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第212話 眠る者達へ

「到着だね。寛いでいくといい」


 ロナの庵は以前と全く変わりなく平穏な雰囲気だった。小型のゴーレム達が農作業や山羊の世話をしていて、穏やかでゆっくりとした時間が流れている。


「ここでクレア様は魔法の修行をして育ってきたわけですか」

「本当にすぐ外が大樹海とは……」

「アルヴィレトの王都もそこはあまり言えませんが……。周囲の魔物は強いものが入らないようにしていましたからね……」


 アルヴィレトの面々は興味深そうに周囲を見回していた。


「クレアを育ててくれた事に改めて礼を伝えたい」

「確かに……ここでは幼子は大変だったのでは」

「クレアに関しちゃ、外の危険性を早くから理解してたから、あたしが許すまでは敷地の外に勝手に出たりはしなかったよ。そういう意味じゃ手がかからなかったかね」


 ルーファスやパーサに言われて、ロナは肩を竦める。


「それに関してはロナから言われていましたし、天空の王が飛んで行くのも目にしていましたから、外に出たら危なそうだな、と子供心に」


 クレアが近くに寄って来た山羊を撫でつつ言うと、一同も納得したように庵の周囲や上空に目を向けていた。


 それからクレア達は早速庵の裏手にある墓所へ向かう。


「帝国の刺客も同じ場所で亡くなっていて、ここに埋葬されています。私は……もう亡くなってしまった方に弔いの気持ちを向けないのも、と思うのでお参りしますが、気になるのでしたら――」


 そう前置きしてから、クレアはロナとグライフが幻術でどんな見た目の人物がどこに埋葬されているか、について確認した事も伝える。それによってアルヴィレト王国の者達に関してはオーヴェル以外の身元も判明している。


 ロナは装備品や非戦闘員かどうかの特徴で分けて埋葬したから、王国と帝国の人員で分けられてはいたが。


「確かに……刺客達に関しては複雑に思うところもありますが……」

「埋葬というのは、アンデッドを発生させない意味合いもありますからな」


 パトリックとロドニーもそう応じる。


「オーヴェルさんと一緒にいた方達は、どんな方達だったんですか?」


 クレアが尋ねる。名前ぐらいならばともかく、その人となりに関しては、当時のグライフがまだ年若かったということもあり、分からない部分が多かったのだ。クレア自身、オーヴェル以外に一緒に脱出した者達について、詳しく知りたいと、そう思っていた。


「そうだね……。彼らについての話をしよう。きっとクレアが覚えておいてくれると、彼らも喜ぶ」


 ルーファス達はそう言って遠い所を見るような目をすると、一人一人の名前を挙げて、どんな人物で何をしていたか。どんな性格でどんな思い出があったか。それらをクレア達に伝えていった。


「近衛騎士。乳母。塔の術師に典医の弟子。女官……。肩書きは色々だけれど、君が生まれた時に祝福に駆けつけた」

「王家とも懇意にしている顔触れですな。全員が信頼されていて古くから我らも知っている、或いは将来を嘱望される者達です」


 人選としてはクラリッサ王女を守れる者、その身の回りの事が出来る者、教育を施せる者。運命の子であるクラリッサを守り、育てる事ができるようにと、そういう想いを託された者達だったのだ。


 ルーファス達の話す言葉にクレアは静かに聞き入っていた。


 そうして、話を聞き届けてからクレア達は墓前に黙祷を捧げていった。オーヴェルには自分の命を繋いでくれたことへの感謝と敬愛を。アルヴィレトの者達には仲間達との再会が叶わなかった事への哀悼と冥福を。

 帝国の刺客達にも、そんな任務に従事しなければならない者達がもう出ないようにと平和と平穏を祈る。


 そうした祈りは今までもしてきたことではあるが、名前や肩書きが分かった事で自分に対してどんな想いを抱いていたのか、どんなことをしようとしてくれたのかを理解した事で、一人一人への黙祷に込める感謝も、より具体的で鮮明なものとなる。


