騎士団寮へお宅訪問
本日から1/3まで毎日更新します(^^)
年末年始の楽しみの一つになれたら光栄です。
この日定時で帰城した私は、ロシナアムと共に騎士団の寮へ向かった。
彼女の双子の妹――ジョゼリーヌが、どうやら私の事をあまりよく思っていない上、デル様の愛妾の座を狙っているらしい。だから、休む日はジョゼリーヌではなくライに護衛をお願いしたい――。その件をロシナアムに話したところ、彼女は激怒した。いきなりスカートをめくりあげるから何かと思ったら、彼女のスカートの内側と太ももに武器がびっしりくっ付いていた。ナイフから、鋭利な棘のようなものまで色々あった。
真面目な顔で「どれで殺りましょうか」なんて言うので、別に殺さなくていい、でも気まずいからあまり会いたくない、護衛の交代だけしてくれればいい、と慌てて宥めた。
「――本当にすみません。昔から、あんな真面目な顔をしつつちゃっかりしている所はあったんですの。でも、主に対する忠義心は持っていると思っていたのですけれど……。忠義心がないどころか主の夫を好きになるなんて、愚かにもほどがありますわ。最早一族の片隅にも置けませんわね」
「う~ん、まあ、何を考えているかって、結局本人にしか分からないからね。私は別にジョゼリーヌの考えを否定する訳じゃなくて、近くにはいて欲しくないかなってだけ。愛妾が違法なわけでもないし。だから、罰云々はいいの」
「それにしたって、我が侯爵家は王家のお命をお守りする由緒正しい家ですわ。お仕えする方に恋愛感情を持つことは禁忌だと教え込まれて育ってますの。だから他の令嬢と同じように考えてはいけませんわ。主がセーナ様じゃなかったら、即刻首を刎ねられている事案ですわよ? わたくしは、もうジョゼリーヌを妹とは思いませんわ。ああ、名前を呼ぶのも汚らわしい」
「は、ははは……」
なんだかもう、あまり深く考えたくないので、適当に笑いを返しておく。
騎士団寮に続く外廊下を歩きつつ、薄暗くなった空を見上げる。南の空に、ひときわ輝く一番星が出ていた。
(日本だと、一番星は金星よね。あの星は一体何かしら? 地球だったら面白いわね……)
思わずくすりと笑う。
こちらでの生活が充実しているので、地球が恋しいと思うことはない。でも、時折こうして懐かしく思うことはある。
演習場を横目に見ながら、ひたすら歩き続ける。
「もうすぐ寮ですわ」
「そう。聞いてはいたけど、かなり敷地の端っこにあるのね」
「体力をつけるために、あえてそのようにしていると聞きましたわ」
「そうなのね。大変ね、騎士って」
私の部屋から、ゆうに30分は歩いたと思う。
騎士団寮へは護衛交代の件を伝えに、ライとその上司の河童さんに会いに行くのだ。私は王妃だから、向こうを呼ぶのが普通なんだけど、何となく寮を見てみたくて、会いに行くことにした。
(ふふ、ライはどんな部屋に住んでいるのかしら? がさつな性格だから、散らかっていそうね)
河童さんにアポは取っているけれど、ライには内緒にしてくれと頼んである。彼には普段からかわれているから、話ついでに抜き打ちでお部屋チェックをして、慌てふためかせてやろうというドッキリを思いついたのである。最近良いことがないので、ライには悪いけどこれぐらいのイタズラは許してほしい。
そんなことを考えてニヤニヤしていると、呆れ顔のロシナアムが声を掛けた。
「まったく。愚妹のことがありましたから見て見ぬふりを致しますが、普通の王妃様はドッキリとやらはしませんからね? ――さあ、着きましたわよ。ここが騎士団寮ですわ」
「ここが……! 思ったより普通ね。アパートって感じ」
3階建の、赤煉瓦の建物である。
重厚な王城や華やかな離宮と比べると、実に普通。ちょっと裕福な平民が住んでいるレベルの建物である。
2階と3階の窓にはぽつぽつと明かりが点いていて、酒でも飲んでいるのだろうか、笑い声や歓談の声が聞こえてくる。
元気そうでよろしいと思いつつ、ロシナアムが開けてくれた玄関を進む。
入って右手の部屋が応接を兼ねた多目的室ということで、中を覗き込むと、すでに河童さんとライが待っていた。二人は特に話す事もないのか、静かだ。河童さんは腕を組んで目を閉じており、ライは手に持っている瓶ジュースのラベルを眺めていた。
美形二人の日常を垣間見れてほっこりしたところで、元気よく声を掛ける。
「こんばんは~! セーナです。すみませんね、お仕事終わりに時間取ってもらっちゃって」
「えっ、セー……姫様? なんで?」
ラベルから目を上げたライが、目を見開く。
「おお、セーナ殿下! このようなむさくるしい所へわざわざご足労いただき、光栄にございます」
河童さんが立ち上がり、敬礼をする。
それを見てライも慌てて同じポーズをとった。
「え? え? 団長は知ってたのか?」
顔を真っ赤にして混乱するライ。サプライズ訪問は成功したようで、幸先がいい。
ふふんと満足しつつ、ライに構わず河童さんのエスコートで椅子に着席する。




