3-1.トップアサシンとEFO
暴言・シリアス描写があります。
『ってかサザンクロスってアサシンいたよね?』
『いるよーニンジャちゃん』
『なんで匿名希望サン呼んだの?』
『あの子に避けタンクはムリっしょ』
『DPMは最強プレイヤーなんだけどねぇ』
『ぶっちゃけ他メンバーのプレイヤースキルに乗っかってるから最上位なだけだし』
『サザンクロスメイン盾のヘイト管理ネ申だからな』
『リーダーとロイドさんの管理もさすがトップって感じだしね』
『組んだのがあのギルドじゃなかったらトップどころか中堅になれたかどうかすら怪しい』
『DPM最強(笑)』
『まああの火力はすごいよ。火力特化で他何もできないけど』
『結構辛辣wえっと、回避とかできない感じの人なの?』
『回避もできんし、ヘイト管理もできん。
火力高すぎて敵意の塊貫通してヘイトが向いちゃって、避けられないから即死する。
サザンクロスに拾われる前は野良アサシンだったから色んな人と組んでたんで、掲示板ではボロカス言われる。
俺も組んだことあるけどヘイト管理する気のないアタッカーと組むのはもう御免だわ』
『あいつ回避とかできんの?』
『いやー見たことないっすね。俺も1年前くらいなら何回か組んだけど』
『あいつ入れて何回もパーティー組めるのは心が広すぎる。普通1回でブロックリスト入れるだろ』
『女の子はブロックしないことにしてる。3回目くらいでイツメンの一人がブロックしたからそれ以来組んでない』
『ニンジャちゃん、顔はいいからな……』
ニンジャじゃなくてニンカだってって言ってんだろうが。
相変わらずアンチコメばかりのBBSを閉じると、布団代わりにしているフルダイヴ機に寝転んだ。
この中でだけ、あたしは人魚じゃなくて人間になれる。
あたしにとっての魔法の壺。
「私が歩ける世界へ」
起動コマンドを受け付けたダイヴ機が動作する音がする。
水の中に沈むような浮遊感に包まれて、EFOが起動した。
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―――
…
生まれた時から足が動かなかった。
歩くどころか自力では立つこともままならず、短距離なら複数の歩行補助機を利用すればなんとか移動できるが、長距離になると車椅子が必須だ。
小学校では、養護学校に通っていた。
中学校では、普通校の養護学級に通った。
幸いなことに他の部位には特に障碍は出ず、中学を卒業する頃には上半身の動作や知能指数については、ごく年齢相当のスコアに落ち着いた。
そして高校で、知能的に問題がないこと、電動車椅子があれば体育以外は日常に障りがないことなどから、エレベーターの完備された私立高の普通科に進級した。
特にいじめなどがあったわけではなかった。
みんな親切だったし、気遣ってくれていた。
ただ、クラスのみんなで遊びに行く誘いを断ったり、教室移動を一緒に行く誘いを何かしら理由をつけて別行動したりする時、周囲から漏れ出すほっと安心した空気が、ひどく心に刺さった。
善意という名前の壁から、不安や隔意や面倒という気持ちの水が溢れ出て、あたしの周りを埋めていた。
同時期に買ってもらったVR機も、足を与えてくれなかった。
あたしは動かない足で歩くために普通とは異なる歩き方をしていて、その方法では正常な足がろくすっぽ動かなかった。
正常な歩き方、というのが、あたしには全くわからなかったのだ。
逃げ場のない善意と、行き場のない感情と、娯楽すら受け入れてくれない焦燥に、体調を崩す事が増えた。
エリシオンファンタジーオンラインがリリースされたのは、そんな時だった。
「歩行補助システム…?」
VR環境で歩けない、というのは、実はゲーム業界では大きな問題になっていた。
障碍のあるなしに関係なく、無意識下で行っている歩行という動作が実はあまりにも複雑で、思考操作になると全く歩けなくなってしまう人が少なくない人数いたらしい。
ゲーム業界では大きく2パターンの解決策が提示されていた。
すなわち、空を飛ぶか、システム的な歩行のサポートをするか、ということだ。
空を飛ぶ方は比較的早くにリリースされた。
クリスタルシティオンラインが、デフォルトが飛行状態で足を動かさずに移動できる、フェアリーという種族を実装した。
こちらは実装が比較的簡単だったのか、ありとあらゆるゲームが後追いした。
そして飛行キャラに遅れること1年。
11月に新しくリリースされるゲーム、エリシオンファンタジーオンラインのアオリ文に目を奪われた。
「すべての人に、ゲームを」
VRゲームでの歩行困難問題に対応するべく、歩行補助システムを実装。
歩行に関する思考入力を柔軟にキャッチし、システムが適切な足の動きをサポートすることで、訓練の不要なスムーズな歩行や走行を実現した。
――すべての人に、ゲームを。
それは、あたしを捨てないでくれるという言葉だった。
MMORPGではほぼ見ないストーリー型で、おそらくすべての人にというのは"忙しい社会人でも"という意味なんだろうということは分かっていた。
歩行補助システムは、どちらかというとVR適性の低い中高年向けのサポートであることも理解していた。
それでも、みんなと走りたいと泣いていた小さなあたしの頭を、なでてもらえた気がしたのだ。
※作品内でちょいちょい出てくる「クリスタルシティオンライン」ですが、業界最大手異世界型VRMMORPGという位置づけで、
「みんなが知ってる最大手ゲーム作品」くらいの感覚で名前を使用しています。




