第百八十四話 お嬢様がダメなら庶民に任せればいいじゃない?
「変態! このクソガキっ。ぎゃ、逆バニーって何なの!?」
「は? 変態じゃないですーw 何を純情ぶってるわけ? あんたみたいな硬派なふりしてるムッツリスケベが一番接しにくいのよ。バーカ!」
「ちょっ。二人とも、喧嘩はやめろよ……!」
「てか、才賀もそうでしょ? あたしの逆バニー、見たいよね?」
「さっくんはあなたみたいな貧相な体なんて見たくないわよっ。ねぇ、そうでしょ?」
「え、えっと」
「はぁ~。日向ってほんと、男心が分かってないわ。男はね、みーんなスケベなのよ。あと、あたしみたいな体型にも需要はあります~w」
「さっくん。このクソガキは絶対にダメだからね。こいつのが見たいなら……わ、私が見せてあげるからっ。このクソガキだけは、絶対に受け入れたらダメ!」
「いいのか!?」
おお。教室の隅ではラブコメが繰り広げられている。
ちょっと興味はあるが、盗み聞きした感じはテンプレから逸脱していなかったので、まぁ別にいいか。どうせ喧嘩風イチャイチャシーンなので、物語の進展に大きな影響はないだろう。
それにしても、相変わらず真田は優柔不断というか……どっちつかずの態度をとるから、氷室さんと湾内さんがヒートアップしていくのだ。あの二人の仲が悪いのは、もしかしたら真田のせいかもしれないな。
まぁ、あっちは勝手にラブコメをやっててもらうことにして。
こっちはこっちで、学校祭について交渉を継続していた。
「料理を外部調達……たしかに悪くない案ですわね。男子に調理担当をお願いするのも不安でしたのよ」
「なるほどなぁ。佐藤くんって、やっぱり視野が広いね」
最上さんの甘い評価が照れくさいが、とりあえず話を進めよう。
「でも、出店側にメリットがありませんわ。うちで調達してしまうと、出店の方に客が行かなくなるのではなくって? だって、うちではコスプレしているJKが接客しますもの。同じ料理が出るのなら、うちに客が集中する気がしますわ」
「同じ値段に設定するなら、そうなるかもしれないな。それなら、A組で提供する際は割増すればいい。接客料金ということで、料理の値段を倍以上に設定しても文句は言わないだろ。そうすれば、ただたこやきが食べたい客はうちにくるからな」
付加価値というものだ。メイドカフェに実際に行けば分かる。明らかに冷凍食品が提供されていても、値段は雲泥の差だ。あれはサービス料金も込みなのである。
「ふむふむ。形が見えてきましたわ……このシステムであれば、D組と提携するのもありでしてよ。ただ、そっちが負担になるのではなくって?」
「それが怖いから、複数の出店と交渉してほしい。多くの店からちょっとずつだと、みんな無理をしなくていいと思う」
「……相手側にメリットがありまして? 庶民の場合は、うちのクラスに縁があるから来てくれたのだと思いますけれど。他クラスが乗ってくれるか、少し不安ですわね」
「大丈夫だろ。提携してくれたクラスには、サービス券でも配ればいい。特に男子が前のめりになるはずだからな」
このA組には、かわいい子が多い。
もちろん、最近は最上さんがその筆頭だが……尾瀬さんや氷室さんは言う必要もなく魅力的だし、湾内さんも一部に需要がある。あ、そういえば根倉さんって子もいた気がするが、あの子はそういえばヒロインとしてお亡くなりになったので、今もこちらに干渉せずに自分の机でふて寝していた。南無阿弥陀仏。そっとしておいてあげよう。
「うーむ。うまくいくかどうか……風子さんはどう思いまして?」
「佐藤くんが言うなら、大丈夫だと思うよっ」
最上さんの信頼が厚すぎる。ほぼノータイムで頷いていた。
ただ、それでも尾瀬さんは難しい顔をしている。あまり納得がいっていないらしい。
……いや。俺の案に不満があるというか、懸念があるような雰囲気か。
「わたくしって、ほら。接しにくいタイプですわ……庶民が相手だから話がうまくいっているだけで、他の一般の生徒と円滑なコミュニケーションができると思いませんもの」
「その自覚はあるのかよ」
生粋のお嬢様なだけあって、尾瀬さんは浮世離れしている。
俺は慣れたので何も思わないが、たしかに多くの一般生徒は尾瀬さんに気後れするかもしれない。
「たしかに、尾瀬さんがクラス委員と知った時は驚いたな。あんまりそのイメージがない」
「学校祭があると知っていましたもの。バニーをねじ込むために立候補しましたわ」
「わ、わたしはすごく良いと思ったよ! うさぎちゃんは、リーダーシップがあるもん」
「風子さんはお優しいですわ。ただ、やはり交渉の自信がありませんから……ふむ。それなら庶民に手伝ってもらえばいいですわね」
まるで、パンがなければお菓子を食べればいいじゃない、と言わんばかりに。
尾瀬さんが俺を巻き込んできた。
まぁ、俺が話の発端になったので、別にいいんだけどさ。
(どんどん仕事が増えていく件について)
転生前を思い出して、ちょっと顔が引きつった。
仕事が仕事を呼ぶという状態である……やれやれ。ちょっとだけ、忙しくなりそうだった――。
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