11-8.貴方の継戦時間は何分?
「私、なにかやっちゃいましたか……?」
「リアルにそのセリフ聞くと思わなかった」
「一応ここヴァーチャルだにゃ」
「そういう問題じゃなくね」
「いえ私も、このセリフを言うことになるとは思ってませんでした」
どこの最強系ラノベ主人公ですか……今ちょうど負けてきたところなのに場違いも良いところです。
「あ、ええと、ネタじゃなくてガチで分かってないやつ?」
「えと、はい、すみません、分かってないです……」
みなさんがうーん、と難しい顔になる。
え、え、本当に何……。
「セリスちゃん、他のゲームってどれくらいやったことある?」
「えっと、実は全然。PCゲームは多少やったことありますが、ゲーム機も持ってないですし、VRオフラインゲーはその、動画で言った通りで……」
「そっか、PCゲーが基準だから、普通2時間なのか……」
「この中で一番長くプレイできるのって、誰?」
「多分俺」
「リー君か。セリスちゃん問題です。リー君は最長何時間戦闘できるでしょうか?」
リーダーさんの最長戦闘時間……私が2時間だから、まあとりあえず倍くらい?
「4時間とか?」
「ダラダラ何も考えずにやる雑魚戦で2時間、ガチ戦闘なら1時間だね」
「えっ!?」
「うちのギルドで一番継戦時間が長いのがトラキチ、あいつの時間は俺も分かんねえ。次が多分ニンカかな、ガチ戦でも2時間いける――ただ彼女は回避考えてないから、ちょっと特殊かな。その次が俺で、1時間」
「え?…………え?」
「フルダイヴVRだと、一般的なプレイヤーは、連続戦闘20分で集中が落ちるんだよ。ロイドも30分過ぎるとミスが増える」
「私今気づいたんだけど」
「うん?」
「セリスちゃん、毒で敵落とすのってどれくらい時間かかる?」
え、えーと、毒で敵を倒すのは、スリップダメージなので……
「ビートリッチ3羽で、5~6分くらいですかね?」
一斉にはぁああああというため息が聞こえる。
「そりゃ、毒アサが流行らないワケだわ」
「5分って、中ボス戦並の時間だよー」
「ついでに聞くんだけど、もしかして平日1時間プレイって、戦闘しっぱなしだったりする?」
「えーと、2時間やる時はそうですね。時間の半分くらいは準備や移動なので」
「それ、今まで疑問に思わなかった……?」
「3人パーティなら1戦闘2分なのかなー、と……」
「ガチソロの勘違い怖っ」
はい、どうやら私はとんでもない勘違いをしていたようです。
普通は20分も戦闘すれば疲労困憊、雑魚戦一戦には1分以上はかけられない、と。
…………わぁ。
で、どうやら皆さんの話を総合するに、中ランク程度の素材の乱獲に必要なのがタンクらしく。
タンク可能プレイヤーが少ないせいで滞っている素材集めが結構あるらしい。
サポートチームがタンク可能プレイヤーの継続戦闘時間を聞いてちょっとしたお祭り状態、と。
………………わぁ。
「あれ、私がいても、後ろのアタッカーさんたちが20分でギブアップだったら意味なくないですか?」
「いや、アタッカーは正直いくらでも替えがきく。ギブアップしたやつが即時抜けて、新しいヤツが入れば良い」
「VRゲームはどこもタンク不足だからにゃ。うちもタンカーは足りない足りないっていつも泣いてるにゃ」
「最前線はグライドと俺が居るけど、サポートの方までは回らないからなー。タンク不在で自滅特攻すると収支悪いし」
「私、剣士タンクはそこまで上手くないんですが……」
「始めたばっかであれだけできてりゃ十分だよ~。回るの別に最前線じゃないしね」
「ただなぁ」
「アレを新人にやらせるのは、ちょっと……」
「ウチ、ブラックギルドじゃないんで……」
そしてさっきから、最終的に話がそこに落ち着いている。
一体、何をやらされるというのだろうか……。
「いったい、何が起こるんです……?」
「いや、まあ、うん、ただの連続戦闘だよ……」
「そう、ただの、本当にただの連続戦闘……」
