第十六話
すると、「びゅうううおおおーーー」と鳴る大風が起こる。
わああ、と大風に人々や魚介類たちは驚いてよろめく。
「止めるな、続けよ!」
「は、はい。ええ~い!」
一度ならず、二度、三度と、通は必死の思いで大うちわを扇いだ。
大うちわから発した大風は、目に見えて突風となって上空の大鮫らにも迫り。
「む?」
迂闊にも風に揺られる者もあり、少しばかりの驚きを覚えさせたものであった。
「それがどうした。面白い、いつまで扇げるのか見届けてやろうではないか」
赤鼻はしかし、突風を受けようとも強がってせせら笑う。
(笑っていられるのも今のうちじゃ!)
「ええ~い!」
通はひたすらに大うちわを扇ぐ。風が起こる。気が付けば竜宮城全体が風に包まれて、お琴はよろけ砂介が支えるも一緒によろけてころころ転がる。
「あ~れ~」
と転がってゆくのを、屈強な衛士が助け起こす。他にも風を避けて建物の中に避難した者も多かった。
(いつまでやればいいのかしら?)
神通陣の中には風が入ってこない。しかし外では風でてんてこ舞いになっている。なるほど神通力が働き中は守られて、安心して大うちわを扇げるということか。
しかし風は起こり、横の乙姫さまの神ももう真横になるほどになっているが。それ以上の変化はない。ちょっと心配になる。
「ふん。もう飽きたわい。やるか」
赤鼻は顔を歪め、それに似合った歪んだ笑みをこぼす。
「ゆくぞ!」
尖った鼻先が斜め下を向いて、通や乙姫さま目掛けて猛禽類が得物を狙って急降下するがごとくの急降下態勢をとった。
(ああ、そんな)
大うちわを扇げば金毘羅さまが風によって呼び起されて、大鮫どもを退治してくれるのではなかったのか。
と思ったとき。通の目の前、神通陣のすぐ前で竜巻が巻き起こったではないか。
「え?」
と思う間もない。竜巻は「ひゅごおおおーーー」と耳を鳴らすほどの轟音をがなり立てて、上へ上へと延びてゆくではないか。
「おお、我らの金毘羅さまがお出になられるぞ!」
もはや風で髪も乱れた乙姫さまは、竜巻にも身じろぎせず。勝利を確信しての、歓喜の叫びを放った
「金毘羅さま!」
竜巻はうねり、大鮫どもと対峙するようにその前までゆくと。
「ああ、ああ、あああーーー!」
通は大うちわを扇ぎながら驚きの叫びをあげてしまい。他の人々に魚介類、お琴に砂介も驚きと歓喜の叫びを放った。
「金毘羅さまじゃー!」
竜巻は下から徐々に実体化し、それは世に言われる竜神の威厳ある姿となった。そう、それこそが竜宮城の守護神・金毘羅さまであった。




