うちに通行料はない
人の敷地を跨ぐ時はその敷地の持ち主に挨拶するのは当然のことだと思う。
お前は今まで散々奥卵の守護稲荷であるコエダさまの土地に無断で侵入していただろうって? いやいやその攻撃はききませーん。俺はそういうジョーシキを持ってはいたけど、コエダさまの存在を知らなかったからセーフでーす。
「ていうことだからね、コエダさま。とーちゃんと俺から詫びも兼ねて贈り物だよ」
「なんだ今更気色悪い。ワシはそんな質の悪い悪霊みたいな縄張り意識はないぞ。それはそれとしてこの美味そうな揚げは受け取るがの……うまいうまい」
あーあ割りばしも付けたのに素手で行った。こういうところコエダさまってワイルド(マサヒロの真似)だよね。
はいコエダさま。水出すから。ル、ル、ソワ。はいじゃー。洗って洗って。
「油汚れは水だと落ちにくいのお」
「今度洗剤も混ぜて出せるように練習しておくよ」
「お主本当になんでもアリじゃな……しかし妹か。お前に家族がいるという事柄が割かし信じられんのだが、実在したのじゃな」」
「コエダさま俺の事なんだと思ってるの?」
「式力の災害」
「ひどい」
「一応言っておくが、あんじぇらもそうじゃが、仮にも霊脈の力を得た権能持ちを正面から打倒するなど普通できんからな? あの時も力の根を閉ざしてから対処するのかと思っておったらゴリゴリ戦いながら対処しておったしの……」
「まじで。コエダさまそんなことできたの。先に言っといてよ」
挨拶がてら妹のリイズと従妹のソサラが界境門から奥卵の学校に通うことを伝えていた。どっちかというとそっちがメインだ。リイズもソサラも気に入らないスイッチが入ったら辺り構わず氷散らかす頭氷雪系だからな。偶然出くわした野生動物相手にもそれをやりかねないから一応事前に伝えておいている訳だ。誰だって自分家の庭が凍り付いてたら怒るに決まってる。
俺はそういう時期とっくに過ぎたからその辺の物を燃やそうなんて思わないぜ。あいつらまだまだ子供だからな、やれやれだぜ全く。
「それにしても、そんな非常識な者、本当におるのか? お主の親族と言われれば納得するよりほかないが」
「まあ、誇張は入ってるけど本当にいきなりぶっ放してくる事があるから気を付けてねって話。それよりコエダさまアウスタみたよ。フォロワー数20万人突破おめでとう」
「おーおーそれよそれ! かねてより目標としておったのじゃ! いいものじゃのー20万人の信仰心を集めるというのは!」
うん? 信仰心……? うん。まあ、信仰心か。そうだね信仰心だね。おめでとう!
でもそっかー。奥卵の山奥じゃどう頑張っても20万人なんて人間存在しないもんね。
「無礼者め。まあ確かに山奥故に昔から人里が栄えることはなかったが……」
「昔からこんな感じなの?」
「今だと自動車道が山を走るようになったから人の行き来は増えたが、家屋となると宿場や休憩所があった分昔の方が多かったのかもしれんな」
「へー。じゃあうちと大差ないクソ田舎じゃん」
「きさまー! ……いや、道路がある分ワシの土地の方が都会じゃね?」
道路マウントはやめろ、俺に効く。
もちろんうちには道路はない。
「それでな、ワシもラヴィーネに習って奥卵に部屋を借りたのじゃよ。家賃バカ安じゃな奥卵。村木のやつに手伝わせたらあっという間だったのじゃ」
「村木さんそんなことまでしてたんだ……」
よかったじゃん。どこにあるの? 俺も遊びに行っていい?