「ほんのン時間、同じ敵に無限アタックするだけ……」
前衛系の人たちが一様に微妙な顔をして目をそらした。
「その……もしかすると一度くらいは付き合ってもらうことになると思うから言っておくんだけど、あれほんとに正気じゃないから。あれは全然ウチの正常基準じゃないから」
「狂気とかそういうやつなので、しんどくなったらすぐに言うようにね。あと嫌だったらすぐに呼んでね、救出するからね」
「ま、まあ正直何やるのかもよく分かってないですが、多少の無茶なら別に一度くらいはやってみてもいいんですけども」
「ええと、セリスさんが、いいなら……?」
本当に皆さんの言葉の歯切れが悪い。一体何が起こるんでしょうか……。
話していると、視界の隅で赤いアイコンが揺らめいた。
「あ」
「ん?」
「すみません、親からの呼び出しです」
「ああ、もう昼か」
「ですね。昼食だと思います」
「いてら~。あ、今日ってこの後ログインする?」
「夜は少しすると思います」
「ドリアンが打ち合わせしたいって言ってた。ログインしたら探してあげて」
「ああ、はい、分かりました。20時くらいになると思います」
みなさんに一度会釈をして、ログアウトを選択した。
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「はあああああああああああ」
隣でリー君が大きなため息を吐いた。
「リー君」
「いや、はい、すみません……」
窘めるように言うと、彼はバツの悪そうに謝罪した。
さっきまでのどこか作り物めいた和気あいあいとした空気が消えて、気遣わしげな視線が彼に集まっている。
「どうしたのさリーダー。らしくない」
「いやぁ……実は……」
「うん」
「年下の女の子にどうやって接したら良いのかわからない……」
アバターの金髪をぐしゃりとかき乱して、彼が机に突っ伏した。
「ええ……」
「こないだまで普通だったじゃん」
「こないだまではさー、お客さん対応っていうか、配信者対応だったんだよね。身内に入れるんだし普通に接しようと思ったら、一周回って分かんなくなった……」
言わんとしていることは分かる。彼はあからさまに女性を避けていて、ここにきてポンと懐に入った女の子への対応は、分からないのだろう。
それにしたってあまりに他人行儀だ。それなりに一緒に遊んでいたって聞いてるのに。
「それであんな固い会話してたら世話ないにゃ」
「ドリアンにも死ぬほど怒られた……」
「そりゃそーだ」
「セリスちゃん、空気読んじゃってるから、早くいつもの調子に戻るにゃ」
「うっぐ……はい、すみません……」
「ニンカの時はどうしてたの?」
「ニンカはいつもグライドと一緒だったから、グライドのペースに合わせて喋ってた。あいつはそういう間のとり方上手いから……」
「ちょっとグライドに喋り方習ってこいよ」
「いっそリーダーと二人でサポートチームの無限アタック付き合ったら?考える隙間がなくなれば普通に会話出来るんじゃね?」
「――――それもいいかもな」
「うぉい、リーダーほんとに弱気になってんぞ」
「あれに付き合うほど追い詰められてんのかよ、ほんとに大丈夫か?」
「あんたらサポートチーム何だと思ってるにゃ?」
「鬼」
「悪魔」
「もう終わろうって言ってからもう一戦だけやりましょうって言って追加20戦くらいさせてくる鬼野郎ども」
「連戦に関してはどこぞの誰かよりよっぽど鬼なんだよ」
一度つきあわされたことのあるメンバーたちがめいめい遠い目をして乾いた笑いを漏らしている。
「まあ、うん、流石にサポートの無限アタックに連れ出すのはアレにしても、なんかしら時間取って喋るわ」
「そうするにゃ」
リー君は午後は仕事らしく、その後すぐにログアウトしていった。
※4章1話
グライド『お前はともかく助っ人さん(お前の連続戦闘に)ついてこれんのか?』
ニンカ『なせばなる(最悪あたしだけで戦ってもなんとかなるでしょ)』
セリス(何も分かっていないがついていけた)




