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第11話

普通:[名・形動]特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま。

 土曜日がやって来ました。

 今日は希帆きほちゃんと一緒にそらさんの所にお泊りです。


 空さんは普通の家庭なんて言うけれど、やっぱり信用しきれないと言うか、あの人の普通は普通とは違う気がしてなりません。

 なので、今日と言う日を迎えるまで緊張は高まる一方でした。


 あ、16時に駅前で待ち合わせなのでそろそろ行かなくていけませんね。

 駅で希帆ちゃんと合流してから行く約束ですし、遅れる訳にはいきません。




 ----------




 駅に着くと、希帆ちゃんが既に待ってました。

 私を見つけてニコニコしながら手を振ってます。希帆ちゃんは相変わらず可愛いです。

 私も希帆ちゃんみたいに、素直に感情が出せたらいいのに。

 中学の頃からの親友で、ずっと憧れている人は、嬉しそうに「おーい」と言いながら手を振り続けています。

 ふふ、早く行かないと手が疲れてしまいますね。


「おはよー! さあ、空の家に行こう!」


 挨拶をしつつ急かしてくる希帆ちゃん。

 でも、この時間でおはようは変じゃないのかな。かと言って、こんばんわともこんにちわとも微妙に違う気がする時間帯ですし……。うん、深く考えない事にしましょう。


「おはようございます。じゃあ、行きましょうか」


 私がそう返すと、元気良く「おう!」と返って来ました。

 一緒に居ると、どんな時でも元気をくれる。本当に希帆ちゃんは凄い人です。




 ----------




「ねね。空の家ってどんなだと思う?」


 電車に乗り込むと、希帆ちゃんがそう聞いてきました。

 顔にはどんな家なのか楽しみで仕方ないと書いてあります。


「そうですねえ。私は在り来りですけど、庭付きの白い大きなお家かなって思います」

「んー、そっか。私はねえ。案外豪華な日本家屋だったりすると思うんだ」


 む。確かに日本家屋と空さんの組み合わせはとても似合いそうですね。

 でも、白いお家も似合うと思います。大型犬と組み合わせたら凄い事になりそうです。

 何が凄いのかですって? 私にもよく分かりません。


 しかしアレですね。空さんは普通だよと言っていたのに、2人とも普通の選択肢を捨てているのがとても可笑しいですね。


「空さんは普通だって言ってたのに普通の場合は考えてませんね。私達」

「だって空だよ? 普通な訳が無いじゃん」

「ふふ、それもそうですね」

「でしょー?」


 そう。空さんが普通な訳が無い。

 空さんを見るまで、あんなに綺麗な人を見た事が無かった。希帆ちゃんは可愛い系なので除外ですけど。

 勉強はよくできて、料理は上手。しかも、面倒見までいい。希帆ちゃんが音楽の授業で泣きついた時も嫌な顔1つせずに丁寧に教えていました。

 そして、ちょっと重い物を持っていると、さり気なく手伝ってくれたり、扉を開けて先に通してくれたり。

 なんて言うか、理想の女性像と男性像が同居してる感じの人なんです。

 こんな人が普通である訳が無いです。


 あ、そんな事を考えていたら駅に着きました。降りましょう。




 ----------




「あ、空だ! おーい!」


 駅の改札を出ると、既に空さんが待っていました。

 希帆ちゃんが大きく手を振るのに答えて、小さく手を振ってます。


「こんにちわ。希帆にかえでちゃん」


 今日の空さんはポニーテールにロングパーカーで、ラフな感じです。

 こういう格好でもお洒落に見える空さんは色々とずるいと思いますが、これがプロポーションの差なのでしょうか。

 あ、そういえば空さんがスカート履いてるのって制服以外で見た事無いです。

 今日もデニムですし、スカートあまり好きじゃないのかしら。


「じゃあ、家に行こうか」


 そう言って、私達のキャリーバッグを持とうとする空さん。

 こう言う所が女性なのにイケメンなんですよね。でも、悪いので持って貰う訳にはいきません。