「おーおー来るがよい。今のところぱそこんを並べてあるだけ故に殺風景じゃがの。そのうち配信用の環境も整えたいところじゃ」
「じゃあ今から行っていい?」
「今から? まあ別に構わぬが、邪魔をするでないぞ」
「しないよ。じゃあ行こうよ」
そういう訳でコエダさまの新居? に行くことになった。
コエダさまの部屋は奥卵の駅から見て南東のちょっとした坂っていうか崖の上にある綺麗なマンションだった。本当にここが安かったんだろうか。
村木さんの紹介で知った? 事故物件で幽霊が出るって噂だった? マンションで事故なんて起きるんだ。車とか突っ込んだのかな。
入居したついでに祓って建物全体も清めたんだ。幽霊って家賃払ってなかったんだよね? なら不法滞在だから迷惑だよね。コエダさまって便利だね。いてっ! な、なぜぶたれたんだ……。
「おじゃましまーす」
おお、部屋の中は綺麗……綺麗……?
「本当にパソコンが並んでるんだね」
「だからそう言っておるだろう」
部屋はキッチンとトイレとお風呂があって、あとはタケシの部屋くらいの広さの部屋が一つある感じの間取りだった。うちより水場の仕切りとかあって綺麗だと思う。
で、問題なのはその内装。パソコンが並んでるって言ってたけど、本当にパソコンとモニターが壁際にずらっと並んでる。本当にそれだけ。え、なんなのこの部屋。
「モニターが一台だけでは返信が追いつかぬのだ。後は物理的に演算能力が不足するようなときのためにサブでもう一台って感じじゃ」
「くわしいなコエダさま」
「そらもう稲荷一詳しくなった自負があるぞ」
よっ、稲荷一! ホホホ、やめよやめよ。
一しきり煽てた後になんでこうなってるのか聞いた。
「いやの、ほら、ワシって凝り性じゃろ?」
「そうなんだ」
「そうなのじゃよ。じゃなきゃここまで地脈の整理整頓に拘っておらぬわ。都の西部にしか自然が残っていないのがその証拠じゃよ」
「それって人が居ないからなん、いてっ! 足の指を踏まないで!」
「凝り性なんじゃよ。それでな、ラヴィーネに詳しく聞くうち益々興味が出てきてな。パソコンはいいものじゃなー、ワシの興味に全て答えてくれる」
「あ、それわかる。インターネットってすごいよね」
「本当じゃな。集合知の凄まじさを改めて思い知ったわ。まあそんなわけで調べていくうちに色んな事が出来るようになった結果じゃな」
「いや、でもこんなにモニターいる?」
「馬鹿者! SNSの相談に毎秒返信しつつ他諸々を同時にこなせばこのようになるのじゃ!」
お、おう。いつの間にかコエダさままでSNSガチ勢になってた……。
――コンコンコン
「む? 誰じゃ。今日は来客の予定などなかったはずだが」
「今日じゃなきゃあるんだ。いいよ、俺が出る」
「そうか。頼んだぞ」
人んちの来客対応をするのはマサヒロんちで慣れてるんだ。あいつんち、いつも人が居ないしなんなら俺しかいない時があるくらいだ。
玄関を開く。
「お兄ちゃん。なにしてるの?」
「なにここ。おにいんち? わ! すごい! 獣耳の生えた妖怪がいる!」
おいなぜお前たちがここに居る。いや入るな勝手に「なんだおま、のじゃー!」おいこらコエダさまをぬいぐるみのように扱うな! 中身が飛び出るだろ! お前俺が土産物で買ったぬいぐるみ秒で八つ裂きにしてたよなぁ!?
「お兄ちゃん。ここでなにしてたの?」
何ってコエダさま、ああ、あのリイズに抱きしめられて死にそうになってる人……人? まあ人ね。あの人が奥卵に部屋借りたっていうから遊びに来てたんだよ。お前たちこそなんでここに?
俺がここに居たから来た? いやだからそれが何で分かった?
「わかるよ。お兄ちゃんのことだったら。お兄ちゃんって独特だから」
まじかよ。気配で悟られたとかそんな系か? 俺もまだまだ甘かったぜ……。
まあいいや、折角来たんならコエダさまに紹介するから上がれよ。コエダさまの部屋だけど。
「うん。でもお兄ちゃん。早くしないとあの妖怪、リイズに絞め殺されちゃうよ」
コ、コエダさまー!
12ハロンのチクショー道も最近は閑話の方更新しているのでよかったら見てください
中ボスさんの方もリメイクしているんですがそっちは時間かかりそうなんでいいや……。




