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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
十一章 トップファイターの呼び出し

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閑話 匿名希望アサシンを倒せ! - おるのげーむちゃんねる 下

「ほいほい、ねんねんねころ、サブのセージで行くよ~よろしっくう!」

「ねころさん、よろしくお願いします」


 眼前の少女が短剣を手にする。マデランで来るとばかり思っていたけれど、どうやら宵闇の短剣らしい。この「どの装備が来るかわからない」というのも、彼女の強さの一つだ。火力特化でも、速度特化でもない、テクニカルな判断が要求される。

 ただ今回はアルマジロ先生に倣って、こちらのアクセサリーもトパーズリングセットに耐毒エンチャというメタ装備なので、そうそうやられるつもりはないけどね。


 視界の隅でカウントダウンが走る。

 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1


「イカサマダイス アジリティアップ」

「ファイヤーアロー!」


 ご挨拶のファイヤーアローがかわされる。

 とにかく8枚とかいう反則級の無敵判定を剥がさないと何も始まらない。低火力でもいいので連射が可能なスキルをバンバン打ち込んでいく。


 ――――どういう動きをすればすべて避けられるのか、ぜひとも解説していただきたい。できれば今。


「ファイヤーバレット!」


 さあ俺の十八番。行って来い!


 火の玉4球がぐるぐると回転し、一つの大きな輪を作る。

 4つまとめて1つとして意識にいれることで、常に回転させながら当たり判定の広い攻撃として運用できる、通称バレットリング。

 大きな輪になった炎がフィールドを駆け出した。


「スローインダガー」


 ナイフが火の輪に投げ込まれる。

 外周を逃げ続ける彼女に対し、こちらのバレットリングは内側を移動するので、この調子で追いかければギリギリ追いつけそうだ。


「シャドーダガー」


 小さな影がまた火の輪に吸い込まれた。


 後ろに逃げながら複数のスキルがバレットリングに吸い込まれていく。

 ……あ、え、これやばくない?


 いくつか目のスキルで、とうとう相殺で火の玉が1つ消えた。

 入れ込んだ操作が空振りし、輪の回転が乱れて、1つ落下する。

 慌てて回転を止めて通常のバレットとしてセリスさんを追いかけ回すも、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()絶妙な速度で鬼ごっこを開始した。


 完璧な時間稼ぎだよ!すげえな!


 バレットを捨ててまたアローを連打する。

 いやこれ、失敗するたびにバレットリング作り直すほうが良さそうだな。


「メテオバレット!」

「奥義 真理の刃(ヴェリタス)


 彼女が奥義で突っ込んできて、バレットリングが無惨に散った。

 いや!次!


「サンダーバレット!」


 彼女は雷がバチバチと弾ける輪を少しだけ眺めて、それからすぐに追いかけっこを開始した。




 背筋が冷えるような、腹の奥がぞわりとするような、嫌な感覚がする。

 いや、え、おかしい。ぜんっぜん追いつかない。

 さっきのファイヤーバレットリングのときはギリ追いつけそうだったのに、なんだか追いつける気がしない。

 ばちばちと弾ける雷のエフェクトが視界に踊り続ける。

 彼女の動きも妙だ。先程から全然攻撃してこない。バレットリングがそのまま、発動し続けている。


 逃げ回っていただけだった彼女がぐるりと大きく円を描きながら、いつの間にかこちらに迫ってきて。


「ソニックダガー」


 至近のスキルを受けて、HPが半損した。





「おーいねころやられてんじゃん」

「すみません!大丈夫でしたか!?」

「いや、えーと、ごめん俺なんで負けた?」

「ふつーにソニックダガー至近喰らいしたよw」

「まあセージの耐久じゃちょっと難しかったな、ソードマンなら耐えたと思うけど」

「あの、大丈夫ですか?ログアウトしますか?」

「いやセリスさん焦りすぎwどうした」

「いやだって、一番勝てる方法とはいえ……ご無理をさせました」


『ねころ後半なんか動き変だったよ?』

『疲れた?』


「さすがに5分……保ってないよね?2,3分くらいだった?でつかれないと思うけど」

「いえ……あの、ねころさん、サンダー系使っているとき、他のバレットより疲れていらっしゃいます」

「へ?」


 パードゥン?


「サンダーバレットだけ、操作が少し遅いんです。多分ですけど、雷のエフェクトを見続けるの、苦手なんじゃないでしょうか?」

「………………え?」

「ああ、それはロイドも言ってたね」

「ちょっと待てそれは教えろください」

「むしろなんで気づいてないの?」

「教えて下さいほんとにお願いします」


『そんな普通気づいてるよねみたいな言い方しないで』

『(リスナーも気づいてないんだけど……)』


 え、サンダーだけ遅い?そんな事ある?


