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第348話 迎え撃つために

 帝国は、一本目の塔を攻略してもすぐには動きを見せなかった。長期戦になった場合の単純な有利不利という話をするのなら、持ち込める食料品や物資の量や豊富さから言って、魔法の鞄で大量に保有しているクレア達に軍配が上がるだろう。


 ただ、その場合ゴルトヴァールの防衛機構の回復という問題も付き纏う。恐らく、対帝国という一点だけを問題にするなら、それはクレア達にとって有利な材料となりはする。ルファルカが味方についたから、行動に気を付ければ防衛機構は「攻撃」はしてこないはずだ。


 ただし、それはあくまで、向こうが認識する「攻撃」は、という話でしかない。ゴルトヴァールがその影響範囲を拡大しようとしていたと言うことを考えると「善意で」自分達を都の住民として取り込もうとするかも知れないし、機能回復が成されれば自分達以外の外部にも影響を及ぼそうとするだろう。


 そして、クレア達もエルンスト達の問題が解決したらゴルトヴァール自体への対処をしなければならない。だから、長期戦というのはクレア達としても考えていない。


 もう一本の結界塔を中心に、戦いになっても魔力の消耗量に支障が出ない範疇で糸の探知エリアを広げている。探知魔法は向こうも警戒しているだろうが、ゴルトヴァールには住民達もいて、探知魔法は場所を限定しないと活用するのが難しい側面もある。

 だからこそ、クレア達も住民達のいない結界塔周辺ではなく、そこからほど近い街中に潜んで待機しているのだ。


 先にこちらが位置を把握できればウィリアムの固有魔法で奇襲を仕掛けることも可能になるのだろう。ウィリアムの生死は帝国には伏せて来たし、ゴルトヴァールに入った時の目立つ移動もそのカモフラージュになっている。


 一方、帝国側にも再現魔法があり、複数人の使い手を用意していることから、クレア達と違って部隊を分けての別行動や強襲等が容易、という点には気を付けなければならない。待ち構えているのはその辺の利点をある程度潰すことができるからだ。

 行使することで過負荷が生じて使い潰すことになってしまうから、ウィリアムのように気軽な攻撃手段として使うというのは滅多な事ではしてこないだろうが。


 再現魔法での転移をしてくるのなら、やはり障害物のない空中。通りや建物の上空や人気のない広場ということになる。街の構造を互いに知らない以上、移動に際しては安全マージンが欲しい。実際、大樹海で移動してきた時もエルンスト達はまず上空から出現していた。


「遠くに人員や物を移動できる因子魔法を再現している、か。厄介なものだが」

「移動してくる時に感知はできますから、そこで対処するしかないですね」


 ルファルカを交えてエルンストの次の手を予想する。


「こちらが再現魔法という手札を持っていることを知っているという前提であるなら――陽動で注意を引くという手があるか」

「陽動……例えば、これみよがしに姿を見せて、こちらがそれに乗ったら本命を送り込んで結界塔を強襲する、というわけですわね」


 ウィリアムが思案しながら言うと、セレーナも少し考えてから言った。


「彼らが姿を見せても探知魔法を切らさないことで、陽動自体への対応はできるかと」


 イライザの言葉にクレアも頷き、結界塔の方へと視線を向ける。


「結界塔自体も外側が魔法的に守られていて内部への直接の移動は無理そうですからね。内部構造はルファルカさんが知っているわけですし」

「そうだな。敵が侵入した場合は私が案内をしよう」


 エルンストの出方、作戦。それらを一つ一つ想定して検討や対策を考えていたクレア達ではあったが――その内探知魔法にそれまでとは少し違う反応があった。


 通りを結界塔側に向かって歩いてくる集団がある。記憶に基づいて繰り返しているような、ゴルトヴァールの住民達の動きとは明らかに違う。集団で移動している上に探知されていることを前提としている節があった。


