9-22.本戦 決勝戦
『さあさあ泣いても笑ってもコレが最後!』
『エリシオンファンタジーオンライン 第四回公式大会、決勝戦!』
『先の入場は……ギルドランキング1位!ギルドサザンクロスより!』
『ギルドリーダー!ソードマン!リーダー選手!』
『サブリーダー!ブラックマジシャン!ロイド選手!』
『『うーん…………………………………………』』
『その装備できたか……』
『盛り上げようと思ったのにめっちゃしょっぱい顔になっちゃったよ……』
『お相手も入場してきましたよ!』
『ギルドランキング2位!ギルドですぺなるてぃより!』
『ギルドリーダー!ブレイダー!アルマジロ先生!』
『サブリーダー!ブラックマジシャン!ブレイザー先輩!』
『わぁ、アルマジロ先生が初手うなだれちゃったんだけど』
『そりゃそうだよ。だってなあ、リーダーのあれ……』
『リリパットの盾じゃん』
「一応ね、一応思いついてはいたんだ。それで来るかもしれないって」
目の前でアルマジロ先生ががっくりと項垂れて言った。
「えーと、予想的中おめでとう?」
「うん……ありがとう。まさかその、一番盛り上がらない装備で来るとは思ってなかったよ、専業配信者さん……」
「それギルドの皆にも言われたんだけどさ……トラ戦基準にされても困る……」
「一応、これも、別に簡単なわけではないので、許してやってください。こいつ本当に悪気はないんです」
「ロイド、後でちょっと話がある」
リーダーがジトッとこちらを見るが、話があるのはどちらかと言うと俺の方だと思う。
先生のやや後ろからこちらを見るブレイザー先輩の視線が過去一冷ややかだ。
後で病みDMが来るくらいは覚悟しておくべきだろう。
「ロイド」
彼が言う。
「制限時間は4分。決めに行く」
「分かっている」
杖を構える。MPの温存を考えない、短期決戦向けの装備だ。
「先生」
「まあ、いつもどおりだよ」
「…………分かりました」
ブレイザー先輩がその場に蹲る。
カウントダウン。
10 9 8 7 6 5 4 3 2 1
「魔術の前に平伏せ」
「勇気を」
俺とリーダーふたつの覚醒が、乱れ飛んだ。
全ての例外、リリパットの盾。
リリパットの技工が凝らされた直径5cmの小さな盾は、通常の手装備と異なり全ての職業で装備が可能だ。
精密に計算されたそれは物理的な変化を受け付けず、一般装備の中では唯一強化ができない。
しかし魔術的な受け入れは極めて柔軟で、制限を無視した全てのエンチャントを施すことができる。
盾には本来エンチャントできない回避率上昇も、本来は両立できない火耐性と水耐性も、
本来は一つしかエンチャントできない、ノックバック耐性も。
ノックバック強度は100%を超えると触れただけで体が吹き飛ぶ凶悪な性能になる。
吹き飛ぶか仰け反るかは確率だが、100%からの超過確率分、加速度的に吹き飛ばし確率が上がっていく。
オメガバスターの完全特化エンチャントの場合、理論最大ノックバック率は125%。
流星の大盾を最大強化した時のノックバック耐性15%、そしてエンチャントでの耐性10%、合計25%。
対するリリパットの盾では、ノックバック耐性30%。
アルマジロ先生のノックバック強度が100を下回るライン。
向こうの戦術は、おそらく崩壊しただろう。
その代わりに攻撃をその5cmの盾範囲で受けなければいけないので、決して簡単なわけではないけれど。
目の前に20のスキルチャージ円が並ぶ。
その中からいつもよりやや少ない14のチャージをすべて意識に入れる。
「ファイヤーアロー ウォーターアロー メテオアロー」
魔法が先輩に向かって飛んでいく。
「ファイヤーバレット」
短期決戦なので玉を空中待機させず全て飛ばしていく。
「メテオバレット」
「ウィンドアロー」
「ファイヤーバレット」
覚醒効果中なのでいつもとクールタイムが違う。
スキル回しに気を使いながら魔法を放つ。
先生が振り回した剣が、ほとんどの魔法を絡め取った。
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「魔術の前に平伏せ」
「勇気を」
初手から使ってきたか。
ブラマジの覚醒は1分くらい後ろにすると思っていたから、少しばかり意外だった。
さあリーダー君が突っ込んでくる。
「剛断」
大剣の初期スキルを叩き込む。
腕に着いた小さな小さな盾でジャストガードされ、返しのカウンタースラッシュにウェポンガードを当てて受ける。
一瞬ののけぞり。だけどずいぶんのけぞり時間が短い。装備、青天の鋼鉄シリーズだもんな。そりゃのけぞり時間は短いよな。
ロイド君の魔法を振り回しスキルで叩き落としていく。
本当に、とんでもない数の魔法が飛来する。
まったくもう。ノックバック強度が95まで下がってしまった。これじゃあ弾き飛ばない。
まったくもう。その小さな盾でどうやってこの大剣を受けているのか。全て完全にジャスガされるとちょっと自信を無くしそうだ。
まったくもう。とんでもない魔法の発動速度だ。チャージは並行で溜められるとはいえ、限度があると思う。
ああまったく。
――――これだからゲームは、楽しいんだ。
飛来する魔法を切り倒す。
スキル後隙にリーダー君のスキルが刺さり、結構なHPが削れた。
もともとノックバックの付くスキルで吹き飛ばしを狙うも、転がりで避けられる。
魔法を絡め落とし目の前のソードマンに剣を叩きつける。ぴったりジャストガードされ、剣が弾かれる。
ジリジリと挟撃され残りHPが心もとない。
何度か戦ったからわかる。コレはだめだ。耐えられるのは後2発。
うん、それなら、ブレイダーの覚醒技くらいは、見せてあげないとね。
「我が前に敵はなし」
覚醒技のエフェクトが手にしたオメガバスターに走る。
「奥義」
最遅にして最弱の奥義。
「羅刹大旋風」
チャージとは別枠に用意されている30秒にも渡る溜めを吹き飛ばした奥義が、フィールドを渦巻いた。
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先生はそういう人だ。
俺と同じ。ゲームを楽しんでくれる人だ。
だから、絶対にそれを打ってくると分かる。
「奥義」
目の前に迫る大剣をただ正面に受ける。
ロイドのバリア、リフレクション、マジックシールド、が順に発動し、透明な壁が大剣に引き裂かれる。
覚醒のチャージ時間短縮の恩恵を受け、いつもの体感半分の時間で奥義が溜まる。
「斬釘截鉄」
二つの奥義が重なって、相殺の音と衝撃といっしょに、
先生の体が、吹き飛んだ。
「「メテオバレット」」
祝!100話!
勇気を:ソードマンの覚醒技。
スキルのチャージタイムを短縮する。
我が前に敵はなし:ブレイダーの覚醒技。
消費DPに応じてスキルの溜め時間を短縮する。DPを10つぎ込むと溜め時間がゼロになる。




