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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
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第二十五話  分析官



 その後、3日間は何事もなく平穏に過ぎ、こちらに来てから5日間が過ぎた。

 砦の中もある程度は見えるのだけど、特に目立った動きは無いように俺の目には映る。



 この5日間。

 ランスアールさんと2人きり。小屋で出迎えてくれた人が、たまに様子を見に来るけれど、基本的には2人きりだ。

 おかげで、ランスアールさんとの距離感も大分掴めてきた。

 態度はふざけてるけど、戦況に関して口にすることは全てその通りになっていることもあって、信頼感も少しは増してきた気がする。

 一緒にいるのも苦痛ではなくなってきたんだよね。


 それに、自由時間を貰えたのもありがたかった。

 監視を交代ですることにしたからだ。

 そもそも、監視は俺の仕事じゃないし、ランスアールさんもやらなくていいと言ってくれるんだけど。


 まあ、高額報酬の仕事だからね。

 ランスアールさんだけに任せておくのも不安だし。


 だいたい、護衛の仕事なんて何もしてないんだよね。

 立派な結界石を持って来ているみたいで、魔物なんか全く出ないし。

 ローレンシア、アルザザ両軍に遭遇することも無い。

 本当に窮地に立たされたら、転移石でレントに逃げるって言ってたしなぁ。

 護衛の仕事って何なんだろう?


 こんな大金貰っていいのかな・・・。

 やっぱり、監視を手伝わなきゃ。



 とはいっても自由時間。

 多少は鍛錬に。

 護衛の仕事上、その場を離れるわけにもいかないし、魔力を使い切るわけにもいかないので、ランスアールさんの近くで地味にやりましたよ。

 色々と実験もしましたね。


 で、身に付けたのが。

 エイドスへの書き込み。

 なんと、書き込みができるようになっちゃいました。

 魔力を固めて、練り込むような要領で。


 最初からできる気がしてたんですよね。

 でも、あまり使い道が無い。

 とりあえず、性別欄の空白を男にしておきました。


 これって、不可能だと聞いてたんだけどなぁ。

 所属や階級は後天的なものでもあるけど、性別は先天的だから書き込むことはできないって・・・。


 まあ、ラッキーなんだけどさ。

 これで、両性具有を疑われることも無いだろうし。


 他は・・・、まあ、今のところ使うことも無いかな。

 また、使う時もあるでしょう。多分ね。



 エイドスに男と書き込んでいる時に、思ってしまったんだけど。

 俺ってホントに具有者なのかな?

 気持ちは男、身体は両性、果たしてその正体は?

 いや、そんな冗談じゃなくて。



 実は、またまた衝撃の事実が発覚したんですよ。

 今更感はあるけど、一応衝撃です。



 この丘のすぐ近くに水場がありまして。


「どうせ何も起きないから、水でも浴びておいで」


 ランスアールさんが何度も勧めてくれるので。

 まあ、では、ちょっとだけということで、素早く水浴び。


 そして、衝撃の発見!


 アレが無くなってました!

 男に戻れたのか!?

 やったー!!

 なんて、大喜びしたんだけど・・・。

 翌日には元に戻ってました。



 消えて戻るって、そんなのアリなのかよ。

 異世界だからといっても、非現実的過ぎる・・・。



 いや、まて。

 そもそも、今までは毎日調べてないよな。

 というか、見たくないから、なるべく目を背けていたし。

 もしかしたら、知らなかっただけで、消えている日が結構あったのかも。


 ということはだな・・・。

 このまま、自然に消えていくこともあるかもしれない。



 だったら、最高だ!

 非現実的だろうが、そんな事はどうでもいい。

 悩み解消だ。


 これは、もう祈るしかないな。

 うん、祈ろう。


 神様、仏様。

 いや、俺をここに連れて来た誰か様。

 よろしくお願いします。


 ・・・。


 しかし、俺って本当に両性具有なのかなぁ?

 気持ち的にはずっと男だし。

 その上、消えたりするし。

 何か他の病気なんじゃないのか。

 誤訳の可能性もあるかも。


 ランスアールさんみたいに何かの呪いだったりして。

 呪いの痣的な・・・。


 これはこれで、怖いな。





 なんて考えていられるくらい平穏な時間を過ごしていたんですよね。

 まあ、個人的には重要な事ですけど。

 大問題ですけどね。





 6日目の昼。


 いつもは寝転びながら、適当な感じで監視を続けているランスアールさん。

 今日は少し真剣な眼差し。

 とは言うものの、普段通りのふざけた言動に変わりはないです。


 俺もいつもと変わることなく、ランスアールさんの横で鍛錬などしながら監視を手伝ってました。

 交代で監視といいながら、結構二人で監視したりしています。


 両陣営に何か変わった気配でもあったのかな。

 うーん・・・。

 分からないなぁ。

 何を真面目に見てるんだろう?

 らしくないなぁ。



 そして、夕方。

 ランスアールさん、だらけきってくる時間なんですが。

 まだ真面目なご様子。

 どうかしましたか?

 なんて思っていると。



「ハヤくん、退屈だったでしょ?」


「そんなことは無いです」


 いや、まあ、仕事ですから。

 それに自由に鍛錬もしてたしね。


「ふふん。そうかい?」


 うーん、まあ、ちょっとはね。


「さて、ここで問題です」


 はい?

