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第216話 焦点となるのは

 準備が整い、辺境伯家の護衛やエルランド達に守られる形でクレア達は馬車の車列に乗り込み、王都へと出発した。


 辺境伯家の家紋を付けた馬車という事で、道中ちょっかいをかけてくるような相手はいない。クレア達は到着してからどのように話を切り出すか。同盟の利点をどのように伝えるか等の確認や打ち合わせをしながらも進んでいった。


「しかし……乗り込んだ馬車が違ってもお互いの声がやり取りできるのは便利ですな」


 クレアの糸の魔法にリチャードが言う。


「糸で声の振動を伝えているわけです。本物の糸のように張る必要もありませんし糸の途中で何かが触れていても音を伝えられます」


 糸の視点と終点で音を送受信する部分の動きを妨げなければ良いので撓んでいたり地面に触れていても良いし、複雑に張り巡らせていても同時に複数の地点と双方向での会話ができる。


「いやはや。他国の姫君でなければ諜報部隊に勧誘しているところなのですが」


 リチャードがクレアの説明に苦笑する。そして、本当にアルヴィレトの王族で良かったとも。監獄島からの救出作戦を成功させたのはクレアの固有魔法や身に付けている技術体系によるところが大きいが、少なくとも当人の性格や思慮、分別から考えてその力がロシュタッドに向くことはないだろうと思われた。


 普段の行動や信用の重要性。旗印であろうとする事や戦いの矢面に立つ精神性等からの判断だ。根拠というよりはリチャードの経験則や人を見る目の話にはなってしまうが。


 矢面に立つというのはリチャード個人としては好ましい性格だとは思うものの、アルヴィレトの臣下達としては気が気ではないだろうとも感じて少し同情してしまうところがある。

 支える者達は大変だろうが、それでも仕える主として仰ぐのは幸福だと思う者も多いのではないだろうか、とも思うが。


 そうやって話をしながら車列は順調に街道を進んでいく。途中フォネット伯爵家にも立ち寄り、一泊する事になった。


 フォネット伯爵家夫妻のマーカスとパメラ、そして嫡男カールもまた、好ましい人物達だ。目立たないながらも領民の事を思い、清廉に領内に善政を敷いてきた。鉱山竜に絡んだ国内事情で割を食う事が無ければもっと領内は発展していただろう。

 鉱山竜といういつ災厄を起こすか分からないものを抱えたままでは、鉱山以外の事業を行おうにも躊躇われる。そのため堅実ながらも地味に、領民を飢えさせないための領地経営をコツコツと行うしかなかったのがフォネット伯爵家だ。中立的立場から動けない辺境伯家の事情がなければ、何かしらの支援や優遇策等を持ちかけていたところではある。


 いずれにせよ、隣接する土地の領主がフォネット伯爵家というのはリチャードとしては心強く思うところもあった。

 現在では鉱山の再開発と街道の整備で急速に発展し、活気づいているが、それに伴う治安面での懸念も領内の見回りと領民達の協力、冒険者達の活用によってうまくやっている様子である。


 整備している街道警備に絡んだ話もあるので、リチャードはマーカスやカールと警備計画に関する話を交わし、伯爵領滞在中、有意義な時間を過ごす事ができた。


 一泊して再度王都に向けての出発だ。


 やがてクレア達を乗せた馬車は王都へと到着する。辺境伯家の紋章を付けた馬車が到着すると、すぐに王城からの出迎えがやってきて、そのまま王城へと通されることとなった。滞在用の貴賓室に通され少し身体を休めた後、準備を整えて面会用に用意された会議室にてリヴェイラ王、シェリル王女、宰相スタークを交えて面会すると予定を伝えられたのであった。




 会議室へと案内されてリチャードが向かうと、ルーファスとクレアは普段の服装から変えて、王族らしい装いになっていた。


 同盟といっても密約であるために謁見の間のような公式の場での面会ではないものの、今回はクラリッサ王女としての訪問であるため、しっかりと準備を整えてきているようだ。


「おお。装いが変わりましたな」

「とりあえず王都訪問に合わせてという事で、礼服も作ってきました」


 シェリル王女に仕立てたドレスと同様の魔物素材であるらしい。光沢のある黒地に銀糸による刺繍が施されていて、鍔広の尖った帽子もセットとなっていて魔女らしい装いはそのままにもできるが、今回は頭部に身に付けるものをティアラに替えて、そのまま王女としての装いとしての登場だ。

