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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
27/61

第二十七話  護送





 俺たちを取り囲むのは10数名のローレンシア兵。

 亜人差別の国らしく、亜人は1人もいない。



 もう、やるしかないか。


 人が相手だからなどと言っている場合ではないだろう。

 逃げる、倒して逃げる。

 これしかない。


 覚悟を決めて、魔法を準備、虎徹を取り出して・・・。




 などということは起こりませんでした。

 いや、やるつもりだったんですけどね。



 驚いたことに、ランスアールさんが立ち上がって。


「責任者を呼んで下さい。私はレント評議院の者です」


 10数名のローレンシア兵を前にして言い放つ。

 先には、さらに多くの兵士たちがいるのに。

 100人以上はいるぞ。

 堂々とした態度だ。


 一瞬たじろぐローレンシア兵。

 責任者を呼びに行ったみたいだ。



「私はレント評議院の会員でランスアールと申します。これがその証拠です」


 現れた責任者を前にして、エイドスを表示させた腕を見せる。


  ランスアール  レント評議院 会員



 所属の欄に評議院会員と出ている。

 情報員って、表向きはレント評議院の会員なのか。

 知らなかった。


「確かに・・・」


 おっ、態度が変わったぞ。

 評議院の会員って、そんな身分なの?

 というか会員って何?

 評議員が偉いとは聞いているけど。



「その会員殿が何用で?」


「この度は、エスピナ砦防御戦での戦勝祝いをと思いまして、急ぎ駆けつけました」


 うわっ。

 口から出まかせもいいところ。

 大丈夫なのか?

 通じるのか?


「戦は先程終わったところ。レントの方はさすがに耳が早い。それに脚も素晴らしく早いのですね」


 嫌味で応酬ですか。

 社会人時代を思い出すぞ。


「友好国であるローレンシア軍の勝利を確信しておりましたから」


「ほう・・・。現れ方が、いささかおかしいような気もしますが」


「多くの兵士の方々に、怯えてしまいまして。何しろこちらは2人だけですので」


 まあ、よく出てくること。

 感心するわ。


「ふん・・・、なるほど。で、戦勝祝いと言うからには何か持って来られたのですかな?」


 おいおい、手ぶらだよね。

 どうするの。


「それは、もちろん」


 えっ?

 何?


「後ほど指揮官の方に正式にお渡しするつもりですが、一応ご確認ください」


 懐から何やら書状らしきものを取り出して、広げてみせる。

 中には色々な品物と数量が書かれているぞ。

 目録みたいなものか。

 現物は後で届けるということかな。


 というか、そんなもの用意してるんなら、最初から言ってくれよ。

 ホント、用意周到だ。


 それなのに、転移石落とすってなんだよ。


「ほうほう、なるほど・・・」


 責任者の方が確認しているよ。


 うん?

 嫌味を言わないな。

 この状況で、この言い訳。

 なのに、しぶしぶ納得している様子。

 中身がよほど高価な物なのかな?


 金の力って怖い・・・。





 結局そのまま砦の中に連行されたんですけどね。

 扱いは丁寧でした。

 一応、レントからの大使的な感じなのかな。



 まあ、仕方ないよね。

 あの状況で、走って逃げきれたかどうか・・・。

 俺だけならまだしも、ランスアールさんを連れて2人というのはさすがに難しいかな。

 なので、この選択は正解なんですよね。

 多分・・・。


 それにしても、ランスアールさん。

 いつもと違って格好良かったなぁ。

 堂々としてたしね。

 見違えたわ。




 というわけで、今は砦の一室の中。

 監禁じゃないよね?


