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【書籍化準備中】「そんなの、ムリです!」 ~ソロアサシンやってたらトップランカーに誘われました~  作者: 高鳥瑞穂
十一章 トップファイターの呼び出し

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11-9.思っていたよりもずいぶん長いリストを抱えて

「ということで、これがリストです」

「わぁ……」


 ドリアンさんが目の前でリスト画面を共有した。

 ずらりと並んだ名前に少しばかり目眩を覚える。事前に聞いてはいたけれど、実際に目の前で見ると圧巻だ。

 企業からのインタビューオファー2件、収益化しているチャンネルからの出演依頼18件、未収益チャンネルからの出演依頼7件、個人の共闘依頼――275件。


「インタビューオファーは、受けるつもりなら両方、受けないなら一切受けないことをおすすめします」

「そういうものなんですか?」

「この手のは受けた実績があると数が増えるので……唯一受けたほうが良いのは運営公式のインタビュー程度ですね。来た場合はその様に伝えますので」

「分かりました、一旦受けない方でお返事お願いできますか」

「了解です。――無理強いしないとお約束している手前言いにくいのですが、付き合いの関係で、おるのげーむちゃんねるだけは受けていただきたくて……」

「オルタナティブさんですよね?大丈夫です。つぶやいたーでも声かけていただきましたし」

「ありがとうございます!」


 知っているチャンネルのいくつかに印をつけていく。喋る企画よりは、戦闘する企画の方が参加しやすいなぁと思う。なんか、喋るとダメっぽいからな……。

 ということで選定した3件の企画にOKを出した。


「これだけ出れば当面は良いでしょう」

「それだけでいいんですか?」

「いいんですよ。貴女は専業じゃないんですから。というか3件でも、短期で入るので結構忙しいですよ」


 そういうものなのか。

 そういうものらしい。


「問題は個人の共闘依頼ですね。どうしましょうか」

「他の方はどうしていますか?」

「うーん……他の面子は、一切受けないか、好きに受けているかの二択なんですよね」


 好きに受けるのはちょおおおっと難易度が高いなぁ。


「ギルドの方針としては、数件受けて欲しいです。ただ嫌だったら受けなくてももちろん良いですよ」

「この中から数件選ぶって難易度高くないですか……」

「それなんですよね」


 あまり有名どころだけを選ぶのも、どうかなぁという気がしてしまう。

 二人で頭を悩ませていると、部屋の扉が開いた。


「ドリアンここ?」

「リーダー、お疲れ様です」

「あ、お、お疲れ様です」

「うん。セリスの予定決まった?」

「インタビューの方はなし、チャンネルは3件です。今個人共闘どうしようかという話をしていまして」

「うーん、パッとするものはない感じ?」

「ない、ですねぇ」

「じゃあくじでも引く?」

「あー、もうそれでもいいですね」


 やや投げやりにそう言うと、ドリアンさんが分かりましたと言った。


「じゃあ明日までにくじ用意しておきますね」

「え?」

「うん、くじ引き配信しよう。ああ、セリス、ですぺなのGroovy君が避け教えて欲しいって言ってるのは聞いてる?」


 あ、ほんとにくじ引くんだ?いやもうぜんっぜんそれで良いんですけども。

 で、ですぺなの方ですね……。


「はい、つぶやいたーで」

「あれさ、教えてるところ録画してそのまま避けアサシン解説動画にしちゃう?そうすれば一回で色々終わるけど」

「あ、あー、あの、ほんとに教えるんですかね、私……」


 推定本当に先生っぽい人のギルド員に教えるの、結構緊張するんですが……。


「ですぺなが教えて欲しいって言ってる時は教えといたほうがいいかな……あそこに恩を売っとくと色々楽なんだよね。避けアサシン解説はどのみちどこかでやるから、よければついでに」

「あ、はい……分かりました」

「話は、だいたい終わった?」

「そうですね、今日決めたいことは全部です。ああ、セリス、この後一通メッセージ送りますから、暇な時に目を通して下さい」

「?わかりました?」

「はい、コレで全部ですよ。リーダーのご用事は?」

「あー……セリス、今日この後の予定はある?」

「え?いえ、特には……」


 今日は終わり時間が分からなかったので、予定は入れていない。


「じゃあ、ちょっと一緒に出かけない?」

「え…………っと、はい、わかりまし、た?」


 リーダーさんからのパーティ申請に、はいのボタンを押した。



 □■□■□■□■□■□



 楽園の農場を抜けて古びた石の神殿に入り込む。

 セリスは何か言いたげに、だけど何も言わなかった。

 本来なら土曜夜とかいう人口過密時間だけど、神殿前には数組パーティがいる程度だ。先日公開した雷雷木風のエンチャ方法公開の関係で、今人は田んぼの方に押し寄せている。チラッと見たが、水田の中は過密だった。


