11.エピローグ
ミレイナは大いに困惑していた。
こんなとき、未来の夫とメイド長のどちらを立てるのが正解なのだろう。
「陛下。愛おしくて仕方がないのは理解できますが、予定が遅れてしまいます。そろそろご退出を」
「もう少しだけ待て。見ろ、この愛らしさを!」
メイド長はまた始まったと言いたげにため息を吐くと、冷めた視線をジェラールへと向ける。
「このままでは陛下のせいで準備が遅れ、いつまで経っても挙式ができないかもしれません」
「何?」
ジェラールの顔に、驚愕の表情が浮かぶ。
呆然としたところを慣れた様子でメイド長が部屋から追い出した。
ドアが閉まる間際、捨てられた子供のような表情を浮かべたジェラールを見てミレイナは内心でとっても悪いことをしてしまった気がした。
「悪いことをしてしまったわ」
「いいえ、悪くありません。調子に乗らせると、一日中居座ります」
メイド長はミレイナの言葉をぴしゃりと否定する。メイド長は幼い日のジェラールの世話をしていただけあり、相手が竜王であろうとも容赦がないのだ。
今、ミレイナはラングール国へとやってきてジェラールの妻となるべく礼儀作法や必要な教養の勉強をしている。結婚できるのは、これらが全て終わる一年後の予定だ。
そして、ミレイナの侍女役はメイド長が務めてくれていた。
今日はジェラールの婚約者として恥ずかしくないよう、公式の場に出る際に着るドレスを選びにきた。
先日、ドレスなど着たことがないミレイナが不安を漏らすとジェラールが見立ててくれると言ってくれたのだが、どれを着ても『可愛い』としか言わないのではっきり言って全く役に立っていない。
「さあ、次のお召し物を」
ミレイナは次にメイド長から差し出された、淡いブルーのドレスを見つめた。胸元にはレースとリボンが飾られ、腰の部分からスカートがふんわりと広がる。
(これ、調印式のときにきたドレスと似ているわ。ジェラール陛下の瞳の色と一緒……)
あのドレスがジェラールからの贈り物だと知ったのは、随分とあとになってからだった。
ミレイナはそのドレスを一目見て気に入った。腕を通すと、体の動きによって裾が軽やかに揺れ、生地は薄水色から濃い水色と光の当たり加減で変化する。
「陛下、いかがでしょう?」
ドレスを着終えたミレイナは、廊下の壁に寄りかかり腕を組んでいたジェラールの元にその姿を見せに行く。ジェラールはミレイナの姿を見て、驚いたように目を見開いた。
「似合いますか?」
ミレイナは見よう見まねの所作でスカートを摘み上げると、おずおずとジェラールを見上げる。ジェラールは上から下まで視線を走らせ、破顔した。
「半獣でメイド服姿のそなたも愛らしいが、着飾った姿もまた素晴らしいな。美の女神も嫉妬するほどだ」
そして、ぐいっとミレイナの腕を掴んで引き寄せると、耳元に口を寄せる。
「あまりに可愛らしくて、食べてしまいたいほどだ」
「た、食べないで下さい。私は食用ウサギではありません」
真っ青になるミレイナを見て、ジェラールはくくっと笑う。
「さあ? どうしようかな」
鼻先がつきそうなほどの距離で囁かれ、トンと背中に壁が付く。
逃げ場をなくすように囲われると、顎を掬い上げられ唇が重なった。
竜王陛下の溺愛は今日も続く。
最後までお付き合い頂きありがとうございました!
いちゃラブのリクエストが多いようなので、近いうちにミレイナをひたすら可愛がるジェラールの後日談などを番外編で書けたらいいな~と思います(*^^*)
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