フルーツポンチ。―雪乃
「…………あれ? 雪乃は何も頼まないの?」
「うーん…………自分の分まで手が回るかどうか分からなかったし、何も頼んでなかったわ…………」
なにせそこかしこに遠慮しない部員達がいるからね?
「あ、なら、ボクの食べかけだけど、食べる? 」
望乃夏がフルーツポンチを差し出す。
「あら、いいの? 」
ひとさじすくって口の中に流し込めば、しゅわわっとした感覚とフルーツの甘みが混ざりあって不思議な味になる。………………もっと欲しい、けど流石に望乃夏のを全部食べるわけには………………
「いいよ、全部食べちゃっても」
「ふぇ?………………ほんとに、いいの? 」
「いいっていいって。………………だって雪乃が物欲しそうに眺めてるのに、そこから奪い返す気にはならないよ………………」
「そ、そんな目で見てないからっ!? 」
………………し、失礼しちゃうわね。いくら私が食いしん坊だからって………………
「………………………………し、白峰、さん………………そ、そのスプーンってさ………………い、いわゆる間接キスって、やつ、だよね………………」
「ん? 」
その声に振り向くと、妙にモジモジする陸上部の長距離走組御一行様――の中の、長木屋さん。
「あら、それがどうかした?」
「………………へ、平然と………………私にもそれぐらいの積極さがあれば………………」
勝手にまた沈み始める。………………もう、一体何なのよ………………
「………………って、あら? 長木屋さん達はサイダーだけなの? 」
「………………うん。実はもうすぐ大会があるからね、それで今からカーボローディングしてるとこ」
「かーぼ………………?」
「あれ?白峰さん知らなかったの?………………毎日ご飯ばっかり食べてるから、ずっとやり続けてるのかと思ったけど………………」
「それどういう意味? 」
ぐいっと迫ると長木屋さんが後ずさる。
「す、ストップストップ!! ………………一応説明すると、カーボローディングってのは即効性のあるエネルギーを効率よく溜め込むためのトレーニングで、実力が必要な時の一週間前から四日前ぐらいまではすごくトレーニングして、フライドチキンとかお肉とかそういう油っこいものを食べるわけ。それで一度エネルギー源を枯渇させて、三日目からは炭水化物のオンパレードすることで当日はエネルギー源が溜まってるって寸法よ。」
「………………へぇ、そんなトレーニングが………………」
今度やってみようかしらね。………………でも、いくらご飯が好きだとはいえお肉が食べられないのはちょっと………………
「なるほど、つまり雪乃は常時カーボなんとかしてる状態ってわけかぁ………………………………道理で一日中スタミナある訳だよ、全く。」
望乃夏がなぜか納得してる。………………うーん、確かにこれが原因なのかしらね………………………………。
「い、一日中って………………」
長木屋さんがなぜか赤くなる。………………どうしたの? 周りを見渡すと、ほとんどの人が赤くなったりそっぽ向いたり………………………………え、望乃夏まで!?
「へぇ、一日中元気、ね………………。」
文化がニヤニヤする。………………………………あっ!?
「そ、そう言う意味じゃないからっ!!に、日中よ日中!!」
「ねぇねぇ墨森ちゃん墨森ちゃん、いつもはどっちから切り出してどっちが攻めるの?あとどっちが上に乗るの?」
「文化はそんなの聞かないで!?」
「え、えっと………………」
「望乃夏も答えようとしないで!?」
「………………………………いや、白峰さん………………その受け答えで大分認めちゃってるような………………」
長木屋さんが重々しく言うと、私の熱はますますヒートアップする。………………ぽふん。
(やっぱりヤってるんだ………………)
(い、いいなぁ………………)
(………………え、これが普通なの!?)
色んなことをヒソヒソ話してる方に向かってひと睨み。………………うん、静かになったわね。そのままクルンと陸上部の方に向き直る。
「………………それにしても、大会前のこんな大変な時に、こんなバカなトレーニングに付き合わせちゃってごめんなさいね。」
「あ、あぁぁぁぁいやいやっ!?いいんですよそんなのっ!!」
我に返った長木屋さんが慌てて否定する。ところで陸上部の皆さん、なんで私の目を見てくれないんですかね?
「はっはっは、なんだカーボなんとかって?そんなんやってるから体力つかねーんだろ。肉食え肉を。」
「黒木先輩は茶化しちゃダメですよ。彼女達だって真面目なんですから………………」
怒ってるかなぁ、と横目で見ると、皆さんそっぽ向いてるわけで。
「おい有里紗、志乃は元気か。もののついでに由輝も元気か?」
「もののついでにって………………由輝先輩は今『最後の追い込みー!!』って走り込んでますよ。あと志乃先輩は相変わらずです。」
「ハッハッハ、だろーな。相変わらず何も考えてなさそうなツラしてたしよっ。………………ところでなんであいつら来ないんだ?」
「志乃先輩が由輝先輩に引っ張ってかれたんですよ………………『このままだと補習一直線だよー』って。」
「うっへぇ………………おお怖。そうか由輝にか………………」
黒木先輩が身震いする。………………………………それにしても、黒木先輩って陸上部と仲いいんですね………………
「ん、ああ。元は陸部だしな。………………それによぉ、俺は由輝のヤツにちょっっっっとした弱みを知られてるもんで」
「………………………………複雑ですね。」
………………ほんとにこの部って複雑だわ………………