 自分で持つから大丈夫と言うと、しぶしぶながら引き下がってくれました。




 ----------




「あと少しで着くよ」


 駅から15分ほど歩いたでしょうか。

 空さんがそう言って、家が近い事を教えてくれました。

 因みに道中にどんな家なのか質問をしましたが、普通だの大した事ないと言ってはぐらかされました。

 ますますどんな家なのか気になって仕方ありません。

 しかし、この高台になっている辺りは10年くらい前に再開発されて、そこそこ高級なお家が建ち並ぶ場所だったと思いますが。

 やっぱり空さんの普通は当てになりませんね。


「着いたよ。あそこの家」


 更に5分ほどして空さんからそう言われ見てみると、それはもう普通に見事な豪邸が建ってました。

 白とクリーム色を基調にした外観に、玄関前には色取り取りの花や木々が植えられ、その先には広い玄関バルコニーがあります。

 大きな窓が取られ、家の横には車庫が作りつけられてます。多分、あの車庫は家の中から直通してるタイプです。

 なんて言うか、普通ってなんでしたっけ。

 希帆ちゃんもポカンと口を開けて眺めています。


「私達の予測は正しかったね」

「そうですねえ」

「何してんの? 入ろう?」


 空さんにそう言われ、硬直が解けた私達は後を追って玄関へ向かいました。


 ……玄関から家に入りました。

 なんで玄関ホールがこんなに広いのでしょうか。

 凄く広い玄関ホールの真ん中には天井まで伸びるガラス貼りの空間があり、その中にも植物が置いてあります。

 そして、右手には階段が昇り降りで2つ。ん? なんで玄関ホールに降りる階段があるのでしょう。


「空さん。階段が2つありますが」

「ん? ああ、地下室だよ」

「……なるほど」


 まだ玄関だと言うのに驚くのに疲れてきました。

 こんな調子で最後まで持つのでしょうか。少し不安です。


「お母さん、ただいま」


 空さんがリビングへ入ると台所に立っていた女性へそう声をかけました。

 あの人が空さんのお母さんですか! どんな人なんでしょう!


「おかえり。あら、その子達が希帆ちゃんに楓ちゃんね? 空から聞いてるわ。いらっしゃい」

「「お邪魔します」」


 希帆ちゃんと私が揃って頭を下げるのを見てお母さんはクスクスと笑っていました。

 顔は空さんに似ていてって逆ですね。お母さんに空さんが似ているんですね。

 垂れ目な所が唯一空さんと違う感じです。スタイル抜群な所も美人な所もそっくりでした。


 因みにリビングですが、扉は無く玄関ホールから直通になっている左奥にありました。

 リビングの奥にはキッチンがあり、窓はほぼガラス貼りになっています。

 もう、この程度では驚かない自分に逆に驚きました。


「もうすぐりくが帰って来るから、夕飯はそれからでいいかしら? 空が作るのよね?」


 下拵えは少し手伝っておいたから。とお母さんが言う。

 空さんが作ってくれるんですか! 嬉しいけどお手伝いしなくていいのかな。

 あと、陸って誰だろう。


「ありがとう。それで大丈夫だよ。私が作るからお母さんはゆっくりしててね」

「ねえ空。陸って誰?」


 同じく疑問に思っていたらしい希帆ちゃんが聞いてくれました。


「あれ? 言って無かったっけ。陸は1個下の弟だよ」


 空さん初耳ですよ。弟さんが居たんですねえ。

 きっと空さんと同じように凄いカッコいいんだろうなあ。


「あ、そうなんだ! 弟さん留守って事は遊びに行ってるのかな」

「いや、代表練習があってね。それで居ないの」

「代表練習……ですか?」

「うん。サッカーのアンダー-16日本代表に選ばれちゃってね。最近忙しそうだよ」


 ……お洒落な豪邸に美人なお母さん、美少女長女にアンダー代表の長男。物凄い勝ち組な家庭ですね。

 しかし、弟さんまで居てそして例に漏れず普通じゃないなんて凄過ぎですよ。


 その後、荷物を置きに空さんの部屋まで向かいます。

 2階に上がるとフリースペースがあり、ソファとテレビが置いてあったけどもう驚きませんからね!