「行こうか」

「えっと、はい」


 祭壇に、雷光の御子を供えた。



 視界が光でいっぱいになり、一瞬後に夕暮れの田園風景が広がる。

 重たい稲が視界一面に頭を垂れる景色は、何度見ても圧巻だ。



「はあああぁぁぁ」


 緊張していた息を吐く。

 どかりと石階段に座り込んだ俺を見て、彼女も隣に座った。


「戦闘かと思いました」

「いや流石にその時は言うよ。ここだと、変な勘ぐりされにくいんだよね。最前線ボスエリアだから。入る時に何供えたかって他人からは見えないし」

「なるほど、外から見るとペア戦してるように見えるんですね」


 そーいうこと、と言って少し彼女の方を見る。

 相変わらず少し硬い表情で、茜色の夕日を反射する稲穂の絨毯を見ている。


「セリスに、謝りたくて」

「?何がですか?」

「最近ちょっと、自分でも距離が遠かったと思ってて」

「あー…………」

「その……実は女性メンバーってすごい少なくて、距離のとり方が分からない。なんか、喋り方とか分かんなくなっちゃって」

「避けられてるのかな?とはちょっと思いました」

「避けてない、普通にしようと思って……その普通がわかんねーってなってる……だけどやっぱ君からはそう見えたよね、ごめん」

「リーダーさんでもそういうことあるんですねぇ」

「めっちゃあるよ」


 対人関係は、そんなことばっかりだ。距離を詰めすぎたり、開きすぎたり。

 今回はとびっきり分からなくなっているけれど。


「女の子にノリで会話したら駄目かなって思ったら言葉が詰まっちゃって。ビジネスっぽく丁寧に喋ると一応言葉は出るんだよね。ただ客観的に見て、めっちゃ距離のある喋りしててダメだなって」


 トラ小屋メンバーに引き連れられているのも、どう止めていいのかよく分からなかった。

 今日の感想戦でも、他のメンバーには普通に喋れるけれど、セリス相手だと口数が落ちた。

 そもそもギルド解説の動画すら、グライドに押し付けて逃げたという自覚が少しある。


「避けたいって思ってるわけじゃない、っていう話を、とりあえずしないとと思って」


 自分で言っていて死ぬほど格好悪いな。

 しばしの沈黙。セリスは何か考え込むようにしてから、ポツリと言った。


あの日(・・・)

「うん」

「あの時、リーダーさんが、石みたいな表情をしてて」


 あの時……クソ親父の件か。まあ、それは、うん。


「あー……まあ、してたかも」


「私、それが、すごくショックだったんです」


 一瞬呼吸が止まる感覚がする。

 え、それはどういう意味だ?俺どういう反応を求められてる?


「自分でも、何でこんなにショックなのか分からなくて」


 彼女の顔を伺うけれど、うつむいたまま上げなくて、表情が見えない。


「私、多分、友好関係が終わってしまうのが、怖かったんです」

「それ、は」


 あの場で友好関係を切られかねなかったのは、どっちかって言うと俺だと思うんだけど。


「撮影の直前にギルド入るの辞めるかって言われたのも、結構苦しくて」

「それは本当にごめん」

「いえ、まあ、後からゆっくり考えて、一応言葉に納得はしているのですが」

「……うん」

「ギルドに入ったのに、私にだけなんだか言葉遣いが丁寧だし、距離があるしって思ってて」

「ごめん」

「それでようやく分かったんですけど、私、ロイドさんと軽口叩き合っているリーダーさんが、好きなんだなって」

「……なんでそこでロイド出すかな」

「あ、いえすみません、あまり他のギルド員の方と喋っているところはまだ見たことがなくて」

「あー、それもそうか」

「私もその輪に入れると思ってたんです。入りたかったんです。だから、軽口とか、気にしないで言ってほしいです」

「多分結構、無神経なこと言うけど」

「良いですよ。友達って、そういうものじゃないんですか?」


 あまり友達いないので、よく知らないんですけど、と彼女が言う。


「それに無神経さで言ったら、ニンカさんもなかなかですよ」

「それとなくとか、折を見てみたいな言葉の意味をご存知ないヤツだからな……」

「意味は知ってるそうですよ?」


 そういってクスクスと笑った。


「よかった」

「はい?」

「いや、久々に、笑ってるところを見たなと」

「――――ああ、そうかも、しれないです。なんだかんだ、結構緊張していたので」


 彼女が頬をぺちぺちと叩いて、それからいつものように、ふわりと微笑った。



 その頬が、夕日のエフェクトに照らされて、赤らんで見えた。


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