「サンダーバレットでリング作っていたので、これで鬼ごっこをし続ければ捕まらないし、ねころさんが落ちることはわかってたんです……すみません、あの、本当にお辛くないですか?」


 ちょっと待て、話に頭がぜんぜん追いつかない。

 追いつかないけどここで謝罪合戦させるのはだめだ、今配信中!俺配信者!


「えーと、とりあえず疲労は大丈夫っすー!サンダーの件は後でロイド呼び出して聞き出しまっす!」

「よかったです……」

「さて、連戦いける?」

「あ、はい行けます」

「マジ意味わからん。まあいいや、じゃあ行こっか、エキシビジョンマッチ二回戦!お相手は俺!おるくんでーす!」





 カウントダウン音声が流れて、おるとセリスさんが駆け出す。

 頭上に光る2つのサイコロ。手には配信で事故ってリーダーから渡されたマデラン。

 移動速度はアサシンのほうが速いが、せませま1on1フィールドだとまっすぐに逃げるとすぐ壁が来るので逃げ切ることが難しい。

 比較的至近で発動したランナップソードが、早速彼女の無敵を一枚剥がした。


「さっすが」

「通常フィールドだったら逃げ切れたなー」

「まあ通常フィールドを駆け回るアサシンを5分で捕まえるのは流石に無理めなんで、せませまフィールドなんだけどね」

「セリス、スタミナ管理上手いからな。あんまり速度落とさないでずっと走れる」

「あれすごいよね」


 本来走り続ければあっという間に枯渇するはずのスタミナが、どう誤魔化しているのかずっと切れずに走り続けているように見える。


「ギリギリ徒歩判定になる小走り……競歩かな、それで移動してるタイミングがあるんだよ、ほら、今競歩になった」

「ん、んー……?」

「方向転換タイミングで競歩にすることで、移動速度にはあんまり影響ないようにしてる。あとはスキルの停止もうまく使ってるね」

「すげー」

「通常のスキル回しとはまた別の研究方向だなぁ。避けタンクやるなら必須かも」

「お、二発目入った」

「通常攻撃だったな、カスりだったけど、あれは避けられんわ」

「えーと、最大が紅茶の6枚抜きだったはずだから、あと4枚は抜いてもらわないとっすね」

「こうしてみると、逃げに回ったアサシンに完全無敵8枚ってやっぱ反則よな~」


 リーダーと喋りながら、時々スキル解説を挟んでいく。

 やはりなにか疲労のようなものがあったのか、腹の下に溜まっていたざわつきが収まっていくのがわかる。


「3枚目!」

「いまのは惜しい!もうちょっとで二枚抜きいけた!」

「セリスの避けが上手かったねー、とっさにジャンプブースト使えたのは強い」

「くう、ハイジャンプ強いなー!」

「劣化ハイジャンプ配って欲しいよねー」

「それはまじでめっちゃ思う」


 おるの一閃の先端がかすった。4枚目。

 スタミナ切れか、明らかに遅い歩きを数歩。その間に追加の通常攻撃が入る、5枚目。

 通常攻撃のすれ違いにセリスさんからの攻撃も入る。だけどおるの装備もトパーズシリーズ、一瞬だけ腕が黄色に光ったので、麻痺無効が1枚剥がれたはずだ。

 スタミナが回復したのかまた走って距離を取る。おるの走りがだんだん洗練されてきた。外周を走るセリスさんに、やや内側を走って追いついていく。

 追いすがるようにランナップソード。6枚目。

 時間はあと2分。いけそうだ。


 急に、彼女の動きが変わった。

 不規則に反転したり中央を突っ切ったりしていた走りが、外周をゆっくりと反時計回りに回り出す。


 おるを視界から外さない、後ろ向きのゆっくりとした走り――というよりは、もはや歩いている。

 彼は警戒しながら、だけど最終的にはまっすぐ最速ダッシュで追いに行った。


 おるのスキルは――五月雨斬り。


「あーあ、引っかかっちゃった」


 横からリーダーの声がする。

 セリスさんの左手が虚空を撫でて、



 ()()()()()()()()()()()()が、五月雨斬りの隙間に入り込んだ。







「あっっっっっぶねええええええええ」

「負けちゃいましたぁ……」


『負けちゃいましたぁじゃねえんだよな』

『急に武器替わって変な声出た』

『そうだよこの子武器チェンファイターできるんだった……』


「武器チェンファイターはできるというほどはできないです」

「あの、大真面目に聞きたいんだけど、ずっと装備画面開いてた?」

「はい、開いてました。ソードマンは後ろから攻撃が来ないのでいけそうだなって思って」

「やべえ訳わからんオブ・ザ・イヤーを更新された」


『装備画面開いてたら歩くのすらきついんだけど……』

『※特別な訓練を受けています、真似しないでください』


「アンチクリティカル持ってきてたかー」

