第百九十二話 その体で清楚は無理がある
「佐藤くん。あの、腹痛ならラーメンは食べない方がいいと思うなぁ」
最上さんは本当に俺にとって都合が良い存在だった。
ほしい時に、ほしい言葉をくれるな。これでラーメン屋に行かない理由ができた。
「最上さんがそう言うなら、我慢するか。それで、二人はカラオケにでも行くのか?」
「うん。そうだけど、なに?」
「分かった。俺も付き合おう」
「別に頼んでないけど」
くっ。さりげなく参加しようとしたら、湾内さんが露骨に嫌そうな顔をした。
この子は最上さんみたいに甘くない。
「なんか怪しいのよね。佐藤がカラオケに参加したがる意味が分かんない。あんたって、カラオケとか嫌いなタイプじゃないの?」
「こう見えて意外とカラオケは得意だぞ。よく付き合わされていたからな」
主に飲み会の後でな。
いわゆる接待である。おっさん連中との二次会だ……湾内さんの言う通り、本当はカラオケは嫌いである。人前で歌いたくなんてないが、マイクを握らなかったら空気が悪くなるので、そうも言ってられなかった。
「付き合わされていたってことは……佐藤くんって、意外と経験豊富?」
「まぁな。年上との経験しかないが」
「――――」
「あ。風子が硬直しちゃったわ……佐藤。たぶん、あんたのセリフを勘違いしているから、丁寧に説明してあげなさい」
なぜだ。
最上さんが石みたいになっていた。愛想笑いのまま表情がピクリとも動いていなくて、なんか怖い。
俺の発言がまずかったらしい。
何かおかしかっただろうか……年上とカラオケに行った経験しかない――というセリフを、最上さんは勘違いしているらしい。
とりあえず、省いた部分を説明しておくか。
「年上のおじさんによく連れていかれていたんだよ。昔の話だ」
「そうらしいわよ。風子、落ち着いて聞きなさい。佐藤はおじさんとカラオケに行ってたから、その経験が豊富ということよ。決して、年上のお姉さんとカラオケに行って、その後にパコパコしまくった経験豊富なチャラ男という意味ではないから、安心しなさい」
なんだその勘違いは。パコパコってなんだよ。
俺はそんな軽薄な人間じゃないぞ。年上の女性を相手にできるわけないだろ……弱者男性を舐めるなよ? お姉さま気質の女性が一番苦手なんだ。なんか怖いし。
「昔ってことは、子供の頃の話でしょ?」
えっと、そういう解釈になるのか。
実は転生前の話でした、とは言えないのでここは合わせて頷いておいた。本当は子供の頃ではなく、もっと大人の頃の話なのだが、そこは割愛。
とりあえず、最上さんに対して丁寧な説明はできただろう。
「――ああ、そういうこと!? よ、良かった……佐藤くんがエッチな漫画の主人公みたいなことをしてるのかと思っちゃった」
そんなわけないだろ。
と、ツッコミを入れるよりも先に、ちょっと気になる点が一つ。
「エッチな漫画の部分について、詳しく」
「あたしも知りたい。はよして」
「わー!? 今のはなしっ。何も言ってないもんっ」
墓穴を掘ったな、このスケベ娘が。
いかにも「清楚ですよ?」みたいな顔つきをしているが、その歩くたびに『むちっ』て効果音がなるような体では無理があるだろう。やはり内心も意外とスケベのようだ。
「……カラオケでオス一匹とメス二匹、ね。ふーん、えっちじゃん」
「オスとかメスとか言うな。時代に逆行してるぞ」
あと、この子の発情スイッチもONになった気がしてならない。
最上さんのせいで、虎の尾を踏んでしまったようだ。
たぶん、最上さんのスケベ度が以前よりも増したのは、湾内さんの影響もあると思う。もともと最上さんは清楚で大人しい子だった。内面にこそスケベさを秘めていたが、それが表出することは少なかったが……湾内さんという呼び水によって、その部分が目覚めたのだろう。
見た目や存在感も覚醒したが、まさかその部分まで覚醒するとは。
女子ウケはしにくいが、男子ウケはかなり強くなったな。大抵の男子は、スケベな女子が大好きなのだ。男ってホント単純……まぁ、俺もそうなんだが。前のモブ子ちゃんも、今の最上さんも、どっちも大好きだ。
「なんか怪しいけど……佐藤ならいっか。セクハラできるし、ちょうどいいわ」
「セクハラするなよ」
「風子。あんたの読んだエロマンガについては後で聞くから、とりあえず入るわよ。寒いし」
「よ、よよよ読んでないもんっ。わたし、読んでないからね!? まだ未成年だよ!!」
……うーむ。なんか変な流れになった気がしないでもないが、とりあえずカラオケ店に潜入することには成功したようだ――。
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