 空さんの部屋は案外普通でした。

 広いは広かったけど、シンプルに青を基調にした飾り気の無い部屋です。

 本棚と勉強机、姿身とローテーブル、クイーンサイズのベッドが家具の全てで、ぬいぐるみの1つもありません。

 洋服は多分、ウォークインクローゼットにあるのでしょう。


「じゃ、下に降りてご飯の準備しますかね」

「あ、手伝いますよ」

「私もー!」

「ありがとう。でもお客さんだからゆっくり寛いでてね」


 手伝いを申し出たけど、微笑みながら断られてしまいました。

 仕方ないので、空さんの作ってる姿を見学したいと思います。邪魔って怒られたら大人しくしてましょう。




 ----------




 空さんが料理をしている間、お母さんから質問攻めに遭いました。

 学校ではどうなのか。どのくらいモテてるのか。等ですが、どう返していいのか分からず、思った通りに返したのですが、あれで良かったのでしょうか。

 お母さんは満足そうにしてましたが。


「空ー。お腹減ってきた! 今日のご飯はなんですか!」


 希帆ちゃんが、空さんにそう尋ねています。

 私自身もさっきから良い香りがするせいでお腹が減ってきました。

 まあ、恥ずかしくて口には出せませんけど。


公魚わかさぎのマリネと、サーモンのクリームシチューにバケットだよ。後はー……ポテトサラダでも作る?」

「いいねいいね! 楽しみー」


 希帆ちゃんがその場で小躍りして喜んでいる。

 危ないから台所で踊らない方が良いと思うんですけど。あ、ほら空さんに注意された。


『たっだいまー! 腹減ったー!』


 暫くすると、玄関の方から大きな声が聞こえました。

 多分、あの声の主が弟の陸君でしょう。


「お! 今日は姉ちゃんが作ってるのか!」


 リビングに入ると台所に立つ空さんを見て喜ぶ陸君。

 顔が空さんにそっくりで驚きました。こう、空さんのパーツをそのまま男用に変換した感じです。


「姉ちゃん。今日のご飯なにー?」


 そう言いながら、空さんに後ろから抱きつく陸君。

 傍目から見ると恋人同士にしか見えない。

 いや、顔そっくりだしどう見ても姉弟していだからそれは無いですね。


「んー? 公魚のマリネとサーモンのクリームシチューとかだよ」

「おー! まだ!?」

「まだ。その前にアンタ汗臭いからシャワー浴びてきなさい。後、私の友達に挨拶してないでしょ。ちゃんとしなさい」

「ん? おお。姉ちゃんの友達が来るのって今日だっけか!」


 陸君は、空さんに言われてこちらを振り向き、初めて気付いたという顔をしました。

 ……多分、ご飯で頭が一杯になってたんでしょうね。


「こんにちわ。弟の陸です」


 私達の前に来て、ニコって笑いながら挨拶をしてくれる。

 ああ、この人絶対モテますね。確実ですよ。

 空さんが異性に見せない満面の笑みを何の抵抗も無く見せるんですからね。

 モテない訳が無いです。


「お邪魔してます。吾妻楓あがつま かえでです」

「初めまして。鏑木希帆かぶらぎ きほです!」

「楓さん希帆さん初めまして。……じゃあ俺汗臭いっぽいんでちょと失礼しますね。ゆっくり寛いでて下さい」


 私達の苗字が久しぶりすぎて忘れてたとか妙な声が聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。

 陸君は丁寧な挨拶をすると、そそくさと小走りでリビングを出て行きました。

 さり気なく名前で呼ぶ辺りもモテる要因でしょうね。

 きっと中学では凄い人気があるに違いありません。




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 ご飯ができました。

 皆で食卓を囲んでます。お父さんは仕事で遅いそうなので居ません。

 普段から23時くらいになる事が多いのだとか。大変そうです。


