第五十七話 旅立ち 1
ありがたいことに、リクエストがありましたので、
とりあえず、このまま更新を続けたいと思います。
読者の皆様の温かいお言葉には、感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
改稿版については、まだ決めてはいませんが、
新しい作品として投稿することになるかもしれません。
レントの朝は早い。
交易都市なのだから当然なのだけど、まだ薄暗い早朝に城門が開かれるというのは、やっぱり不思議な感じがする。そして、この時間に私が城門に来ることも滅多にないことだ。
こんな事でもなければ、まず来ることもないのだから。
あぁ~、眠い。
寝ぼけ眼をこすっていると、人の声が。
門兵が出て来たわ。
そろそろ開門ね。
でも、おかしい。
ハヤトがやって来ない。
今日の早朝にレントを出るんじゃないの?
まさか、勘違い。
昨夜、人質奪還に成功したハヤトに出会った時の様子がおかしかったので、色々と調べていたんだけど。そこにランスから連絡があった。
人質奪還の後、ハヤトはランスに誘拐犯を引き渡しに来たらしい。
昨夜ハヤトに会った時には誘拐犯など連れていなかったのに、不思議だ。
でも、そんな事より。
ハヤトはランスに色々と話をしたそうだ。
その内容は教えてもらった。
これは、と思ったんだけどなぁ。
レントを出るに違いないと思ったんだけど。ランスからの情報に間違いでもあったのかな。
うーん、まさかの無駄骨。
こんなに早起きしたのに。
はぁ~。
なんて1人で考えていたら。
あれは・・・。
来たみたいね。
やっぱり、あの女も連れている。
しょうがないか。
では、驚かせてあげましょうかね。
「ハヤト、どこ行くの」
「えっ! エルマさん。どうしたのですか」
「こっちのセリフよ。あんたこそ、こんな早くからどこに行くのよ」
「えっと、仕事ですよ。緊急に遠出の仕事が入ったので」
慌ててる、慌ててる。
「その娘と一緒に? ホントかしら?」
睨んでやると、目を逸らしたわよ、その娘。
嘘だとすぐ分かるっての。
「本当ですよ」
「そう。なら、私も一緒に行くわ」
「それは・・・。2人で受けた依頼なので、エルマさんは来ない方が。それに、お金も出ませんよ」
「いいわよ、そんなの。ただで手伝ってあげるわ」
「結構ですよ」
「ところで、その娘、冒険者だったの?」
「・・・いえ。手伝ってもらうだけです」
ふふ。
2人で依頼を受けたって言ってたのに。
「まあ、あんたが何て言おうと勝手について行くだけだから気にしないでいいわよ」
「・・・ご自由に」
あれ?
あっさり許可。
ホントに?
早足で城門を抜け結界街道に歩を進めるハヤト。
私をまく気じゃないでしょうね。
そうはいかないわよ。
ちょっと怒ってるのかな?
でも、私もひけないわ。
しばらく無言での行進が続く。
ハヤトもあの女も沈黙したまま。
さすがに気まずい。
「で、何かあったんでしょ?」
一応確認を。
というか間が持たない。
「そうですね・・・」
「何よ」
逡巡している。
それはまあ、言いにくいわよね。
「やっぱり、エルマさんには話しておきますね」
「ハヤト様!」
「大丈夫、エルマさんは信用できるよ。それに手紙も出してるしね。結局、今話すから手紙は必要なかったんだけどね」
手紙。
そんなの用意してくれてたんだ。
「それで」
「実は、レントを出ようと思いまして・・・」
ハヤトから聞いた内容は、ランスの情報をもとにした私の予想通りだった。ただ、執拗に追われているその理由はごまかされた気がする。なぜハヤトが追われているのか、その理由はランスも分からないと言っていた。まあ、ランスが知らないというのも怪しいんだけどね。
とにかく、理由はよく分からない。
でも、そんなのどうでもいい。
私はハヤトについて行くだけ。
弟子なんだからね。
そう、弟子なのよ!
