表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
文芸コラム 『言葉の精練』 -魔法に変わる言葉-  作者: Kobito


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/89

第53回 長期休載の連載を再開する方法(難ルート)

第52回のコラムで、とうとう猫子さん姉弟きょうだいの、子猫だった頃の追想記が、一応の完結を迎えましたね。

確認してみると、実に、3カ月以上にわたって、猫子さんの出番が続いたわけです。

私も、猫の視点で見た三百四十年前の世界を、興味深く楽しませてもらいましたが、近頃は、「そろそろ、このコラムの本題である、創作関係の分析的な論考を書きたいな。」、とも思っていました。


それで、いざ猫子さんの追想記が脱稿して、こうやって久しぶりに自分の出番が回ってきてみると、どういうわけか、調子が変なんです。


以前は、テーマを探すのも、それほど難しくなかったし、書き出せば、いろいろ話が広がって、その流れに身を任せていれば、程よい文章量のコラムができ上がった気がするんですが、今は、そういう自然な流れがない感じです。

どうしてそんな感じがするのか、考えてみると、どうも、あまりにも長く、創作関係の論考から離れ過ぎた事が、原因なのではないかという気がします。

例えば、長年訪れなかった旧知の土地を、再訪した時に感じる、温かく迎えられたい期待とは裏腹の、他人行儀さとでもいう感覚です。


とはいえ、妙によそよそしい世界にぽつねんとたたずんで、途方に暮れていても仕方がないので、こういう時に、再びペン(パソコンなので、タイピングでしょうか)が走リ出すようになる方法を、考えてみようと思います。


これまでの経験上、連載の過去の投稿を読み返して行くと、何となく書けそうな感覚が戻って来る、という事は分かっていますが、それだとオーソドックス過ぎるので、今回は、少し変わった手法、『概念的がいねんてき見地けんち』から、休載が長くなった連載に復帰する方法を探ってみることにします。


ちなみに概念とは、「物事を思考によってとらえた時の、その思考の内容」の事です。


小難しい言葉を使いましたが、要するに、空想で別な状況に置き換えて考えてみよう、という事です。

今回は、休載中の連載が舞台なので、そこを上記のような旧知の土地だと仮定して、妙によそよそしい状態から、昔のように環境に馴染んで生活できるようになる方法(再び連載が書き進められるようになる方法)を探ってみましょう。


では、さっそく始めます。


---------------------------------------------


その土地は、あなたが子供の頃住んでいた、郊外ののどかな町です。田んぼと畑の広がる中に、ぽつんぽつんと似た造りの古民家が立っているような田舎ではなく、ビルが立ち並んで夜は遅くまでネオンがきらめく賑やかな都会でもない、山もあり川もあり大型スーパーもある、言ってみればどこにでもある庶民的な町です。

あなたはそこで、高校生の頃まで暮らしますが、その後は家族と共に遠く他県に転居する事になり、以降二十五年もの間、同地の土を踏むことなく過ごします。


その間も、あなたは時折、友達と裏山の頂上まで登った事、川で服を着たまま泳いだ事、駄菓子屋で小さなお菓子を選びに選んで買った事など、子供の頃の出来事を懐かしく思い出します。


ある日、所用で昔住んでいたその町の付近を通りかかったあなたは、二十五年の間に、町や家の近所の様子がどんな風に変わっているか、確かめてみようという気持ちになります。


車で走る事一時間、いよいよ、見知った街並みが見えて来ました。

建物が新しくなっていたり、商店のテナントが変わっていたりはしますが、意外と見覚えのある光景がたくさん残っています。大通りのバス停の前の住宅街に、一棟だけそびえ立つ高層マンション、コンビニの隣の小ぢんまりとした郵便局、商店の並びの角っこにある、尖ったようなパン屋の店構え……。


ただ、家の近所の川は、流れに沿った岸に丸太を模したコンクリート製の柵が整備されて、車道も広く、きれいになり、子供の頃に毎日のように通った記憶からすると別世界のようです。


細い路地へ入って、塀に挟まれた緩い坂道を上って行くと、左に懐かしい農家の肥溜め小屋があり、畑を横目に過ぎたその先に、子供たちの格好の遊び場だった寺の境内へ上る階段と、昔住んでいた家に続く袋小路の小道への入り口があります。


小道の角の家の、苔むして黒ずんでいた塀は、今はシックなレンガ色に塗られて、寂しげだった小道をずいぶん明るい雰囲気にしています。

その隣が、あなたが昔住んでいた家です。

灰色だった外壁は、パステル調の水色とカーキ色の二色に塗り分けられて、心持おしゃれな装いになってはいますが、建物は、改築して小奇麗だった当時と全く変わりがありません。

住んでいるのは、あなたの一家が引っ越す際に、家を買った人でしょうか。

二十五年も経過すると、元いた家も、ご近所も、誰が住んでいるのか、定かではなくなるものです。


ここまで来て、あなたは期待していたほど、故郷に温かく迎えられている気がしない事に気が付いて、当惑します。


変わった所もいろいろあるけれど、当時の面影はあるし、ちっとも変っていない所もあって、懐かしく感じていることは確かです。

でも、どこかもう、ここに自分の居場所はないんだという、疎外感が感じられるのはなぜでしょう。


それは、きっとあなたが思う以上に、その場所が変わってしまっており、あなた自身も、変わってしまったからです。


建物が昔と同じように見えたとしても、住んでいる人は変わっているかもしれない。

山や川といった自然も、あらためて見れば、木々の配分や流れの形の変化など、驚くほど様変わりしています。

そして、あなた自身も、今は故郷から遠い場所に生活の拠点があり、長年にわたって当時の思い出の景色だけを故郷のよすがにしていた結果、次第に現実の故郷から遠ざかってしまい、気が付いた時にはすっかりよそ者になっていたのです。

ですから、昔と全く同じ感覚で、そこに馴染んで行く事は、難しいかもしれません。


もし、あなたがその土地にもう一度、根を張った感じを持ちたいなら、全く新たに、そこに住居を持ち、生活環境を整えて、日々の暮らしを営み始めるしかありません。


新しい場所を体験し、新しい人に出会い、新しい関係を築く。

そうする事で、あなたの居場所は、そこに自然と生まれて来るはずです。

そうして、その場所にいよいよ腰が据わって来ると、あなたが期待してあきらめた、あなたを温かく迎える故郷という存在が、決して消え去ったわけではない事に、気が付く事ができるようにもなるのではないか、と思います。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