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第298話 帝国の奥深くへ

「後のことはお任せください。殿下が動きやすいよう、私達も支援に回ります」

「ありがとうございます」


 クレアは反抗組織の者達と現在の状況、今後の方針と帝国の情報について共有していった。その上で連絡手段の確保ということで、契約書が健在である限りは危険がないことを知らせ合えるといった魔法契約を取り交わし、ウィリアムの固有魔法で転送と移動を行うための図形を記した紙を渡した。


これにより、彼らが別行動をしていても危険を察知して救援に向かえるし、必要な時にまた会いに行くことができる。


 情報漏洩を防ぐ意味合いでも、それらは再び会う手段になるだとか連絡が取れる魔法道具、としか伝えてはいないものの、彼らもそれを深く聞くことはせず、素直に受け取っていた。シルヴィアやディアナ、グライフ、ジュディスといった顔触れが共にいることもそうだが、他ならないクラリッサ王女の言うことでもあるからだろう。


 ルーファスを救い出し、ヴァンデルを単独で倒した、と聞かされていれば尚のことだ。


 ともあれ、次なる目的地はクラインヴェールだ。出発までの時間でできる限り旧交を温めつつも情報共有をしようと、クレア達は彼らと一緒の時間を過ごした。上階にある酒場の厨房を使わせてもらい、料理を作って一緒に食べながらの時間だ。


「大樹海の素材で作った料理ですね」

「魔力の回復も期待できるわ」


 クレアやディアナが笑って言うと組織の者達は「高級食材ですな……」と感心しながら料理に舌鼓を打っていた。

 帝国の庶民の食生活は、実際のところあまり豊かとは言えない。生産量はともかく、種類があまり多くはなく、必然的に食卓に並ぶメニューもそう多くはないのだ。

 ただ、気候や風土等の面から酒造は盛んな方ではあるだろう。多民族の技法が流入していることもあってその辺は種類が豊富ではあるかも知れない。


 そうした食生活の事情は庶民間の話だ。純然たる帝国国民、特に帝国貴族の食卓は豊かなものではある。大樹海で確保した食材はどうかと言えば、帝国貴族でも南方に任地を持つ者でも無ければ口にする機会は少ないと言えるだろう。特に、魔物肉の類は。


 そんなこともあって、反抗組織の面々にとっては豪華な食卓となったようだ。

 とはいえ、そういった食事情もまた情報になる。支配した周辺民族を屯田兵のように使って食料生産をさせているという背景も垣間見える以上、地方を切り崩すということは帝国の兵站そのものを切り崩すことに繋がるだろう。


 軍事国家である以上、完全にはその辺を周辺民族に委ねてはいないようではあるが、帝国の軍事力を支えているというのは間違いない。


「周辺民族を支配から解放していけば、外征をする食料生産能力そのものを奪えそうではありますね」

「過程で彼らが飢える危険性が少ないというのも、良い事だな」


 グライフが頷く。居住している場所での食料生産能力がある以上は帝国から離反してもすぐ飢えるということにはならない。周辺民族同士で協力したり、クレア達が技術、知識面での支援をしたりというのも込みでの話だ。


 その他にもウィリアムやイライザの知識と照らし合わせつつ、クラインヴェールとその周辺地域であるとか、ウィリアムが国を離れてから今日に至るまでの帝国国内の情勢、状況といった情報を反抗組織の者達から得ていったのであった。




