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罪と罰の天秤  作者: 一布
第一章 佐川亜紀斗と笹島咲花
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第十七話 期待以上だった


 動画を見て、秀人は唇の端を上げた。


 市内の地下遊歩道――チユホで、銃の乱射事件があった日。


 その夜。午後十時半。


 秀人は、自宅のソファーでくつろいでいた。周囲には、飼っている五匹の猫。みんな、秀人にピッタリとくっついて眠っている。


 スマートフォンで、事件の様子が再生されていた。チユホにある防犯カメラの映像を取り込んだ動画。


 犯人は、以前、狐小路で秀人をナンパしてきた男達。市内の大学のアメフト部員。ナンパとは名ばかりの脅しで女性を連れ回し、酒を呑ませ、集団でレイプしていたクズ共。


 彼等は、秀人が想像していた以上に小心者だった。銃を使って事件を起こすように指示すると、全員、涙を流しながら拒否していた。


 力尽くで弱者を屈服させる奴は、自分より強い者の前では、借りてきた仔猫より臆病になる。


 秀人はアメフト部員達を痛めつけ、脅し、強引に言うことを聞かせた。チユホで銃を乱射させ、人質を取らせ、SNSで要求を発信させた。


 さらに、女性警察官と男性警察官を一人ずつ、現場に出向かせろと命令した。要求物の受け渡しについて指示する、という名目のもとに。


 秀人に怯え切っているアメフト部員達は、可哀相なくらいに震え上がり、従順になっていた。


 女性警察官を現場に行かせるよう指示を出せば、必ずSCPT隊員が来る。犯人制圧を確実に行える、優秀な隊員が。


 つまり、十中八九、咲花が来る。


 秀人は、今の咲花を見てみたかった。この二年ほど、事件現場で大勢の凶悪犯を殺している咲花。秀人が特別課にいた頃とは、明らかに違う彼女。


 男性警察官も一人同行させたのは、軽く耳に挟んでいたからだ。江別署から異動してきたSCPT隊員がいることを。優秀で実力者ながら、武力行使を極力避け、犯人を説得しようとするクロマチン能力者。名前は、佐川亜紀斗。


 SCPT部隊は、秀人の思惑通りに動いた。現場には、咲花と亜紀斗が来た。


 咲花の能力の高さと冷徹さは、秀人の想像以上だった。放つ弾丸の威力や速度、精度は、平均値を大きく上回っている。外部型の能力に限定すれば、秀人に迫るものがあると言える。さらに、犯人に対する冷徹さも、秀人に勝るとも劣らない。


 秀人は、リアルタイムでも現場の様子を観察していた。チユホにある防犯カメラを通じて。


 今の咲花をさらに試したくなって、犯人に指示を出した。咲花の服を脱がせろ、と。


 能力の高さや冷徹さだけではなく、恥辱にも屈しない精神力があるか。


 指示を出したとき、犯人は涙声になっていた。


『そういうの、もういいですから! 俺等、早く終わらせたいんです!』


 女性を脅し、酩酊させ、暴行していた犯人。そんな奴が、性欲を二の次にするほど怯えていた。秀人は、笑いを堪えることができなかった。笑いながら、犯人を脅迫した。


『なんで? お前等、性欲が有り余ってるんだろ? だから、俺を女と勘違いして、犯そうとしたんだろ?』

『いや、そうですけど! でも――……』

『ああ、そうか。お前等、性欲なくなったんだ? じゃあ、もうチンポもいらないよな? 俺が去勢してあげるよ』


 犯人は「ひっ」と声を漏らし、秀人の命令に従った。咲花の服を脱がした。


 咲花は、秀人の期待通りだった。服を脱がされても、顔を歪めることさえなかった。それどころか、自分に視線が集まった隙をついて、犯人達を攻撃していた。


 現在の司法に否定的思想を持ち、凶悪犯を躊躇(ためら)いなく殺す咲花。期待以上の姿を見せた咲花。


 以前考えていたことを、秀人は、より強く思った。


 ――咲花を仲間にしたい。


 秀人の目的は、国家転覆。咲花の思想とは異なる。しかし、彼女が否定する司法も、国の機関の一部だ。そこを上手く突けば、彼女を仲間にできるだろう。


 司法は、法律に縛られている。法律に沿った判決しか出せない。それは、国家機関を安定的に機能させるために、当然のことだと言える。


 反面、過去の判例に縛られ、法律以外のものに囚われ、無駄な人権思想にも影響を受けている。大きな論争が起こるような判決を避けている、とも言える。


 事なかれ主義を、民意よりも優先させる国の機関。


 咲花の姉の事件では、そんな司法の姿が明確に表れていた。


 その事実を指摘して、咲花の心を動かせば。


「そうすると、あいつは邪魔だな」


 咲花と共に事件現場に来ていた、SCPT隊員。佐川亜紀斗。咲花が犯人を殺したことについて、言い争っていた。


 亜紀斗も、秀人が聞いていた通りの人物だった。犯人を傷付けることを良しとせず、武力行使を避けている。しかし、強い。咲花に仕掛けた場面を見ていたが、動きの鋭さ、攻撃の威力などは、かなり高いレベルだ。内部型の能力だけに限定しても、秀人にはまだ及ばないが。


 亜紀斗は間違いなく、咲花を仲間にする上で邪魔になる人物だ。


 それなら、すべきことは一つだ。


「今度は俺も動くか」


 呟きつつ、秀人は、白猫のミルクの頭を撫でた。


 今度事件を起こすときは、自分も現場に出向こう。


 現場に出向いて、邪魔な亜紀斗を殺す。その上で、咲花を仲間に引き込む。


 全国でも――世界でも類を見ないほど高い能力がある、秀人。

 全国でも屈指の能力を持つ咲花。


 二人で組めば、よりスムーズに動けるようになるだろう。脅迫、恐喝、武器の調達、破壊行為。あらゆる行動が楽になる。


 ――さて。


 咲花と亜紀斗を誘い出すために、今度はどんな事件を起こそうか。


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