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第371話 王族としての覚悟

 クレアと守護獣は高速飛行での接近と回避運動を行いながら射撃と近接の斬撃を応酬する。目まぐるしく攻守が入れ替わり、反撃に反撃を重ねる。


 守護獣の猛攻を運命感知と箒の飛行で先読みして回避。爆裂する結晶槍と、踊り子の強化斬撃、螺旋の糸矢を繰り出していく。

 対する守護獣は四本の腕からなる光の斬撃と刺突。翼による衝撃波が主な攻撃だ。いずれの攻撃も有効射程が長く、手数、範囲も優れている。

 イリクシアの依り代になっている巫女だと分かっているから、運命感知による回避を最初から理解している節があった。


 だから基本的には予測していても簡単には避けられないような、広範囲を巻き込むような攻撃を繰り出してくる。


 他にも隠し玉はありそうだが、それを警戒していても埒が明かない。それよりも――クレアには気になっていることがある。


 あの額の水晶のようなものだ。中に人影のようなものが見えるが、正体は不明。

守護獣の体躯は人間より一回り、二回りほど大きい程度だ。水晶の中の人影を人間というにはサイズがおかしい。


 飾り、というわけではないだろう。攻防の中で守っている節が見える。そもそも王の守護獣はゴルトヴァールの最奥で制御をする役割を与えられるべく作られた。前線に出ての戦いを前提に作られた存在ではない。守らなければならない部位だとするなら、その部分にあるものはなんなのか。


 いくつかの可能性は考えられる。一つは守護獣の本体で、今戦っているのは本体が操る鎧のようなものである、という場合だ。そうであるならば、あの結晶を破壊しなければ倒せないということになる。

 次に考えられるものは女神の霊体を閉じ込めている場合。しかしそうであるなら外側にイリクシアが顕現しているのはおかしい。


 最後の可能性としては、守護獣の主たる、王の魂を守っている場合、だろうか。この場合は、弱点ではないのかも知れないが、守護獣は主であるために当然守ろうとするだろう。破壊したとて、守護獣そのものに影響がないならば意味がないかも知れない。


 確かめる必要がある。弱点か否かよりも、ルゼロフ王であるかどうかは重要であると思うのだ。


「そこにいるのは――ルゼロフ王ですか?」


 攻防の中で額の水晶を見ながらクレアが問うと、ぴくりと守護獣が反応して一瞬だけ動きを止める。ルゼロフ王の名前を出したからか、それとも本当にルゼロフ王の魂がそこにあるのか。いずれにせよ反応を見せたのは一瞬だ。守護獣はそのままクレアへの攻撃を再開する。


「王に。そして守護獣である貴方に声が届いているという前提で話をします」


 切り裂くような光芒が縦横に奔る。僅かな隙間を突き抜けるように箒で突っ込み、打ち合いながらもすれ違う。守護獣の身体の周りに防壁が瞬いて、クレアの糸矢を弾く。攻防を重ねながらも言葉を続ける。


「私はゴルトヴァールの外から来ました。外には今も尚、沢山の人達が生きていて陽射しも暖かく、作物だって育ちます。王が危惧なさったような世界の終わりは来なかった。神々の力も人々に――世界に、因子魔法として引き継がれて、その恩寵は失われてなどいないのです」


 クレアの言葉を受けてか、守護獣の攻撃に勢いや激しさが増す。

更に速度を上げてクレアに迫ると、光壁の盾を押し付けるようにして、遠距離攻撃ではなく近接の直接攻撃で仕留めようとしてきた。


 が、当たらない。配置した星々の間。張り巡らせた糸を性質変化させて、それを基点にクレアの機動を強引に変え、高速離脱している。

 王か、それとも守護獣か、どちらかに言葉が届いているのだろう。感情のある動きだ。


「民を幸せにすることだって次の世代に引き継ぐためのもので、世界が無事であるならここで停滞していても意味がありません。もう、終わらせませんか。あんなに優しい女神様を、意に反して縛り続けてしまうのは――」


 意に、反して。イリクシアは公平に振舞っているが、それは守護獣の影響下にあるからだ。神族としての性質もあるのだろうが、イリクシア自身の意志や望みはそこにはないし、その望みだって既に示されている。


 イリクシア自身がゴルトヴァールの在り方を肯定してそこに居続けることを良しとしているのであるなら、制御が完璧でなかった段階でアルヴィレトの者達に協力することはしなかっただろう。何より運命の因子魔法を世界に遺したのだ。


 運命の因子魔法を宿すクレアが存在しているということ自体、自分がいなくなっても大丈夫だと伝えたようなものなのだ。

 女神が世界から去っても運命は変わらず紡がれて、命は世界に生まれ続けていくということ。それはもう、クレアがいてもいなくても変わらない事実だ。


 そして、ゴルトヴァールを終わらせるための可能性や道筋を示したということでもある。それはそうだ。イリクシアは紡いだ運命に無闇に干渉することをしない。その在り方を歪ませるゴルトヴァールを、肯定することはない。


