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文芸コラム 『言葉の精練』 -魔法に変わる言葉-  作者: Kobito


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第35回 春に思う事と、西川先生の思い出 (作・古寺猫子)

皆様、お久しぶりでございます。

美猫の古寺猫子です。

ようやく暖かくなって来たと思ったら、夏を思わせる暑い日もあって、「日差しのきつさが昔に比べて増している。」というお隣のおばあちゃんの解説にうなずくばかりです。

こちらでは、上天気が続く中、お花見シーズンが終了して、桜吹雪を舞わせた木々に、新緑が勢いよく萌え出している様子が楽しめますが、北の方にお住まいの方の中には、「これからがお花見の季節ですよ。」という方もたくさんおられるでしょうね。日本は、世界地図で見ると、小さな島国だけれど、南の地域と北の地域で、季節の幅が非常に大きい、という面白い特徴を持っています。

季節や気候、風土の多様性は、在来生物や植物の多様性を生み、島国としてだけでなく、各地域にも独自の生態系を形成する……形成する……す?、ええと、この漢字、なんて読むのかしら……。すじ?

あらっ、手元の本を朗読しているだけだと、ばれてしまいましたね。

悪い事はできません。

読者さんに見えていなくても、きちんと借り物ではない、自分の言葉でしゃべらないといけませんね。


では、話をコロッと変える事にして、皆さんは、宇宙について、考えた事がありますか?

私は、まだ駆け出しの化け猫だった時に、肥前ひぜんで執筆活動をされていた西川如見にしかわじょけん先生という、偉い天文学者さんに、宇宙の事を教わって以来、時々、夜空を見上げては、宇宙について、考えるようになりました。

西川先生のお話は、正直当時の私には難し過ぎたのですが、地球が丸いという事と、月や太陽は地球と共に宇宙という真っ暗な空間に浮かんでいる星なんだという事を、熱心に話して居られたのが印象に残っています。(西川先生と知り合った1700年頃には、地球はすでに「地球」と呼ばれていました。)


そんなわけで、宇宙に関する関心は、猫並み以上には持っていたのですが、先日、デパートの新入生フェアのコーナーで、地球儀を見かけて、久しぶりに、西川先生の事を思い出したんです。そうすると、唐突に、宇宙に関して、新たな疑問が湧き起こって来たので、忘れないうちに、急いでKobitoさん家に寄らせて頂いて、ちょうど帰宅して玄関を開けようとしていたKobitoさんに質問してみました。

「宇宙ができる前は、そこに何があったんですか?宇宙の外側には、何があるんですか?」

「うわっ!びっくりした。」Kobitoさんは、急に真後ろから声をかけられて、心底驚いたようでした。そして、首をすくめたまま振り向いて、声の主が人間に化けた私だと分かると、

「なんだ、猫子さんかぁ。いつも音もなく近づくんだもんなぁ。小心者には心臓に悪いよ。それで?宇宙がどうしたって?」と、聞き返しました。だから、私は改めてさっきの質問を繰り返して、

「早く知りたいんです。早く教えて下さい。」と頼みました。

「そんな専門的な事は、私に聞くより、ネットで調べた方が早いんじゃないかな。」

「だめです。ネット上の情報は鵜呑みにできませんからね。」

「宇宙に詳しくない私の言う事も鵜呑みにしちゃだめでしょ。」

「じゃあ、Kobitoさんの言う事も鵜呑みにしませんから、教えて下さい。」

Kobitoさんは困ったように笑いながら、

「教えると言っても、有力な仮説もまだないくらい、未解明な分野だっていう事しか、知らないんだよ。」

「え、仮説も無いんですか。」

「いや、仮説はあるよ。この前、テレビで見た、ホーキング博士がいるでしょう?」

「車いすの物理学者さん?」

「そう。あの人が唱えていた、この宇宙で流れている時間とは異なる、虚数時間きょすうじかんの世界だったっていう仮説とかね。だけど、私には難し過ぎて、理解できない。」

「あ、私と同じですよ。」

「何が?」

「西川先生の話、ほとんどチンプンカンプンだったんです。」

「西川先生?」

「あのね、三百二十年くらい前に、肥前で交流させて頂いた、在野ざいやの天文学者の先生です。」

「三百二十年前!という事は、猫子さんが二十代くらいの時だよね。」

「そうですね。肥前の、今で言う長崎の方で、出島に滞在していたオランダ人たちと交流しておられたのが西川先生で、私は化け猫修行の一環で、そのオランダ人たちの所に居候いそうろうをしていたのです。」

「待って、その話、面白そう。家に上がって、じっくり聞かせてもらえないかな。」

「お安いご用です。というより、その話をしたくて、質問がてら、寄らせて頂いたのです。」

という事で、その日は私と西川先生の思い出話に花が咲き、遅くなったので、Kobitoさん家の夕飯のあじの開きまでご馳走になって帰ったのでした。

西川先生の、あの生真面目きまじめそうなお顔と、好奇心に満ちた、少年のようにまっすぐな眼差しが、話しているうちに、改めてはっきりと思い出されて、とても懐かしい気持ちになった夜でした。



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