「本当について来るんですか?」
「もちろんよ」
「どうなっても知りませんよ」
「いいわよ」
「はあ~、どうせ何を言っても聞かないんでしょうね」
「ええ」
「分かりましたよ」
やっと納得してくれたようね。
うん、よかった。
「で、どこに行くの?」
「これから考えます。なにせ突然の出発だったので」
「何それ」
「でも、まずはあそこに行きますよ」
やっぱり。
そうだと思った。
「あの、どこに行かれるのですか」
「ついてきなさい。それまでは秘密よ」
「秘密ですか」
「そうよ」
私とハヤト、2人だけの秘密の場所。
でも、この娘にも教えなきゃいけないんだ・・・。
到着した頃には、朝の日差しが眩しいくらいになっていた。
「ここですか?」
ミュリエルが遠慮気味に尋ねてくる。
あっ、この娘はハヤトの奴隷でミュリエルというらしい。道中にお互い簡単に自己紹介をして、ハヤトからも説明してもらった。
ただ、一般的な奴隷として扱うつもりはないので、私にもそうして欲しいとハヤトに頼まれたのよね。まあ、ハヤトが言うなら、そうしてあげるわ。そう告げると、ミュリエルは申し訳なさそうな顔をしていた。どうやら、分はわきまえているようね。
「ここに来てごらん」
「えっ、こちらですか?」
「驚かずに聞いて欲しいんだけど。ミュリエル、いいかな?」
「はい」
「ここに石盤があるだろ。実はここは地下迷宮の入口なんだよ。それで・・・」
ハヤトの説明が続いているけど、私は知っていることばかりなので、適当に聞き流す。
でも、なんであんなに優しそうに話すのよ。
確かに私にも優しく話してくれるけど、少し違う気がする。
それに、ミュリエル、ミュリエルって親しげに。
私のことはさんづけなのに、なんか嫌な感じ。
本当に奴隷なのかしら。実は恋人だったりして・・・。
「と、そんな感じかな」
「では、ミュリエル、エルマさん、行きましょうか」
「まさか・・・そんな、ねぇ。」
「エルマさん?」
「えっ、な、何?」
「聞いてました? そろそろ行きますよ」
「分かってるわよ」
あ~、あせったぁ。
いきなり恥ずかしいところ見せてしまったかも。
「はい、行きますよ」
そう言って、ハヤトは石盤に魔力を注ぎはじめた。
何度見ても鮮やかだわ。
私もできればいいのにな。
「こ、ここが」
「そう、地下迷宮の入口。というか、入った所だよ」
「・・・」
「驚くのは早いよ。この先は、もっと凄いから」
「そうなんですか」
「そうよ、楽しみにしてなさい」
「はい」
分をわきまえてるし、素直だし、悪い娘じゃないわね。
では、ミュリエルを連れて、大広間へ行きましょう。
もう見慣れた大広間へ。
「凄い!」
「ほら、驚いたでしょ」
「はい、ホントに。荘厳って、きっとこんな感じなんですね」
本当に驚いてるわね。
そりゃそうよね、こんな光景なかなか見れたもんじゃないから。
氷柱のようなクリスタルが点在するこの空間。
それが淡く光っている。
幻想的とはこのことよ。
まあ、私が最初に見た時は驚くどころじゃなかったけど。
「きれい・・・」
うん、うん。
私もちょっと嬉しいかも。
「今は魔物も少ないし、ゆっくり見物していいよ」
ハヤトも嬉しそうね。
「えっ、魔物・・・」
「魔物が出ても、私が倒してあげるわ」
「はい、ありがとうございます」
そういえば、魔物を見かけない。
昨年末に比べれば随分減ったのかしら。
ハヤトは1人でもここに来ていたみたいだし、結構な数を間引いたのかも。
それとも、私たちに恐れをなして隠れてるのかな。
油断はできないけどね。
「でも、一応注意はしておきなさいよ」
いつ魔物が襲って来るか分からないんだから。
新作「30年待たされた異世界転移」の方も
よろしくお願いいたします。
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こちらの作品はファンタジー小説ではありますが、伏線をたっぷり詰め込み、その効果を充分に計算することで、ミステリーの香りを感じさせる作品となっております。
読み進めば進むほど、驚きを実感し楽しんでいただけるはずです。
もちろん、純粋にファンタジー小説として楽しんでいただけるようにも書いております。
本格的に伏線の回収が始まるのは4章以降になりますが、現時点で6章終了までのストックがありますので、安心して読んでいただけます。