 食事をしたり談笑したり。同郷の者と巡り会えたことを喜ぶ時間も重ねてからクレア達はクラインヴェールへ出発することとなった。

 正確には、クラインヴェール近郊の土地へウィリアムの固有魔法で飛ぶ。出現場所はウィリアムに委ねるのが一番安全だろうという判断だ。

 帝国中央近辺。現状を踏まえるなら警戒度も高いだろうし、反抗組織からの情報を得た上で土地勘のあるウィリアムやイライザが相談して決めるのが一番確実と言えた。


 そうして、クレア達は夜になってから移動を開始することとなった。帝国中央部ともなれば警戒も厚い。明るい時に移動するよりも暗くなってからの方が色々と誤魔化しやすい。


 ウィリアムと共にクレア達が固有魔法で移動する。光に包まれてそれが収まると北方の、肌を刺すような冷涼な空気が少し変化したのをクレア達は感じた。


 それでも南方にあるロシュタッド等に比べると冷たい空気なのは間違いない。出現したのが上空だから尚更ではあるだろう。


「これが……固有魔法。離れた土地に一瞬で移動してしまう、なんて。それに、クレア様のこの魔法も……」


 情報追跡を行った組織の人員――ドローレスが周囲の状況を確認しながら声を漏らす。


 場所が変わったかと思えば既に隠蔽結界と糸に包まれ、空中をゆっくりと進んでいるような形になっていた。すぐに糸繭に包まり、外の景色は糸によって映し出されるような形に変化している。


 暗視で周辺の地形は見えている。糸繭の中にはいるが、四方――360度を見回せるように円周上に景色が映し出されていた。


「少し離れた位置に竜騎兵の哨戒が飛んでいますが――こっちには反応していませんね。……どちらの方向に向かったらいいでしょうか?」


 周囲の状況を探知魔法で確認し終えたのか、クレアがそう尋ねるとウィリアムとイライザ、ドローレスはそれぞれ周囲を見回し、確認すると一つの方向を指し示す。


「今出た場所はクラインヴェールから少し離れたところにある、小さな湖の上だ。周辺の水源地として利用されてはいるが、街道からは外れていて人の往来は少ない」

「あちらへ向かえば、街道が見えるはずです。そのまま街道沿いに進んでいけばクラインヴェールに至りますね」


 そんな言葉にクレアは頷き、糸繭をグライダーのように変形させてゆったりとした速度での飛翔を開始した。傍から見れば夜の闇に同化した鳥のように見える、かも知れない。もっとも、認識することのできる者がいればの話だが。


 周囲の色と同化し、高度な隠蔽結界で気配を消す糸繭は、視認も探知も困難を極める。それでもクレアは慎重に飛翔させていく。


 ここは既に帝国の奥深くなのだ。探知魔法の網を伸ばせば竜騎兵の哨戒が飛び回っているのも感知できるし、地上から探知魔法を放っている魔術師がいるのも知覚できる。


「探知魔法を使っている術師がいるようですわね。種類と範囲をお伝えしますわ」


 セレーナが進行方向を確認しながら言う。


「ありがとうございます。相手の網に触れないに越したことはないですからね」


 セレーナの伝えてくれる情報に従い、進路を調整しながらクレアが答える。

 その探知魔法の数と種類に驚いたのはドローレスだ。


「すごい警戒ですね……。前に追跡した時はここまで防備は厚くはなかったのですが」

「短期間で魔将ネストールと二人の皇子を失っている状況だものね。どうしても警備は厳重になるわよね」

「予想していたことではあるけれど……」


 ディアナとシルヴィアが言って眉根を寄せる。


「この調子だと、都市内部の警備もかな」

「けれど、逆に分かりやすいところもありますよ」


 ニコラスの言葉に、クレアが応じる。


「というと?」


 ルシアが首を傾げると、クレアはあまり気負ったところもない様子で応じる。


「恐らく、クラインヴェールで一番警戒の厳重なところが私達の目指すべき場所かと。城内であっても、別の施設であっても、です」

「それは――確かに分かりやすいな」

「姫様は剛毅でいらっしゃる」


 グライフが少し笑みを見せ、ジュディスも笑って言った。そうして――クレア達はクラインヴェールを目指して進んでいくのであった。

あけましておめでとうございます!

昨年中は大変お世話になりました。

今年も頑張って更新していきたいと思いますので、書籍版共々どうぞよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
厳重にすればする程、調べるに値するナニカはありそうですもんねえ あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。
明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします ただの隠蔽結界とかスキルではなく外を見られる繭玉は確かに隠蔽がバレても防御機構としてもワンクッション置けるのでよく考えたらかなり優秀です…
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