 装飾や染色も珍しいもので、話題になっていたシェリル王女の青いドレスと共通する特徴がある。作ったのがクレアであるというのがよく分かる品ではあるだろう。


 ルーファスに関しては白を基調としたローブに細かな刺繍が施されており、クレアとは反対の色使いでありながらも同系統の意匠であるというのが窺える作りであった。

 意匠に関してはアルヴィレトの礼服についてクレアが尋ね、その範囲内から逸脱しない程度に装飾や染色のアレンジを施した形だ。


 車椅子も監獄島で支給されていた必要最低限の質素なものからは刷新されている。金属製の車輪をゴム状の樹脂で覆い、ルーファス自身の魔力制御による移動が可能だ。段差や悪路の移動も苦にならないように浮遊の術を発動できるため、馬車の乗り降り等も簡単なものだ。


 他者が押した場合も軽量で頑丈。他にも開閉式のフットサポートや車輪に巻き込まれないようにハンドガードがついている等、地球側の知識を基に快適性や操作性を高める工夫があちこちに凝らされていた。

 普通にしていたら目立つ事この上ない品ではあるが、認識阻害系の術をルーファス自身が展開できるから普段も問題にはならない。


 佇まいや身の回りの品だけで魔法技術の高さが窺えるというのは、少なくとも同盟の交渉においては良い事だとリチャードには思えた。


 クレア達の装いの変化を見ていると、ほとんど待たされることも無く、リヴェイル王、シェリル王女、それに宰相のスタークも会議室にやってきた。


「お初にお目にかかる。アルヴィレト王国国王、ルーファス=アルヴィレトだ。座ったままの挨拶になってしまう不作法を許して欲しい」

「こちらこそ、お待たせしてしまったようだ。ロシュタッド王国国王リヴェイルだ。ルーファス王の名誉の負傷についてはパトリック宰相より聞いている。以後よろしく頼む」


 リヴェイルはルーファスの挨拶に相好を崩して応じた。


 リヴェイル王は物腰の柔らかい人物だ。思慮深く、穏やかな人柄で知られている。ルーファスと挨拶を交わし、リチャードとも久しぶりに顔を合わせた事の喜びを伝える。


「辺境伯も息災なようで誠に喜ばしい。貴君が北方の守りを担ってくれているからこそ、王国の平穏が保たれている事に改めて感謝を伝えよう」

「勿体ないお言葉です。陛下の治世あってこそ後顧の憂いなくあの地を治められるのです」


 リチャードも一礼して応じる。

 それから、リヴェイルはクラリッサ王女に目を向けた。今のクレアはクラリッサ王女であるために偽装魔法等は使っていない。

 金とも銀とも付かない明るい色の髪。鮮やかな紫の瞳。神秘的な雰囲気の、人目を惹きつける少女がそこにいた。容姿も確かに息を呑む程の美少女ではあるが、どうも色々話や情報を集めて見ると、只者ではない、という事が分かっている。


 実際目にしてみても、身に纏った魔力が普通のそれではない。鍛えられ、研ぎ澄まされた者特有の魔力ではあるが、それ以前に神秘性を感じさせる不思議な魔力なのだ。一度見えた事のある高位の精霊と相対しているような。そんな感覚にさえなる。今回の会談の焦点とも言うべき重要人物である、というのは間違いないだろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] 王族としての作法教室は伯母さまがしてくれたんでしょうか? パパの足はハイパー仕込み義足かハイパー戦闘用仕込み車椅子に魔改造してもよいのかも! ロケットランチャーが飛び出す車椅子とか胸熱
[一言] よくよく考えると王女自らドレスなんかを仕立ててしまうってのは服飾職人泣かせですよねえw
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