 いきなり何ですか。


「膠着した戦況が動く時、どこにその兆しを見れば良いでしょうか?」


「はぁ・・・。考えたこともないです」


 前世は平和な日本。

 戦争好きでもないかぎり、考えないでしょ。


「じゃあ、考えて下さい」


 ニヤニヤ笑ってまあ。

 何が楽しいのやら、感じ悪いなぁ。

 しかし、考えろと言われてもね。

 何をどう考えたらいいのか・・・。

 

 普通に考えたら、両軍に何か動きが出るよね。


「両軍に動きがあるということですか?」


「さすがハヤくん」


 絶対バカにしてるよね。

 そうだよね。


「誰でも言える回答ですよ」


「そんなことないよぉ。さすがですよ」


「・・・」


「戦況が動く時。それを読み解くのは単純なことですよ。兵の動きを見ればいいんです」


 そりゃ、そうでしょうよ。


「実際に戦闘に出る直前に解るのは当たり前だよね。問題は、いかに早くそれを察知できるか」


 それも、その通り。


「通常、軍というものの形態はトップダウンです。そして、下にいけばいく程その数は多い。将、部隊長、兵卒といった具合にね」


「そうですね」


「一つの指令が下ったとしよう。昼に攻撃開始だ、なんてね。そうすると、いくら隠密裏に準備をしようとも、普通は兵卒一人一人まで徹底できる筈もないよね。防具をしっかり着込む、武器を整える、溢れ出る活気、殺気。隠しようもないね」


「そうですけど、そもそも隠す必要ありますか?」


「さすが、いい質問だねぇ。その通り、普通は隠す必要もない。隠す必要が出るのは、敵方が探っている時だけ。つまり、間者だの、斥候による偵察だの、何らかの形で敵陣の情報収集にあたっている時だけだね。ところが情けないことに、この大陸の多くの国ではそのような情報収集を怠っているんだ。なので、大半の軍においては隠す必要が無い」


 へぇ、そうなのかぁ。

 この世界では情報収集はそれほど重視されてないんだ。

 レントは例外なんだね。

 前世世界とは大違いだ。前世では、政治、経済、スポーツ、もちろん戦争も、ほとんど情報戦になっていたような気がするんだけどね。


「隠しながら戦闘に出る軍がいるとしたら、その軍を持つ国は脅威になるかもね。いや、その軍の指揮官だけかもしれないか。とにかく、情報の重要度を理解しているわけだ」


 なるほどねぇ。


「さて、では隠密行動について。さっきも言ったように、兵卒全員に徹底させるのは難しいよね。では、どうするか・・・。兵たちに知らせなければいいんだ。つまり、出撃を知るのは指揮官や部隊長だけ。そうすれば、兵たちの雰囲気に変化は出ない」


「その場合は、急な出撃に兵の装備が整っていないのではないですか?」


「やっぱり、ハヤくんは賢いや」


 なぜだろう?

 ランスアールさんに言われても嬉しくない。

 馬鹿にされてるような気がする。


「そう、だから隠密を採るか、万全の準備を採るか。二者択一になるんだね。そして、情報を軽視しているこの大陸の者は当然後者を採ると」


「それで、さらに情報の軽視が進むと」


「ホント賢いねぇ。その通りだよ」


 好きに言ってて下さい。


「まあ、仮に隠密行動を選択して兵たちに知らせなくとも、部隊長の動きを見れば僕なら判るけどね」


 何気に自慢ですか。


「さあ、ここからは更なる仮定。この隠密性を高めるとどうなるか。より隠密にするためには、出撃を知る者が少なければ少ないだけ良いよね。つまり、究極の形は指揮官のみ出撃を知っているという状態。残りの者たちは出撃のその時まで、それを知らないと」


「その場合、実際に出撃できる兵などごく少数なのではありませんか」


「そうだね。普通に考えて無理だよね。だから、そんなことをした指揮官など、古今東西この大陸にはいない。でもね、だからこそ、これを可能にする指揮官が現れたら、それは恐ろしいことだと思うよ。さすがに僕でも見抜けないからねぇ」


「それは見抜けないでしょうね」


 さすがに、それは無理だよね。

 指揮官一人しか知らないんじゃ、出撃の雰囲気など出るはずないし。


「見抜けないねぇ。でも、そういう人物がいるなら一度は会ってみたいよね」


「はあ」


「狂人か天才か。狂気の異才なのか」


 会いたくないな、俺は。


「まあ、全て仮定の話。気にしないでね」


「では、なぜその話を?」


「暇つぶし」


「・・・」


 もう慣れたけどさ。

 なんなんだよ、この人。


 今日は少し真面目に監視していると思ったのに。

 話の内容も悪くなかったのに。

 真面目なんだか、ふざけてるんだか。


 うん?

 でも、呪いなのか?

 わざと言ってるのかな。

 だとしたら、深い人だ。


 ・・・。


 それは無いか。



 まあ、聞いた内容は面白かったかな。

 この世界の常識の勉強にもなった。

 きっと、頭は良いんだろうね。

 変人だけど。

 呪いを差し引いても、変わり者だけど。



 脱力している俺を尻目に、ランスアールさん立ち上がったぞ。

 ふんぞり返っている。

 何だ?



「そういうわけで」


 どういうわけ?


「僕の判断によると、戦闘は今夜から明日にかけて行われます」


 えっ!?

 えぇーー!




 そして、その言葉通り。

 数時間後の夜半過ぎ、砦にいたローレンシア軍がアルザザ軍に夜襲をかけたんですよ。



 砦側のローレンシア軍は守備、攻撃はアルザザ軍。

 そう思っていた俺は、ちょっとびっくり。

 それでも、ランスアールさんの予想的中の方が遥かに驚きでしたね。


 ランスアールさんは予想通りとしたり顔。


 戦闘を予期していたのだから、攻撃側も当然のように判かっているか。

 上席分析官だというのも伊達では無いといったところですかね。






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