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第271話 要塞の内通者

 ヴァンデルと出撃している兵の様子。要塞の状況。それらの状況が落ち着いているのを見て取ったクレアは、そのまま要塞の構造を確認していく。


「門は閉ざされていますが、監獄島の時とは違いますね」

「というと?」

「要塞故に外と内をやり取りする場所が絶対に必要なわけです。例えば、矢を射掛けるための射眼。岩や煮えた油を落とすための岩落とし……。そういった場所は結界に空いた穴と言えます」

「攻撃を仕掛けながら遮断もできるような美味い話はない、か」


 グライフがクレアの言葉に言う。


「はい。射眼も岩落としも、人員が配置されていますしまともに敵兵が侵入するには狭いですが……」

「私達の場合――というよりもクレア様の場合は関係がないというわけですね」


 イザベラがにっこりと笑った。


「そういうことです」

「無事に内部に入ったら受け取っている情報を参考に、潜入している仲間の所へ向かいましょう」


 シルヴィアが言う。内部の情報はある。しかし、要塞内部の構造を網羅するようなものかと言えばそれは違って、潜入している人員の肩書きに沿って不自然ではない場所を中心としたものとなる。


求められているのは要塞の弱点だとか、人質が捕らわれている場所、それから人員に接触するにはどうすべきかといった情報であるが、それらはリスクとリターンを天秤にかけつつ潜入した人物が集めてくれたものだ。長期に渡って要塞内部に潜入し、情報を得て、それを伝えるべき相手に伝える。


「大変な任務だったでしょうに」

「そうね……。その人物も魔術師で独自の技術体系を開発しているわ。制限はあるけれど、情報収集はその術を使ったものね」


 シルヴィアが言う。その魔法の具体的な内容については当人から聞いて欲しいということだ。調査方法は今回の潜入工作には直接関係ないし、魔術師の通すべき義理として他者の術の秘密を勝手に明かすわけにはいかないということだろう。


 クレア達は小人化の術を使い、射眼に近付くと巡回や見張りの有無を確認。手薄な箇所――というよりも注意が向いていない場所を見つけると、そのまま一気に要塞内部に潜入して糸繭表面の質感を建材に合わせたまま、天井に張り付いた。

内側に侵入してしまえば、後は結界に遮られていないから簡単なものだ。少なくともヴェルガ監獄島程の警備態勢ではないのだから。


クレアはそのまま建物の形状に沿うように糸を伸ばし、周辺構造や配置されている兵士達の位置を把握しつつ、立体図を構築していく。


 人員から受け取った情報や潜入した位置、クレアが得た情報を照らし合わせ、今自分達がいる位置を把握していく。


「情報と矛盾はないな。裏切りの危険性はなさそうだ」

「一応、当人と会った時に私の方でも確認はさせてもらいます」


 ウィリアムとイライザが言う。

 クレアの得た情報と、人員の送って来た情報との間で矛盾がないかを確かめることで、裏切りや罠の危険性を潰すことにも繋がるというわけだ。そうやってクレア達は情報を集めて自分達のいる場所を把握、特定。そうしてから天井の暗がりを滑るようにして要塞内部を移動していった。


 やがて、クレア達は潜入している人物の居室に到着する。


「要塞内における肩書きとしては料理人なのよね」

「料理人ですか?」

「ええ。料理人として北方軍に現場で力を貸したいと志願して配属してもらったということになるわ」

「その上で独自の魔法も使える、と……。それは、帝国打倒のためですか」

「ええ。そういう志を持つ人よ」


 シルヴィアの言葉に、少女人形が少し感じ入って目蓋を閉じる。そこまでして力を貸してくれるような人物が味方でいてくれることが、有難いとクレアは思う。


 それだけに今回のことでスパイだと発覚して身に危険が及ばないよう、しっかりと対応しなければならないだろう。


 クレア達はそのままもらっている情報を元に、反抗組織の人員が潜伏している私室に向かう。糸で鍵を開け、消音結界を展開して扉を開けると、そのまま部屋の中に音もなく滑り込んだ。


