって、戦闘時間コントロールのため?」
「……そうです。絶対に全ての勝負を5分で終わらせるためです」
「とんでもねえな」
たった一人のためにそこまでするのか。
「あのスタイルができるのが、レイ先輩だけなんです。真っ暗な中で戦闘音だけ聞こえて、本当に全滅したときのためにきちんと状況を拾い続けるって、本当に怖くて、誰もできなくて……先輩だけ、最後まで絶対に動かないでいられる」
「まー最序盤で話題になって、一瞬で廃れた構成だからな……」
「俺もあれは無理だったな」
「ロイド試したことあんの?」
「ある。初めてブレイザー先輩の戦闘を見た時に本気でその手があったかと思って……2分が限界だった」
「それ、ブレイザー君が選んだスタイルなんだよね?」
「そう……です、先生の隣は絶対に譲らないって、いつも言ってますし」
「彼女の横で言うセリフじゃねえええええ」
お前この可愛い彼女差し置いてそのセリフはEFOに1000人はいるまりもファンから刺されるぞ。
あとこれは経験者からのセリフだけど、そういうのは結婚した後で言われるぞ……。
「まあ、ゲームの中だけなので、それはいいんですけど」
「いいんだ……」
「対人戦考慮してバレット使えないフリをして、構成のせいで素材集めとかにあまり参加できなくて、それでも先生のためにずっとあの構成なんです。それくらいは聞くべきです」
「いや、そこまでいって恋人の君も納得してんなら、もう先生のパートナーとか先輩だけじゃん……ギルド的にもサブリーダーだし」
「そこまでゲーム生活を犠牲にしてるなら、周囲もそうするしかないと思うが……」
「そう……なんですけどね」
まりもさんが左腕の腕輪を握りしめた。
グレゴール……じゃないな、モントリーの腕輪か?ちょっと古い装備だな、ですぺならしくない。
「みんな、そう思ってると思ってたんです。最初の乱痴気騒ぎが終わって冷静になったら、落ち着くだろうって」
「乱痴気騒ぎが終わんなかったやつ?」
「終わっても誰も冷静にならなかったやつですね」
「「うーん……」」
「もうまりもさんが結婚しちゃったら?先生がフリーなのが問題なんでしょ?」
「ゲームでも、教え子の女の子との結婚は勧めないでくれるかな」
いつの間にかウィスパーが解除されていた先生が話に入ってきた。
「ごめんね、時間をもらった」
「どーぞどーぞ、ってか先生が先輩指名しちゃえばいいじゃん」
「誰も聞いてくれないんだけど……私はそもそも結婚したくないんだよ」
「そういうもん?」
「そういうもの」
「うーん……まあ、一旦やめよう。相談あったらいつでも言ってよ。とりあえずそっちの話は終わった?」
「一応終わったよ」
「お時間取らせてすみません。大丈夫です」
セリスの顔を見る。特にいつもと違う感じは受けないから、大丈夫かな。
「で、先生どうする?行く?配信に映っちゃうから、無理にとは言わないけど」
「いやいい機会だ。行くよ。編成は先程セリスさんが言った通りでいいだろう。途中脱落があり得る、そこだけは、申し訳ないけど許容してもらえるかな」
「もっち」
「クリティカル、どちらだと思う?」
「クリティカル無効はありえません、大丈夫です」
「ありえませんなの?」
「ストーリークエストの続きですから、ソロクリアサが詰むボスはありえません」
「なるほど、言われてみりゃそうだ」
「チャンネルは18番が一番空いている」
「じゃあそこだな。装備変える人は今やっちゃってくれ」
月桂樹を目印に決まった通りのルートを進む。20回もやってるルートなので、もはや目を瞑っていても道順が分かる。
最序盤ストーリーエリアは探索し尽くしたとばかりに本当にさっぱり人がおらず、無人のフィールドを進んでいく。
先導していたセリスが、ボスエリアの手前で止まった。
「配信開始はここからがいいと思います。すみませんが、スタートから10秒、私にください。多分ですが出現ギミックがあります」
「了解」
「承知した」
「まりもさん、お手数ですがヒールをいつでも打てるように準備をお願いします。場合によっては私が即死するので……身代わりチャームは持ってますが、念の為。初手はイカサマダイスを使いません」
「何をするんですか?」
「――――蛇を、引き抜きます」