 生き延びていればきっと今も隣にいてくれたであろうと、そう思える人達だった。


 そうした事もあって、クレア以外の者達もかなり長い間墓前で祈っていた。


 やがて黙祷を終えるとクレア達は顔を見合わせて頷き合う。


「それでは、天幕等を張ったら少し身体を休めてのんびりとしましょうか。色々とお話もしたり、聞いたりしたいですし」


 クレアが言うと、エルランド達も笑って頷いた。


 ロナの庵にある一角にエルランド達は早速天幕を張って、野営の準備を行う。場所は敷地の外れではあるが、結界内部なので安全である事に変わりはない。


 ロナの庵の中でのキャンプといった様相で、そこに加わって話をするのはクレアやセレーナにとっては割と新鮮な雰囲気もあった。

 庵の台所にて夕食の準備を進めつつ、天幕の前に腰を下ろしてエルランド達と話をする。孤狼達もクレアが腰かけると近くに寝そべって寛いでいる様子であった。


 グライフやエルランド達のオーヴェルとの思い出であるとか、国を脱出してから南方諸国に落ち延びた後、冒険者として修行を積んだ期間であるとか、そういった内容についての話をしていく。


 南方で冒険者として活動していた理由はいくつかあるが、グライフと同様、落ち延びた者達を探すためということもあるが……何よりエルランドは門下生達を抱えていた。

 ロシュタッド王国では目立ちたくなかったという点が挙げられる。


 何せ同門だ。同じ技術体系を持つ者達で、アルヴィレトの防衛戦でも一戦を交えている以上、帝国の間者からしてみれば目立つだろう。


「そこで私達は孤児達を保護して冒険者として育てている、という体を取りました。それならば同門であっても私達が指導しているためで、不自然にはなりませんから」


 エルランドとその妻となったマイラが指導を行いながら南方諸国で冒険者チームとして活動。訓練を積みながら実戦も経験してきた、というわけだ。


「基本的には魔物を相手にしていましたが、商人の護衛や盗賊捕縛等も請け負っていました。そうした任務にも慣れておきたかったので」

「要人の護衛と対人戦の訓練ですわね」


 魔物との戦いとはまた勝手が違う。人は戦略を持って組織的に動くし、何より盗賊とはいえ、人が相手なら斬るには覚悟は必要だからだ。


「依頼の流れで、船上での海賊との戦いも経験した事があります。対帝国ではあまり関係のない経験ではありますが、その折にロシュタッド王国のミュラー子爵にもご協力を頂きまして。ロシュタッド王国は信用できそうだと感じられた部分でもありますな」

「ミュラー子爵はロシュタッド王国でも高潔な方として有名な御仁ではありますわ。私の身を案じて不穏な情報を伝えてくれた方でもありますわね」


 セレーナが嬉しそうに微笑む。


「ミュラー子爵からの情報が鉱山竜の討伐に繋がった部分はあります。特に、フォネット伯爵家の被害を未然に防ぐ事に繋がった部分は大きいかと」


 クレアが鉱山竜討伐までの顛末について少し話をする。王国の内情は伏せつつ、ダドリーの情報を聞いて警戒していたから早期に駆けつける事ができたと、そう話をする。


「鉱山に巣食った竜が討伐されたという話は聞き及んでおりましたが……竜滅騎士殿と共に討伐に参加なさっていたとは……」

「情報を明かせない部分がありますから、そこは王国に対しても伏せるように動いてもらった結果ですね」


 少女人形が嬉しそうに身振り手振りをしながら言うと、エルランド達も笑みを見せる。ミュラー子爵やフォネット伯爵、トーランド辺境伯といった貴族達は話が通じるし悪印象を持っていないという事を考えると、足場としても信用できる。彼らにもそれぞれ立場が優先される部分があるから甘える事はできないが、それでも対帝国ということを考えた場合においては心強い話であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これまで成してきた事がどれも英雄譚に謳われてもおかしくない事ばかりですよねえ なんとも破天荒な経歴のお姫様になっちゃったもんでw
[一言] 晩御飯は何だったんでしょう。異世界風カレーライス?
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