「あっちの通りから来ますね」

「……正面から堂々と来た、とは思えないな」

「何かしらの策は用意しているのでしょうね」


 グライフの言葉に答えながらもクレアは糸を伸ばし、近付いてくる一団の姿を確認する。

 前に見た時のままだ。フード付きの外套を被っていて顔を分からなくした集団だ。

一団の中には外套の上からでも体格もあまり良くない者達が混ざっているというのが分かる。身のこなしもそうだが、戦いに慣れているといった様子でも鍛えられているという風でもない。特に1人――見るからに具合が悪そうにしていて、足取りが怪しい者までいる。


 そうした光景を映し出し、クレアが口を開く。


「……偵察されているという前提で顔を隠している節がありますね。この方々は――多分戦闘員ではなく、再現魔法を使う要員として、脅されて同行させられている方々、とは思います。特にこの……具合の悪そうな方は、多分ここに侵入するために再現魔法を発動した方だとは思いますが……」


 クレアは再現魔法の要員と思しき者達を差して言う。

 適性によって反動にも個人差があるのだろう。もう一度ぐらいは再現魔法を発動できると連れ回しているのか。まだ人質としての価値があると思っているのか。


「……確かに帝国は捨て置けない連中のようだ。あの者達は都の住民に幾人か、危害を加えていたようでな」

「そんなことをしていたのですか……住民達の方々は大丈夫なのですか?」

「そういった記憶は消えて身体も元に戻る。一先ずの問題はないが……恐らくは――状態を確認するための実験のつもりなのだろう」


 ルファルカは淡々と言うが、不快に思っているのがクレアには垣間見えた。守り人が与えられた使命に反するというのもあるのだろう。街の異常を管理し、問題に対処するというのが守り人の役目だが、その目的はゴルトヴァールの理念に基づくもので――そのどちらにも帝国のやり方は相容れないということだ。


 ゴルトヴァールについてはクレアから見て、結果が歪んでいると言っても誰かの幸福を願った形なのだ。だから、大本にあった願いの部分を否定しようとは思わない。そういう根本の部分があるからこそ、ルファルカも外部の人間達の思う幸福を理解したいと言ってきたのだ。ルファルカが不快に感じる理由もそういうところに起因しているのではないかとクレアは思う。


 ともあれ、エルンスト達がああして外套のフードで顔を覆っているのは個々人の特定をしにくくするためだ。別行動をしている者がいるのかいないのか。再現魔法行使のための人員の中に、帝国側の人間が紛れてはいないか。そういうものを分かりにくくすることで対応を難しくしている。


「街中を堂々と進んでいるのも、住民を盾にするつもりだろうな」

「ああ……。私達は住民を巻き込まないと踏んでいるわけですか」


 住民達をわざわざ傷つけるような実験を行った帝国はともかく、元通りの状態まで復元されるというのは知らないだろうと踏んでいる。

 今までの情報からクレア達は住民を戦いに巻き込まないと思っているのだろう。それは正しい。仕掛けるにしてもクレアはそういう懸念のない場所を選ぶ。

 逆に言うなら、仕掛けるタイミングをエルンスト達も予想しやすいということだ。周囲に人のいない場所に差し掛かったら警戒度を高くすればいいのだから。


 要するに、人通りの多いところを選んで街中を行く限り、結界塔近辺までは襲撃を受けにくく、受けても人質や盾として使うことも含めて有利に立ち回れると思っているということだろう。


 クレアはかぶりを振った後で、口を開く。


「対策はあります。もう少しこちら側に進ませてから仕掛けましょう」


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― 新着の感想 ―
 時間稼ぎかクレアたちの殲滅を狙った手か?帝国側も即座に望みを実現できるわけではなさそうだけれども。具体的に何を望んいるのか、ここまでの状況からすると「不滅」とか「不老不死」の肉体ってことっぽいが。そ…
自分達以外の人間がどうなろうと知った事かって感じやろなあ 悪党らしくはありますな
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