 既に部屋の中は明かりが落ちており、寝台の上に誰かが横になって寝息を立てている。


「眠っているところに申し訳なくはあるのですが……あの方ですか?」


 クレアは糸繭の中から周囲を確認してシルヴィアに尋ねる。


「そうね。間違いないわ。彼も無事なようで何よりね」


 シルヴィアが肯定すると、少女人形が頷いた。


「では――。妖精人形を使って起こす感じで行きましょう」


 クレアはそう言うと妖精人形糸を繭の外に送り出す。

見知らぬ人間がいきなり部屋の中にいるよりは、妖精人形を一旦挟んでワンクッション置いた方が驚かせない。どちらにせよ消音結界を展開しているから騒ぎにはならないし、人形なので反射的に攻撃をされても問題はない、というわけだ。


 クレアは妖精人形にぼんやりとした光を纏わせて、飛行させ、その人物の肩を軽く揺さぶった。


「……な、なん……だ……!? よ、妖精……!?」


 妖精人形は、男が跳び起きて身構えると敵意はないというように少し離れて、指を口の前に持って行く。

 その様子に男は目を瞬かせるが少し落ち着きを取り戻したようで、妖精人形の出方を窺うというようにじっと視線を向けてくる。


「いきなり起こしてしまってごめんなさい。まずは話を聞いて欲しいのですが」


 妖精人形を介して――クレアではなくイライザが言葉を伝えると、男は頷いた。


「今、要塞に囚われている巨人族の救出や帝国軍の撃破に動いています。囚われている方を救出すれば、大きな騒ぎになりますから。その前に現在の状況を確認し、あなたの身の安全も確保したい、と思った次第なのです」

「それは――君は俺の仲間の知り合いという理解でいいのかな?」

「はい。帝国に対抗するための仲間……ですよね?」


 イライザが確認を取るように聞くと男は「ああ」と頷く。その言葉を受けて、イライザもまた静かに頷いた。裏切り者ではないという確証が持てたためだ。


「実は、仲間達を連れて要塞に侵入しているのです。いきなり姿を見せると驚かせてしまうと思って、まずは私が声をかけました」

「そう、なのか。かなり本格的な救出作戦なんだな。俺の案内が必要か?」

「貴方がそう思うのであれば。ですが、その前に。ここに来ている人達の姿を見せておこうかと。魔法で姿を消していますので、驚かないようにしてください」

「分かった」


 男の了承を得たところで、クレアは姿を見せる。クレアに続いてシルヴィアが姿を見せると、男は驚いて立ち上がった。


「あ、貴女が直接いらっしゃるとは……!」


 男はシルヴィアの姿に一瞬固まる。男はアルヴィレトの出身ではないが、シルヴィアが反抗組織の中でも立場のある者だと知っていた。


「結構大がかりな作戦なものでね。それに……私の娘が加勢に来て、作戦のために動いてくれているとなれば、一緒に肩を並べて戦いたいわ」

「娘……その方が?」

「初めまして。名前については、帝国に追われる身でもありますので今は伏せておきます」


 クレアは男に一礼する。


「そうでしたか。俺のことはホレスと」

「よろしくお願いします、ホレスさん」


 クレアはホレスに挨拶を返し、同行している他の面々も糸繭から出てもらい、隠蔽を解いて紹介する。


「こんなに同行者がいたとは――。いや、それ以前にここまで気付けないというのは相当高度な隠蔽結界だな……」


 そうして姿を見せたグライフ達に、ホレスは驚いている様子であった。


クレアの隠蔽結界の精度もであるが、質感を周囲に合わせた糸繭と小人化により、術を抜きにしても認識は困難を極めるという絡繰りもあった。それでもネストールに見破られたように絶対とは言えないから油断はできないと、クレアとしては思うところではあるのだが。

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― 新着の感想 ―
要塞内部まで潜入してきたのがそんな上の人とは思わないでしょうなあ危険極まりない任務な訳ですし
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