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第百八十六話 ぅゎ。ょぅじぉっぉぃ

「――特訓が必要です」


 放課後。河川敷に赴くと、腕を組んで仁王立ちしている少女にそう宣言された。

 えっへんと偉そうに佇む彼女の名前は『真田さや』ちゃん。


 真田才賀の最愛の妹にして、この世界で最もあいつを嫌う存在である。物質で表現すると水と油。もしくはガリウムとアルミニウム。兄妹なのに、決して相容れない二人なのだ。


 彼女は今回、ミスコンの最重要協力人物として俺がスカウトした。

 当初はさほどやる気がなかったものの、どうにか交渉してこの場に来てもらえたことに安堵する。


 彼女がいるかいないかで、うちの陣営の力は大きく変わると言っても過言ではないだろう。


「氷室日向さん。あなたにはこれから、愛嬌というものを習得してもらいます」


「……さ、さーちゃん? 特訓はいいんだけど、あの……正座をやめてもいい?」


 そうなのだ。さやちゃんは現在、指導者として振舞っているわけだが……生徒となる氷室さんに対して、正座を強いている。しかもここは河川敷で、地面は当然ながら土と砂利だ。正座する場所としてはなかなか厳しい環境である。


「小石が、痛いなぁって」


 ちょっと泣きそうな顔の氷室さんに、さやちゃんは一言。


「甘いです。正座一つできないのなら、風子ちゃんに勝てる可能性はないでしょう。さやは帰るので、惨めに敗北してください」


 き、厳しい。

 見た目はお人形みたいに愛くるしいのに、鬼教官だった。しかも平成……いや、昭和並みのスパルタである。時代に逆行した指導スタイルすぎる。


「あ! ご、ごめんなさいっ。だから、さーちゃん……帰らないでくださいっ」


 そして氷室さんが、さやちゃんに対してとことん腰が引けているのが気になった。

 俺に対してはもう少し毅然としているのに、あの子にだけはなぜか弱々しい。


 明確な力関係が二人にはある。それはなぜなのか。


「ふんっ。さやに媚びるのは上手ですね。そんなに、兄であるあの男の評価が欲しいのですか? さやが懐けば、たしかにあの男はあなたに対する好感度を上げるでしょう。狡猾ですね」


「……まぁ、そういう思惑がないと言えば、嘘になるけど」


 嘘になるのかよ。

 こ、怖い。女性同士のやり取りに、男の俺はちょっと引いていた。俺と真田の駆け引きがとても幼稚に感じてしまう。すごくネチネチしていた。


「あなたの心情はお察しします。さやに嫌われた時点で、あの男から好かれるという未来はありませんからね。何を言われても、媚びるしかないというわけです」


「そこをくみ取っているなら、もうちょっとだけ優しくしてくれると嬉しいなぁ」


「まぁ、さやには関係ありませんから。というか、兄に好意を抱いている時点であなたはさやにとって理解不能の存在です。警戒して損はありませんので」


 取り付く島もないとはこのことか。

 氷室さんに対して、さやちゃんはとことん厳しい。ただ、厳しいだけでは人がついてこないわけで。


「でも、そうですね……この特訓を乗り越えたら、さやからの印象も改善する可能性はありますね。努力する価値はあると思います」


「え。そ、そうなの!? がんばる!! 私、がんばるからっ。その……できれば、私のことは『お姉ちゃん』って呼んでくれない?」


「調子に乗らないでください――と、あしらってもいいのですが。しかし、特訓の結果次第では考えてあげなくもありません。がんばってみてください」


 おお。飴と鞭だ。

 さやちゃんは指導者としての素質があるのだろうか。うまい使い分けである。


「もちろん! うへへ、さーちゃんの本当のお姉ちゃんになれるように、がんばるからねっ。私、妹がほしかったの……!」


 そのおかげか、すっかり氷室さんはやる気になっていた。

 と、いう感じでミスコンに向けて特訓が始まったのだが。


「それでは、最初の特訓です――お兄さまに媚びてください」


 え。なにそれ。

 女性同士のせめぎあいに入れず、そばでポカンと呆けていたら急に俺を巻き込んできたさやちゃん。


「なんでサトキンに媚びないといけないの?」


「あなたが愛嬌を獲得するファーストミッションです。お兄さまに媚びて、ニヤけさせてみてください」


 いや。媚びられても、ニヤけたりしないぞ。

 自分で言うのもなんだが、俺は表情が動かないタイプである。最上さんだけが例外で、それ以外の女性に対してそこまで笑うことはないのだが。


「サトキンっていつも無表情だから、無理じゃないかなぁ」


 氷室さんもあまり気乗りはしていない様子だ。

 しかし、さやちゃんはやれやれとため息をついて、俺の方にとことこと歩み寄ってくる。


 それから、なぜかしゃがむように指示されたので、言われた通りに膝を曲げた後。


「お兄さま♪ 大好きですよ? ぎゅっ」


 思いっきり、抱きつかれた。


(か、かわいすぎる……!)


 小さな温もりと、親愛に満ち溢れた言葉を耳にして……ついつい俺は、ニヤけてしまった。


『ほら。無理じゃないですよ?』


 そう言わんばかりである。

 さやちゃんって、やっぱり強いな。


 さすが、真田の妹だ。

 この子はかなりの強キャラだった――


お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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やっぱロリこ…
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