 もっと大きな視点で見るのならば、ゴルトヴァール誕生の契機となったのと同等以上の環境の激変――例えば氷河期が来たとしても氷の巨人族は生きていくだろうし、他の環境の変化があってもどこかで運命は変わらず紡がれていく。


 だから。王の守護獣もルゼロフ王も、クレアが目の前にいることを、その言葉を許容できない。


『だま、れ。王の重責も知ら、ぬ小娘、が』


 そんな響く声と共に腕と翼を総動員してクレアへの猛攻に出る。高速で追いすがりながらの連撃。掠めていく斬光と、下から跳ね上がるように迫る衝撃波。


 ファランクス人形の盾で衝撃波を防ぎ、魔封結晶を射出することで攻撃に飲み込まれないように寸断。曲芸じみた軌道での飛行をしながら回避し、更に言葉を続ける。


「イリクシア様を解放してください。貴方の民を傷つけないと、約束します。勿論、解放してくれれば貴方方だって――!」


 守護獣も、ルゼロフ王も、答えない。クレアを斬ってしまえばそれで終わりだとばかりに並走しながらも斬撃光で幾度も空間を薙ぐ。回避と応者。天地も左右もぐるぐると回り、地面から広がる淡い光と、空に光る魔力の星々、守護獣とが目まぐるしく位置を変える。


 王の重責だと言った。確かにクレアは王族であっても王であったことはない。だけれど。


 自分もまた王族の責務を負う覚悟ぐらいしている。自分を信じて共に戦っている者達に対して責任がある。いずれ女王となる決意とてとっくにある。何より守りたい人達がいるのだ。ルゼロフ王の言葉に、揺らぐことはない。


「そうですか。では――貴方方の子孫として、私がエルカディウスの王位も引き継ぎます。魂だけの王など、認められません」


 ルゼロフ王が感情を露わにしたことで、その魔力の波長から魂だけの存在だと理解した。恐らくシステムの維持のために、肉体を捨ててまで意志を残すというのは必要なことだったのだろう。しかし、過ちを抱えたまま未来の展望すらも否定する、そんな王が王位に座り続けていることは王族に連なる者としても、今の時代に生きる者としても認められない。


『簒奪、者め、が』


 そんな、声と共に。凄まじい魔力が放射されたかと思うと、クレアを追う守護獣の姿形が変貌していく。手足と身体が折れ曲がり、翼が拡大。人型から鳥か竜のようなフォルムに変化。額の水晶も身体の奥まった部分に収納されて見えなくなる。


「あれは――」


 判断するよりも、早く大きく横に動いた。直後、光弾と化した巨大な翼が、すぐ近くを薙ぎ払っていく。速度を把握できていない状態で初撃を回避できたのは、運命感知と人形操作によるところが全てだ。通常の状態では到底回避し切れなかっただろう。

 速度。圧倒的な速度。遥か彼方まで通り過ぎたそれは、雷光のようにジグザグに折れ曲がる残光を残し、慣性を無視した軌道を描くとクレア目掛けて再び突っ込んでくる。


 だが、もうここまでの攻防の中で、場はできている。星々を繋ぐ糸は張り巡らせたのだから。速度を目の当たりにした時には、すでに糸を星に接続して、それに引っぱられる形でのトリッキーな動きにより守護獣の二撃目を回避していた。


 鋭角に折れ曲がる。次の攻撃はすぐに飛来した。右に左に。先を読ませない動きと運命感知により、クレアは曲芸じみた回避を見せる。


 凄まじい速度での突撃。だというのに、次の攻撃までが速すぎる。纏う魔力自体が攻撃的な性質を有していて体躯以上に攻撃範囲が広がっており、掠っても大きなダメージになる。というよりも一度体勢を崩されれば続く攻撃を躱せない。あっという間に攻撃の波に飲み込まれるだろう。


 螺旋の糸矢と魔封結晶弾で迎え撃つも、ブレるような挙動で回避され、或いはその体表に纏う光に弾き散らされる。魔封結晶すらも展開している膨大な魔力を突破し切れない。

 速度だけでなく攻防が一体となった状態。しかもこれが最高の状態ではなく、更に内側に秘めた魔力が増大しているのをクレアは感知していた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


別作品の告知となり恐縮です。

今月6月25日にコミック版境界迷宮と異界の魔術師14巻が発売予定となっております。

詳細に関しましては活動報告にも記載しておりますので、参考になりましたら幸いです。


今後とも魔女姫クレア共々頑張っていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
 ルゼロフ王は魂となって守護獣と一体化していたか…… さてクレアはどうするのか。破壊するのか、肉体を失って過去の思いに囚われ続けている魂すら救ってみせるのか。
王の魂までいたんですねえ、それもまだ意識を残して
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