回想 一
密林囲む五重の塔の最上階の窓から、密林の木々や天上の太陽を見ながら。源龍と龍玉は自分たちがどこにいるのか、謎につつまれた不可思議な気持ちにおそわれていた。
それから、虎碧を見る。
虎碧は赤子のように身を丸くして眠っていた。
この碧い目の少女は、いったい何者なのであろうか。
「わかんない……」
龍玉はぽそっとつぶやいた。
「この子、いったいなんなんだい?」
壁にもたれながら、龍玉は虎碧の寝顔を見つめていた。
脳裡には、虎碧との出会いが思い起こされる。
――あれは二年前。
当時の龍玉は五人の女どもを引き連れていた女親分であった。
五人は皆、みなしごだった。
辰が天下を総べる前、各地で戦争が繰り広げられて。多くの子どもたちが戦災孤児となった。龍玉も子分の女どもも戦災孤児であり、親を失いさすらう中で出会って。
生きるためならなんでもした。
龍玉は女たちと盗みをはたらいたり、長じて春も売るようになった。
それこそ、生きるために、なんでもした。だから、初めての客には、処女を高く売りつけてやったものだった。十四になったばかりのときだった。
やがて天下が辰のものとなり、戦争が少なくなると、龍玉ら女たちは春を売ることをもっぱらとするようになっていた。
戦争で手柄を立てた者、武器商人ら戦争成金のところへ出向いては、自らの肉体を商売道具に金を稼いだ。
身寄りのない女ばかりである。危険な思いもし、皆で武術を独学で学んで身に着けた。特に龍玉は素質に恵まれて一番強くなって、女親分となった。
龍玉らは根無し草として、先のことなど考えることもなく、風の向くまま、雲を道案内に江湖を旅していた。
その旅をする中で虎碧を見つけた。
岩山の崖を削ってつくった山道を歩いていると、向こうから、たったひとりで少女がやってきた。
(こんな若い娘がひとり旅?)
少し怪訝に思ったものの、よく見れば美しい娘である。龍玉の脳裡に閃くものがあった。
(そうだ、この娘をとっつかまえて商売をさせよう)
そのことを子分どもに言うと、皆「いいね」と言い。少女をつかまえることにした。
近づくにつれて、腰に剣を佩いているのが見えた。武術の心得があるのかもしれないが、こっちは六人、簡単に捕まえられる。
さらに近づくと、その目が碧いことに、皆驚いた。
大陸にはさまざまな民族がいるが、目が碧い民族など聞いたことがない。
「姐さん、この子やばいんじゃない?」
ひとりが少し物怖じしたところを見せたら、他の女たちも「うんうん」と続けて物怖じして、不安そうに龍玉に言った。
しかし龍玉は動じなかった。
「なに言ってんだい。目が碧かろうと上玉じゃないか。きっと高く売れるよ」
いよいよ目と鼻の先まで来たとき、
「あんた、ひとり?」
そう声をかければ、少女は礼儀正しく、
「はい」
と応えた。
女ばかりのおかげか、それほどに警戒はしていないようだ。
「あたしら、見ての通り女ばかりで江湖を旅してんだ。どうだい、仲間は多いほうが安心だし、あたしらと一緒にならないかい? 旅は道連れって言うだろ」
疑われないよう、龍玉は優しく気さくに少女に言う。
「……」
少女は話を聞いて、どうしようか考えているようだ。
「いくところがあるの?」
「はい。母を探しています」
「おふくろさんを……。なら、あたしらも一緒に探してやるよ」
「ほんとですか?」
一緒に探すと言ったのが効いたか、少女は打ち解けた笑みを浮かべて。
「それでは、ご一緒させてください。よろしくお願いします」
と礼儀正しくお辞儀をした。
(しめた!)
龍玉は内心でほくそ笑んだ。まずは安心させ信用させて、それから……。
「じゃあ、行こう。とりあえず、山を下りたら町があるはずなんだ」
「はい、あります。私も立ち寄りました」
「よし、じゃあその町に行こう」
龍玉らは少女を加えて、町へ向かいながら名乗りあい。その時に龍玉と虎碧は互いの名前を知った。




