選びもの。―望乃夏
うざったい人混みを抜けると、お目当ての場所が見えてくる。
「ん、そこ」
「へぇ………………」
「ふぅん、ここが………………」
およ? 2人とも反応悪いなぁ………………
「ささっ、2人ともこっちこっち。」
雪乃と月夜ちゃんの手を引いて、制汗剤のコーナーへと歩いていく。えっと、お菓子、タオル、洗剤、芳香剤………………っと、ここ。
「ほら、これが芳香剤。そこにテスターがあるから嗅いでみれば?」
「へぇ、色んなのがあるわね………………これはカモミールね?」
雪乃が試しにテスターを自分にふりかけて匂いをかぐ。元から雪乃の体温が高いのもあるのか、ふんわりとした香りが強めに広がる。
「ほら、月夜ちゃんもっ」
「あっ、はい………………」
弾かれたように月夜ちゃんもテスターを手に取る。お、それは新種のバニラじゃん。
「………………ふわぁっ、甘い………………」
ほわっとバニラの甘い香りが広がる。………………お? 月夜ちゃんも体温高め?
「あら、なんだか美味しそうね。」
雪乃がすんすんと鼻をひくつかせる。と、同時に雪乃のお腹から低い音。
「………………ぷぷっ、」
「な、なによ、悪いっ!?」
思わず吹き出すと、真っ赤になった雪乃が肩を掴んでゆさゆさと前後に揺さぶってくる。
「ゆ、ゆき、のっ、頭がもげっ、」
「せ、先輩っ、その辺で………………」
月夜ちゃんが慌てて雪乃の腕を掴んで止めてくれる。………………うぅ、気持ち悪い………………死ぬかと思った………………
「………………やっぱりバニラはやめとくわ。練習中にお腹鳴っちゃうのは流石に………………」
「雪乃の食いしん坊」
「ぶつわよ望乃夏?」
「おお怖っ、逃げるよ月夜ちゃん」
「えっ!?」
目を白黒させる月夜ちゃんを引きずって、制汗剤のコーナーから逃げ出す。さて、と。次はシャンプーかな。
「えーっと、確かこの辺に………………お、あったあった」
棚の下段に見慣れたボトルを見つけてしゃがみこむ。お、この前より値下げされたかな?
「おんなじだ………………これが、墨森先輩の………………」
ボトルを手に取ってしげしげと眺める月夜ちゃん。もっとも、すぐに視線をプライスカードに戻したけど。
「に、にせんごひゃ」
「あー、それはボトルだからね………………ボクは専用のボトルで持ってるけど、詰め替え用のを汎用のボトルに詰めとけばそこまでしないから。………………ってかこの値段の大部分が容器代な気もするからね………………」
「あー、確かに………………」
意匠を凝らした、と言えば聞こえはいいけど、これ絶対開発担当のお遊び100%でしょこれ。絶対パッケージのコストが転嫁されてるってこれ。
「天寿の開発担当も担当なら、GOサイン出す方も方ってことかぁ………………」
まぁその分中身の質は良いんだけど。
「………………って、おーい、月夜ちゃーん?」
「むぅ………………おやつを3日に一度にしてその分は亞遊夢にたかればいいとして、あとは練習用品は………………うぅ、ちょっとボロいけど来月まで先送りでいいや………………あとは散髪も………………はにゃっ!? な、なんですか先輩っ!?」
「いや、そんなに驚かなくても………………あと、ボクの話聞いてた?」
「い、いえ………………すいません………………」
「いや謝らなくていいから。ほら、詰め替え用はこっち。」
「あ、こ、こっちですね………………」
詰め替え用のパッケージを渡すと、月夜ちゃんはチラッとプライスカードに視線を走らせるけど、すぐにホッと胸をなで下ろす。
「よかった、これなら」
「ふふっ、おやつをガマンしなくても大丈夫そうだね」
「き、聞いてたんですか………………」
月夜ちゃんが芯まで真っ赤になる。よしよしするようにぽんぽんと頭を叩くと、
「けっこうお財布厳しいんだ?」
「………………一人暮らしなのにお小遣い月3000円なんですよ………………そこからシューズとかパンツまで買わなきゃいけないとか………………」
「あー………………ボクも最初はその1.6倍ぐらいだったかな………………」
つい頭をかく。………………お腹すいた時はニアマートで値引きシール貼られるのをじっと待ってたっけ………………
「月夜ちゃん、アルバイトとかは?」
「うぅ………………先週行ったとこで愛想なくて面接で断られたっす………………」
「えぇ…………? こんなに表情豊かなのに、愛想がないって………………」
「うぅぅ………………ずっとクールなのに憧れてたんで、いきなりは素が出しづらいんすよぉ………………」
「クールねぇ………………」
………………やっぱし月夜ちゃんも、勘違いしたまんまなんだ。さっきから難しい顔をしっぱなしの月夜ちゃんのほっぺたを、むにーっと横に引っ張る。む、雪乃よりは硬いかな?
「にゃ、にゃにしゅるんれすかっ」
「ほーら笑って。そう、そんな感じ。……………… いい? クールってのと仏頂面は違うんだからね? いい見本がそこにいるうちの雪乃だから。」
商品棚の向こうにいるはずの雪乃のことを親指で指す。
「憧れるのは悪い事じゃないけどさ、笑うのまでやめちゃあダメだよ?」
ほっぺたから手を離すと、月夜ちゃんが持ったまんまの詰め替え用パッケージを取り上げて棚に戻す。そして、
「とりあえずこれは授業料、ね。」
と、自分のカゴに売り場から同じのを何個か入れて、きょとんとする月夜ちゃんの手を引く。
「さ、雪乃のとこ戻ろっか。………………見かけ通り雪乃は気が短いからね。」
イマイチわけが分かっていない様子の月夜ちゃんを、強引に引きずっていった。