 今日のメニューは、公魚のマリネにサーモンのクリームシチューと、バゲットにポテトサラダ。そして、鴨ハムのグリルサラダまで追加されてました。

 多いと思いましたが、陸君が余裕で食べちゃうそうな。運動やってると食事量が凄いんですね。


「そういえば、陸君にとってお姉ちゃんの良い所ってどこ?」


 希帆ちゃんから食事のお供の会話にしては唐突な話が飛び出ました。


「んー、全部ですね」

「……真に受けない方がいいよ。この子シスコンに育っちゃったから」


 殆ど悩む素振りを見せずに全部と答えてみせた陸君に空さんが補足してくれました。

 なるほど。でも、こんなお姉さんが居たらシスコンも仕方ないと思います。

 私だってなる自信がありますし。


「じゃあ、恋人にするならお姉ちゃんみたいな人が良いの?」

「あ、それは無理です」


 意外ですね。お姉ちゃん大好きなら恋人も姉みたいな人が良いって言うイメージでしたが。

 ちょっと理由を聞いてみましょうか。


「なんでですか?」

「姉ちゃんは大好きだし尊敬してます。でも、勉強も料理も美容も手を一切抜かない努力の人なんです。そんな姉を持ったから、負けないように頑張って今の自分が居ると思うし感謝してるけど、恋人はもっと普通の人が良いですね」

「……私は普通だよ」

「姉ちゃん。それはちょっと無理がある」


 なるほど、存外に深い理由が聞けて面白かったですね。

 しかし、陸君の言う通り無理があると思いますよ。空さん。




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 ご飯最高でした。

 美味し過ぎてたくさん食べちゃいましたよ。

 体重計に乗るのが怖いです。


 今はお風呂に入って空さんの部屋に居ます。

 3人ともパジャマになって昨日出た課題を一緒にやっています。

 ちょっと分からない所があったりすると、2人に相談できるので順調で助かります。


『入るぞ』


 ノックが聞こえ、低い声がしました。

 時計を見ると23時を少し過ぎています。お父さんが帰って来たのでしょう。


 扉が開くと釣り目で180cmはゆうにある壮年の男性が入ってきた。

 なんと言うか存在感が凄いです。街で見かけたら絶対に目を合わせられないタイプですね。

 凄くカッコいい人なんだけど、それよりも怖さが勝る感じです。


「お父さんお帰りなさい。お疲れ様でした」

「ああ、ただいま。お友達もよく来たね。ゆっくりしていきなさい」


 空さんと挨拶を交わし私達にそう言うと、さっきまでの怖さは消え失せて優しそうな笑顔をしました。

 この家庭は皆さん天然の人たらしなのでしょうか。あ、そんな事より挨拶しないと駄目ですね。


「「お邪魔してます」」

「何も無い家だがね。寛いでくれると嬉しい。では、おやすみ」


 私達が同時に頭を下げると、また軽く笑顔を作りながらそう言って、部屋を出て行った。


「空。毎日あんな感じで挨拶するの?」


 希帆ちゃんが空さんに尋ねている。家ごとに独自のルールがあったりするので、その1つかもしれないですね。


「そうだね。お父さんは仕事で帰れない日以外、1日最低1回は家族の顔を見るのが日課らしいよ」


 どうやら、空さんのお父さんは家族思いの良い人らしいです。

 最初は怖かったですけど、すぐに優しい感じになりましたし。


 そんなこんなで日付も変わろうかと言う時間になったので寝る事にしました。

 クイーンサイズだから3人でもいけるんじゃないかと言う話にはなりましたが、ここは無理せずに2組布団を敷く事にしましたよ。


 明日は、猫ちゃんを迎えに行く日です。

 また、はしゃぐ空さんを見れると思うとちょっと楽しみだったり。

楓視点でお送りしてみました。

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