「クリティカル率一応こちらは100%なんですが、おるさんのアンチクリティカルおいくつですか?」

「50」

「うーん……二分の一で負けてしまいました」

「え、一応聞くんだけどそのアルディアナ自前?」

「いえ、ニンカさんのです」

「借りてきたの?」

「連戦企画だって言ったらまた押し付けられました」


『ニンカちゃんがいつでも武器貸せてちょっと羨ましい』


「最後ってどうしてあの動きしたの?」

「えーとまず、マデランで通常攻撃した時に多分10%ちょっとくらい入ったんですよね」

「そーだね、録画確認しないと正確には分かんないけど、10%ちょい、15%はいってないくらいだった」

「なので、アルディアナでクリティカル入れば50%突破するな、と思いまして」

「あー、クリ時攻撃上昇あるもんな、アルディアナのが攻撃力補正高いし……えーと、多分いける」

「でも、ジャスガされるとだめなんです。カウンターで無敵1枚持っていかれちゃいますし」

「それはそう」

「残り2分逃げ切るのは無理そうだなというのもあって、倒したかったので、ジャスガされない方法を考えてて。そうするとやっぱり五月雨斬りが一番スキル挙動が長くて通常攻撃を挟みやすいんですよね。無敵の間に通常攻撃を当てられれば倒せるなって。だけど、無敵3枚残ってると多分五月雨斬り打ってくれないんですよね。2枚だったら打ってもらえるかな?ってことで一旦ランナップ受けて(・・・)1枚切って、五月雨斬りを()()()()()()()っていう状況にしました。正面向いてゆっくり目に動いていればそのうち来るだろうと思っていましたので……」


『悲報:おるくん誘導に引っかかる』


「ここまで見事に誘導引っかかってると笑いも出ねえよ50%でクリティカルもらってたら負けてたし」

「リーダーは誘導気づいてたよね?」

「そうなの?」

「おるが五月雨斬り打った瞬間に"あーあ"って言ってた」

「そりゃ気付くよ。視線が装備画面開いてる感じだったし」

「…………後でもう一回録画見る」

「おう、頑張れ」


『やっぱサザンクロスって天才の極星だわ……』


「アンチクリティカルって強いですねえ。PvPのアサシンの方たちがクリティカル率150%とかにしてるのって、こういうことなんだって思いました。逃げ切れなかったことも含めて、完敗です」

「全然"完"敗じゃない。辛勝だった。けどまあ!勝ちは勝ちってことで!」


 おるがインベントリから短剣を取り出す。


「こちら勝者の権利――"アルディアナの瑠璃柄短刀をプレゼントする権利"です。受け取っていただけますか、お嬢さん?」

「――――え?」


『お前も用意してんのかよwwwwwww』

『キザったらしいぞ!!!wwww』


「あ、えっと……」


 セリスさんがちらりとリーダーを確認する。彼が小さく頷いて、それでもう一度おるを見た。


「ありがとうございます。謹んで拝領いたします」


『88888888』

『8888』

『うーらーやーまーしーい~~~~~』

『プレゼントするつもりで作ってたアルディアナがごみになった……』


「リスナーにセリスガチ勢いるのがじわじわくるw」

「アルディアナは普通に使えw」

「あの!お気持ちだけで!お気持ちだけで本当に大丈夫ですので!」

「さって!時間だ!」

「お、ホントだちょうど二時間くらいか」

「それじゃあ、セリスさん感想どうぞ!」

「あ、えっと、色んな方のスキルが見れて楽しかったです!おるさんがとてもお強くてびっくりしました!」

「ありがっとう!明日夜に感想会するよー。オルタナティブの15人からの感想はその時にね~」

「わ、たのしみです!見ます!」

「きてきて~コメント書いてくれたら優先的に読むから!」


『セリスさんのコメントも見たいから是非是非!』

『感想戦も見に来なきゃ……』


「それじゃー今日の配信はここまで!」

「オツカレサンシタ~」

「ご視聴ありがとうございました」

「まったねー!ばいばいっ!」


===== この配信は終了しました =====


※おるくんはセリスが最初からアルディアナを持っていたら、五月雨斬りは絶対に使いませんでした。

武器チェンジアタッカーなんてこの世に一人しか存在しなかったので、武器チェンジありきの誘導にはトラキチとリーダーを除く全プレイヤーが引っかかると思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 駆け引きというか、引き出す事一点を体得しただけでエグさが酷い事にw とらさんも後輩というか右腕候補にとんでもない物渡してるんか それはそれとして全抜きするような事になってたら、強さ議論系の…
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