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一度ある事は二度もある?

「ねぇ。これって一度はやらなきゃいけないの?」


 国境を越えて歩く事三時間。ようやく今夜の宿に辿りつく。昨日と同じように行商の集団と別れ、昨日と同じようにアス達と食堂についた私は、昨日と同じように……アスとヴィーからフォークを差し出されていた。昨日と違う所と言えば、刺さっているのが梨からサラダのパプリカに変わったくらい。呆れた私は隣に座ったアラドに思わずそう聞いていた。


「そういう訳ではないのですが……」

「なら黒の国にはこういう習慣があるの?」

「そういう訳でもないのですが……」


 なら何なのよ!! 言っておくけど食事に介助が必要なほど年取っちゃいませんからね!! 腹立ちまぎれにそう言ってやろうかと思ったけれど、何故か二人が満面の笑みを浮かべているので勢いが削がれた。やっぱりからかわれているのかしら。


「一度付き合ってあげれば気が済むかしらね」


 一回くらいどちらかのフォークから食べれば、満足して次はないかもしれない。そう思ったのだけれど、それを聞いたアラドがぎょっとした顔をしたのが見えた。


「あ、あああの……」

「ん? 何?」

「それはもう少し考えてからの方がよろしいのでは」

「考える? 何を?」

「そ、それは……」


 アラドの目線がちらりと向かいの二人に向けられる。つられてそちらを見れば、にっこりと微笑まれた。目元が見えないヴィーも口角が上がっているから微笑んでいるのがはっきりと分かる。

 一体何なのかしら。翠の国ではこんな事なかったんだけれど、謎だわ……黒の国。とりあえず、“あーん”の遊びに付き合うのは今日の所は保留ね。

 私が二人を無視して食事に取り掛かると、二人ががっくりと肩を落とすのが見えた。なんだか仲が良いのね、この二人。

 今日も私が大皿に盛られた食事を取り分ける。まずはヴィー。次にそれを羨ましそうに見ていたアス。最後にアラドへ小皿を渡そうとしたら、やんわりと断られた。


「私は結構です。自分で取りますから」

「……あ、そう」


 なんだか失礼ね。私に盛られた料理は食べられないって言うの? 仕方が無いので盛った小皿は自分の下へ。でも悔しいから言ってやった。


「ねぇ。アラド」

「なんですか?」

「私のこと嫌い?」


 途端にホゴッとアラドがむせる。あらあら可哀想にね。けれど自業自得じゃない? 女性に恥をかかせたんだから。なーんて、実際はそんな大げさな事じゃないけどさ。

 顔を青くして動揺したアラドは慌てて弁解を始める。


「そ、そんなことは!!」

「ならなんで私が盛ったお皿は受け取ってくれないの?」

「いや、その……。自分は従者ですから。わざわざお手間を取らせるわけには……」

「でも昨日はそんな事言わなかったじゃない」

「そ…それは………」


 ちらちらと正面の二人を気にしているアラド。

 うーん、この三人の関係ってイマイチ掴めないわ。今の発言で、やっぱりアラドが二人に仕えている身だって事は分かったけどね。

 

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