 一応は客として扱われているらしく、それなりの対応で、所持品も取り上げられなかったんだけど。

 まあ、ランスアールさんは鞄一つ、俺も小さな腰袋にしか見えない次元袋一つだけだから、取り上げるまでも無かったのかもしれない。


 転移石所持などは疑われてもいないのかな。

 あの場面で使わなかったんだから、疑いもしないか。





 数時間経過。


 放置されたまま・・・。


 暇だったので、ランスアールさんと色々話をしました。



 この状況では、まず話しますよね。

 ローレンシア兵による掘削について。


 ランスアールさんによると、この大陸の各地の地中には、失われた前時代文明の遺産が埋もれているらしく、掘削によって発見されることもあるそうです。

 前時代文明は現代とは異なる進化を遂げた高度な文明だったらしく、発掘される遺産も現代の技術では解析できないモノが多いらしい。

 もちろん、ほとんどは朽ちていたり壊れているのだけれど、中にはまだ使用できるモノもあり、その中には絶大な力を持つ代物もあると。


 とはいえ、大半は扱いが解らないというのが実情らしい。


 この遺産の発掘に力を入れている国もあるらしく、ローレンシアもその一つだそうだ。

 レントもそれなりには興味を持っているとのこと。



 ということは、視察の目的の一つはこれってことかな。

 発掘の可能性あり、何か調べろ、なんてところ。


 ちなみに、この遺産は聖遺物と呼ばれているらしい。

 まあ、前世時代のオーパーツみたいなモノだね。


 木箱の中の鉄塊みたいなモノについては、ランスアールさんも何か解らないらしいけれど、保存状態から見て恐らくは使い物にならないだろうとのことです。




 他の話もしましたね。


 戦闘についての疑問を一つ。

 転移石での攻城戦、攻砦戦はできないのかと。


 通常はできないというか、行わないらしいです。

 まず、城などには外部からの転移防止の術式が施されていることが多いらしい。

 その場合でも、脱出用に内部からは転移できるようになっているそうだ。


 侵入は許さず脱出は可能、便利な術式だね。


 また、転移を用いることは戦争における信義、礼儀にもとる行為とも考えられているとのこと。


 戦争にも信義則みたいなモノがあるんだ。

 騎士道精神ってところかな。




 さらにもう一つ。

 訊きにくかったのだけど、さらっと訊きました。

 両性具有について。

 変人だけど、なんだかんだと物知りなランスアールさんなら知っているかと思い質問。



 変な顔された。

 というか、いぶかしげな顔つき。

 一瞬だったけど、明らかに今まで見せなかった表情。


 何だったんだろう・・・。

 あまり突っ込むと、やぶ蛇なので流してしまったけど、やはりおかしいね。



「詳しくは知らないけど、そういう人がいるという認識はあるよ。旧フォルナーク領にでも行けば何か分かるんじゃない」


 返答も普通かな。

 ケヘルさんからも、フォルナークが両性具有を崇拝しているという話は聞いているし。

 まあ、旧フォルナーク領には一度行かなきゃいけないね。


 たしか、フォルナークはこのローレンシアに滅ぼされたんだよな。

 そして、ローレンシアは両性具有を憎んでいるとか・・・。

 バレたらまずいなぁ・・・。




 そんな話をしながら数時間。


 やっと、ローレンシアの人が入ってきました。

 先ほどランスアールさんと話していた発掘責任者らしき人、明らかに身分の高そうな身なりをした人、あと数名。



「フェルディナント様、こちらがレントの大使の方です」


 身分の高そうな人、やっぱり偉い人みたいだ。

 まだ若そうなのに。


「お初にお目にかかります、レント評議院会員のランスアールと申します」


「ローレンシア軍を預かるフェルディナントだ」


「この度の戦勝、お祝い申し上げます。つきましては・・・」


「うむ、その話はもう聞いている。申し訳ないが時間が無い。君たちには、その目録を持って今から王都に向かってもらおう」


「今から王都に・・・ですか?」


「そうだ、今からだ。ボリス、あとは任せたぞ」


 そう言って、颯爽と部屋から出ていった。

 あっという間の出来事だ。


 何というか・・・格好いい。

 若く、線が細いのに全く華奢な感じがしない。

 むしろ豪胆な雰囲気さえある。

 これがオーラってやつなのか。

 白皙の美青年なのに。


 なんだか凄いな・・・。


 ランスアールさんも何か感じるところがあるみたいだね。



「では、行きましょうか」


 発掘責任者の方、ボリスさんに促されて俺たちは部屋から出されることに。


 そうだ、今はこの青年指揮官なんてどうでもいい。


 王都ってどこなんだ。

 俺たち大丈夫なのか?


 ランスアールさんを見ても。


「・・・」


 無言で頷くのみ。

 今は従うしかないということかな。





 結局、馬車に乗せられ王都に向かうことに。

 馬車の外には、ボリスさん率いる数名のローレンシア兵。

 馬に乗って同行している。

 ご丁寧に、馬車から外は見えないように細工されているよ。



「これから、どうなるんですかね?」


「さあ、どうだろうねぇ」


 おっ、ランスアールさん、余裕ありそうだね。

 大丈夫ということか。


「わざわざ王都まで行って目録を渡す必要なんてあるんですか?」


「普通は無いよね」


「では、どうして?」


「さあ・・・。数日をかけて本当に王都に向かうのか、それとも・・・」


 数日かかる。

 王都は近くないんだ。

 いや、それより。


「それとも、何ですか?」


「ハヤくん、大活躍の巻かな」


 えっ?

 それって?


「本当ですか?」


「さあ、どうだろうねぇ」


 それでも、涼しい顔。

 なぜ余裕なんだ。

 何か奥の手でもあるのか。


 まさか、俺を信用している?

 実力も知らないのに・・・。



「それなら、いっそ今から逃走しましょうか?」


 できるかどうか分からないけど。


「それもいいかもね」


 どうしろって、言うんだ。

 俺に決めろとでも。

 それは・・・。


 いやいや、まだ決まったわけじゃない。

 本当に王都に向かっているのかもしれないし。

 王都で大使として扱ってくれ、レントに返してくれるかもしれない。


 ・・・。


「こういう状況は初めてなので、僕には判断できません」


「それはそうだね」


 ランスアールさんは、こういう経験もあるのか。

 上席分析官・・・あるのかもしれない。

 ふざけた態度ばかりだけど、修羅場をくぐって来ていると。



「迷う必要も無いかもしれないよ」


 気付くと馬車は止まっていた。




「お二人とも、降りて下さい。休憩にしますので」


 ボリスさんの声。

 さっきまでとは少し雰囲気が違う・・・ような。



 外に出てみると。

 そこは荒野の只中。

 周りには何もない。

 もちろん、人気も無い。



「さてと、まずは目録を渡してもらえませんかね」






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