実感
区切りの関係で短めです。
デル様の目覚めは唐突に訪れた。
いつものように朝の挨拶をして、仕事に向かったその矢先に、ドクターフラバスから念話が入った。
『陛下が目覚めたみたい! すぐ温室に向かって! 僕も急いで行くから!』
息が、止まった。
言葉を飲み込むより早く、足が動いていた。
温室に飛び込んで目に入ったのは、10年ぶりに目にする、優しい瞳。
変わらぬ温かさを湛えたその瞳に、全身の力が吸い取られた。
待ちに待ったその日なのに、全く実感がなかった。
私はついに気が狂ってしまって、デル様の幻影を見ているんじゃないだろうか。
彼に手を伸ばしても、身体をすり抜けてしまうんじゃないか。
悪い想像ばかりしてしまい、どうしていいか分からなくなった。これ以上突き落とされたくない、そんな戸惑いが、私の動きを奪った。
彼に飛びつきたい。たくさんたくさん、お話したい。そう思うのに、唇と脚は、鉛のように重く動かなかった。
動けない私に、デル様は困ったような顔をして近づく。
そして、大きく両手を広げたかと思うと、私はその中に包み込まれた。
彼が私に触れた途端、何かが一気に溶けて広がった。
心臓のあたりから、ひどく熱いものが、全身を駆け巡った。
彼の身体はすり抜けることなく、腕の中にはっきりと存在した。
懐かしい温かみ。懐かしい香り。懐かしい空間。
私の大好きなひとが戻ってきた――――
そう心から実感すると、涙が止まらなかった。
もう二度と離さない。ずっとここに居て欲しい。デル様のいない世界は寒くてたまらなかった。
そう思いながら、私は声をあげて泣いた。
次が最終話となります。2/11の昼頃更新します。




