12-3.トップレンジャーと太陽と月
「…………」
「…………………」
「……………………………」
「―――――え?」
「ふっくく、セリスさん、その考察は、実はあまりネットにも上がってないんだ。ふくく……」
急にぶっこまれたラスボス話に絶句するオレ達を横目に、アルマジロ先生だけが耐えきれないとばかりにクスクスと笑う。
え、先生のその反応はまじでアタリなの?え?本当に?
「図書館には行ってないと言っていたけど、大会の後で行ったのかい?」
「え?あ、いえ、実は忙しくて、行けていなくて……」
「おや、それは是非考察を聞きたいな――図書館にいかないで、どうやってその結論になったんだい?」
「――空に輝く満点の星に」
空に輝く満点の星に
海原に映る至高の月に
大地に遍くすべての英霊に
我らの心の誓いを記す
すべての英雄よ笑覧あれ
この旅の道行に対の耀きよあれ
我が片翼よ、対となりて双翼となれ
死が二人を分かつまで
「えーと、結婚の宣誓?」
「はい。これ、おかしくないですか?」
「え?どこが?」
「何で星と月には誓うのに、太陽に誓わないんですか?何で通常の照らし覧るではなく、笑い覧るなんですか?なんでEFOの昼の空に太陽がないんですか?何で――――プレイヤーのスキルと装備に、太陽関連のものがないんですか?」
慌ててスキル一覧ページを開く。
長い長いスキルリストを検索で引っ掛けていく。
太陽、日、陽、サン、ソル、ソーレ、ソレイユ、ラー、タイヤン、シャムス……え、マジだ、ない。
一部ラージスパインなどが引っかかるけど、太陽を意味するものは本当にない。
EFOの空に太陽は確かにないけれど、明るいし、時間経過で影の位置が変わったり夕暮れになったりするのであまり気にしていなかった。
瞳をちらつかせる光源があるとプレイしにくいから、単に配慮だと思っていた。
「太陽を表す神殿がないのはどうしてですか?普通、神話で最初に信奉されるのは太陽なのに」
「それを言ったら月の神殿もないが……」
「月の神殿はあります」
「月の神殿はあるね」
ロイドの疑問にセリスさんと先生が強めに答える。
月――の、神殿、あったっけ?
「え、ごめん俺覚えてないんだけど、月の神殿ってどこ?」
リーダーが真剣に考察サイトを睨みながら言った。
オレだけじゃなかった!
「ボートタウンの、転職の神殿です」
「最奥の一番古い像が珠を抱いたウサギだったよ」
そんなのあったか?え、やべえ40回お世話になってるのにさっぱり覚えてない……。
「そんなのあった……?」
「えーと、一度転職を断るか、二次職まで転職しきってから行くと見学ができて、それで入れる部屋の中にあります」
「ウサギの像が正しくはこの神殿の神像だっていう話をしてもらえるよ。最奥から動かせなくて、レプリカを作ろうとしたらなぜか壊れてしまうって言っていた」
「あれが正しい神像なら、あそこが月の神殿のはずです」
「――あ、あった、小ネタWikiにある」
「小ネタ扱いか……結構クリティカルストーリーだと思うんだけどな」
「ゲーム進行上は必要ないですからねぇ」
う、うーん……レベリングだけじゃなくてこういうネタもちゃんと拾ってねっていう運営の意思を感じる……。
「で、太陽に関する書物だね?」
「はい」
「なかった」
え?
「え?」
「は?」
「一冊も、なかった。少なくとも閲覧可能図書には」
「おかしいです」
「それは……この世界に太陽はないってこと?」
空には太陽相当の光源はないから、太陽という概念自体がないというのは……ギリ、ある?
「いえ、太陽か、それに相当する概念はあるはずなんです。ないとおかしいんです」
「なんで?」
「"この旅の道行に対の耀きよあれ"――対の耀きです。月と太陽でしょう」
「やべえ、結婚の宣誓って結構重要なのか?」
「プレイヤーが神様になにか誓うの、結婚だけですからね……ウェディングシステムの説明欄に宣誓文が全文載ってるんです。結婚しないプレイヤーも見れるようになっています。なので、多分読めということですね」
レベリングだけじゃなくてこういうネタもちゃんと拾ってねっていう(以下略)
「誰かが、太陽を隠した、とかでしょうか」
まりもさんが真剣につぶやく。
「おそらくですが、太陽を倒して成り代わった、だと思います。太陽が隠されただけなら、太陽に関する書物を隠匿する理由がありません」
「信仰によって力が強くなったりする場合、太陽を呑んだなにか……推定ラスボスだから、邪神とでも呼ぼうか。邪神に信仰を与えないために太陽に関するものを隠すというのは一応理にかなっている。あり得る流れだね」
「月も空には浮かびませんし……水面にしか映らないんですよね。神秘的ですけれど、なにか邪神関連の意味がありそうです」
なるほど……なるほどな……すげえな、ふたりともそれだけの話でわかるんだな。
「ラバーダックって本当に効果があるんですねぇ」
「あるよ、うちには本当にアヒルを置いている。なにか分かったかい?」
ラバーダック、あれか、なにかに向かって話すと頭が整理される、みたいなやつ。
「フィツィロの場所が分かりました」
!?!?!?!?!?!?
「え、マジ?」
「あ、えっと、多分、ですけれど」
「どこ?」
「ヘロズタウン横の、試練の山林です」
「そこはすでに散々別ギルドが探している」
「いえ、探しちゃいけないんです。進むためのルートが決まってるし、多分ですが、ギミックもあると思います。チュートリアルボスの、ソマニ――――EFO最初のうさぎ型モンスターのところです」
月の神殿の神像がうさぎで、うさぎ型モンスターのとこか……まあ、あるかな。
「一番人数の少ないチャンネルに移動して、行こう。配信もする。先生たちもどう?」
「まりもは行ったらいいんじゃないか?私は……」
「お時間がありませんか?」
「いや、時間は問題ないんだけど……正体不明ボスだと足手まといになる」
「先生が足手まといとかありえないけど?」
「…………レイがいないなら、ちょっと厳しいね」
「……」
まりもさんがきゅっと唇を結んでうつむいた。
「――――グライドさんは、今日はいらっしゃいませんか?」
「今大学の試験期間。平日は厳しいって言ってた」
「分かりました、私が避けタンクやります。リーダーさん、ロイドさん、ねむ蝉さんはいつも通りヘイト譲り合ってください。アルマジロ先生、私はまだ細かいヘイト管理ができません。サブタンクでヘイト管理をお願いしてもいいですか?必要以外のタイミングは下がっていただいて、まりもさんのガードだけお願いします。まりもさんは通常通りヒーラーで……どうでしょうか」
セリスがぽんぽんと配置の話をする。
「先生がサブタンクでいいの?」
リーダーが先生を気遣うように言う。
先生差し置いてメインタンクやるって、なかなか度胸いるよね。
「その方がいいというか……そうするしかないというか……アルマジロ先生は、実際、どれくらいもちますか?」
「――――本当に、天才ってやつは度し難い」
セリスの気遣うような声音に、先生が聞いたことのない低い声で言った。
え?ギフテッド?え、マジもん?
「え、あ……すみません……余計なことを……」
「どゆこと?」
オレの問に、先生が難しい顔で答えた。
「私は、継戦能力が低いんだ。5分しか保たない」
この「笑覧あれ」、複数人が誤字脱字報告送って下さいましたが誤字じゃないです(ようやく言える)




