11-3.トップファイターの指導
お昼の休憩を挟んで再度ギルドハウスに入る。
日付で今日を選んだのはちょっと失敗だったかもしれない。最近少し寝つきが悪くて、午前からギルドを案内してもらっていたのもあって少し眠たい。
待ち合わせはだいたいここと言われている談話スペースで、キャラクターを切り替えた。
桃色の髪に朱色の瞳。ファイターLv117のサブキャラだ。
将来サザンクロスに入ると知っていたら外見こんなに遊ばなかったのにな……という気持ちが少々ある。
「お、こっちはピンクなんだ」
「春っぽい色合いでかわいいにゃ~」
装備も若草色のファイター初期装備なので、確かにちょっと春っぽい。今真冬だけど。
「装備コモン?」
「あ、はい。ファイターの装備は何も持っていなくて……」
フレンド:リーダー からプレゼントが届きました。
「ふぇ!?」
「ごめん剣士系しかないんだけど、とりあえず俺のお古どうぞ」
「へ、え、えええ?いや貰えないです!?」
「もらっとけもらっとけ~どうせ倉庫の肥やしだにゃ。ってかランサー装備はどうしたの?」
「170レベルくらいまではそれでいけると思う。槍は確かぽんすけにあげたんだよね。余ってたらもらってくるか」
はい、突然装備が強くなりました。
いやー、すごい剣だなー……。
フレンド:ニャオニャオ からプレゼントが届きました。
「ふぇ!?!?」
「ぽんちゃんがもう使ってないよ~だって~」
「へ、あ、ありがとうございます……?」
「ごめんドドンガどんが今ログインしてないから、モンク装備の在庫はわからないや」
「あ、いえ!全然!あの!もらいすぎです!?」
「え?」
「え~?普通普通。ってか早くレベル上がってもらわないと困るからにゃ。お古装備なら遠慮なくもらうにゃ」
いや、あの、その……えええ……。
「パワーレベリングも、ギルド内では普通にするから、慣れてね」
「う、ええと、分かりました……働きでお返し出来るように頑張ります」
「にゃはは、マジメか」
「真面目なんだよなー。もう少し肩の力抜いて適当にやろうな」
「それは……難しい、かもです……」
「ま、ねー君の様子見てればそのうち慣れるでしょ」
「ねむ蝉な……月に一回はなんか育ててるからな……」
「ねむ蝉……えーと、レンジャーの方ですよね?」
「そう、なんかやりたいことを思いついたらその度に色々やってるから、キャラのラス枠多分10回はリセットして作り直してる」
「うひゃっ!?」
キャラリセット、課金要素ですけど……。
「いい加減キャラスロ上限開放してほしいんだけどね~。マッピングにシーフ必須レベルになってきたし」
「シーフの覚醒なー。その方向できたか~って感じだよね」
「範囲内の罠解除ですもんね。正直アサシンの覚醒よりも欲しいです。下位職の覚醒と取替させてほしかった……」
「アサシン、覚醒結構しょっぱいもんにゃ……」
アサシンの覚醒技効果は、2分後に蓄積したダメージと同量が入る感じだ。
これがスリップダメージは換算外で、自前でダメージ入れないといけなくて……。クリティカルアサシンならいいんでしょうけどね……。
「さて、来たか」
振り返ると先端の黒い金髪の男性――トラキチさんが入ってきていた。
「……てめえらは呼んでねえだろ」
「いてもいいでしょ?ギルドなんだし」
「あの……ご一緒して頂いてもいいでしょうか?」
「……チッ、好きにしろ」
プレイヤー:トラキチ からパーティ申請が届きました。
パーティ申請を受理しました。パーティリーダーは トラキチ です。
リーダー がパーティに参加しました。
ニャオニャオ がパーティに参加しました。
「ロマーナの丘であいつが待ってる」
「あいつ……ああ、ボンレスハムさんですね、承知しました」
「装備は……まあまあか」
「俺のお古」
「チッ、モンクは」
「それだけまだなくて」
プレイヤー:トラキチ からプレゼントが届きました。
ひえっ!?
「足りねえ分はあの変な箱に頼め」
「いえ、あの、当面は全然コレで良いんじゃないかと……」
これ皆さん170くらいまでって言いますけど、最前線じゃないなら普通にカンストしても使ってるのでは……いえ、はい、サザンクロスは最前線でしたね。すみません。
ボンレスハムさんのいらっしゃるロマーナに到着しました。
ハムさん、私から見ると大分背が高いですが、大柄なトラキチさんと並ぶと小柄に見えますね。
配信しろってのは、身内配信のことであってますよね?ええと、カメラ通話の、一人称視点。
「画面はファイターやるときは常に開きっぱなしにしろ」
「は、はい」
(画面出してると歩くのすら結構しんどいんだけど)
(セリスちゃん、だいじょうぶかにゃ……)
「装備の配置が悪い。メイン装備は全部左に揃えろ。クイックソートは使うな」
「うえっはい!」
(いやこの配置はお前が突然装備渡したせいだろ)
(それはリー君にも言えるにゃ)
(じゃあニャオ姉もだねw)
「切り替えやってみろ」
「えっと」
指をさっさと切り替えに乗せていく。
システムが装備を認識して、右手の武器がさっと変わる。
「基本的にはタンダダダタンダダダトダダダトダダダになる」
「タン、タン、ト、ト」
「ダダダの最後で切り替えは先に押していい」
(出たよ擬音祭り)
(あれで教えてるつもりだから困るにゃ)
「ああ、なるほど」
(いやセリス、わかんないって言っていいんだぞ)
「あれ、でも準決勝は、結構タン、ト、タン、タンでしたよね?」
「あれはフェイントだ。慣れないうちは考えなくていい」
「「え?」」
同時に上がった二人の声に、トラキチさんがじろりと睨んだ。
二人がふたりとも口を抑えて明後日の方向を向く。
それはそれとして、先程からの小声も結構聞こえている。多分トラキチさんには全部聞こえているだろう。
「ええと、基本がアサシンだったので、拳主体で、タントタントでいきたいんです」
「……慣れるまではいいが、慣れたら全部使え」
「そこまでやるかは、不明ですが、はい」
「スキルの回しはレベル上がってからだな」
「そうですね、まだ取れてないスキルも結構あるので……」
「とりあえず150まではさっさと上げろ。それでPvPのスキルは大体取れる」
「わかりました」
「下と左どっちが見やすい」
「足です」
「耳は使えるか」
「人並み、だと思います。トラキチさん基準では全くです」
「じゃあ影だな」
「やっぱりそうなりますか…」
「どれくらい見れる」
「あんまり練習できてないんでアレなんですが、半分くらいかと…」
「PvEは一旦後にしろ。対人の方が早い」
「そうなりますか……」
(やべえ何の話してんのか全然わからん)
(ええ、大会終わってからPvPやるの〜?)
「誰が一番見やすい」
「…………えっと、リーダーさん、です」
「そうなるか。――おいクソ野郎」
「あんだよ暴走機関車」
「そこでスキル使え。無発声」
「いや、え……?いいけども」
リーダーさんが私の正面に向く。
剣が動く。
「烈火」
「え?」
剣が動く一瞬前にスキル名を言う。剣は予想通り袈裟斬りに動いた。
「次」
リーダーさんの足が動く。
「五月雨斬り」
「っ!?」
乱雑な剣挙動が走る。
「次」
リーダーさんの足が動き、剣の影が上に向く。
「グリードソード」
鋭いエフェクトが走って、風が髪を揺らす。
「次」
リーダーさんがすっと膝を落とす。
「一閃」
剣が横薙ぎに走る。
「次」
リーダーさんの腕の影が……あれ、何だろう?
剣が右から左に、即座に左から右に動いた。
「……すみません、わからなかったです。スワローターンでしたか?」
「正解」
「大会では使ってねえやつだな。ゴミ野郎のスキルチョイスが悪い」
「スキルツリー的に持っていけなかったやつだけど、そこまで言われる筋合いねえだろ……。ってか、え、スキル挙動前に分かるの?」
「ええと、ソードマンというか、リーダーさんしかわからないです」
「だろうな。とりあえずクソ野郎だけ分かればいい」
え、リーダーさんだけ分かってもどうにもならないですが?
「おいクソ野郎」
「今度は何だよ……」
リーダーさんがちょっと嫌そうにトラキチさんを見る。
トラキチさんが猛獣を思わせる顔で、言った。
「再戦だ。来週。てめえら対、俺様とコイツだ」
トラキチ「(設定画面の)下(側の隙間)と左(側の隙間)どっちが見やすい」
セリス「足です(下側の隙間が見やすいです)」
トラキチ「耳は使えるか(音で距離の判別はできるか)」
セリス「人並み、だと思います。トラキチさん基準では全くです」
トラキチ「じゃあ(距離や人の判別は)影だな」
セリス「やっぱりそうなりますか…」
トラキチ「どれくらい見れる(隙間から見える範囲でどれくらい相手の動きが見えている)」
セリス「あんまり練習できてないんでアレなんですが、半分くらいかと…」
トラキチ「PvEは一旦後にしろ。対人の方が早い(モンスターはモンスターごとの挙動研究が必要だから時間がかかる)」
セリス「そうなりますか……」




