第百八十三話 さすがです!
閑話休題。バニーの話は語りだすと長くなるので、今は一旦置いておこう。
喫茶店の種類についてはA組で議論してもらうとして、本題はD組との提携についてである。
先程の反応をみたところ、コラボに前向きではなさそうだった。たしかに、メイド喫茶やアニマル喫茶……こういうのをコンセプトカフェというのか? そこでたこやきというのは、定番とは言えないだろう。
「メイド喫茶にしろ、アニマル喫茶にしろ、メニューはどうするんだ?」
「普通にオムライスとかじゃないわけ? 文字とか書いてあげて『萌え萌えきゅん♪』って弱者男性どもに媚びてたらいいんでしょ? コンカフェってそういう場所だし」
「口が悪いな」
湾内さんの物言いが酷い。弱者男性って呼ぶなよ……弱くてもがんばって生きている人間だっていたんだ。転生前の俺とか。
「美鈴さん。『コンカフェ』って呼んだらダメらしいですわよ。教員から怒られましたわ」
「は? なんでよ」
「コンカフェって表現が学生らしくない、ということですの。喫茶店と呼ぶようにって」
「学校祭にも規制が及んでいるのか……」
たしかに、コンカフェって大人向けのイメージがあるな。健全な活動という意味では、学校祭には不適切だと判断されたのかもしれない。
「ですから、バニーなんて絶対に許してくれませんでしたわ。教員さえ説得できていたら、わたくしの権力でゴリ押ししましたのに」
「あたしは別にバニーでもいいけどね。あ、そうだ! 才賀に逆バニーを見せる約束をしてこよーっと♪」
凄まじい行動力だな。あの小娘は。
満面の笑みで意味不明なことを口走った彼女は、教室の入口付近で未だに氷室さんに説教されている真田のもとに向かっていった。さやちゃんのことで氷室さんがいろいろ言っているところまでは確認したが、まだ説教が続いていたのか……湾内さんの奇行も、たぶん氷室さんが制止するだろう。あちらについては気にしなくていいや。正直なところ、どうでもいいし。
それよりも、仕事を取らなくてはいけない。俺としては既に人間関係が構築されているA組と提携した方が楽なので、なんとか説得したいところだ。
「うさぎちゃん。わたしたちの喫茶店では、どんなメニューを出すの?」
「そうですわね……美鈴さんの言う通り、オムライスが定番だと思いますわ」
ふむ。この流れになると、たこやきをねじ込むのはやや厳しいかもしれない。
普通の学生ならここで諦めていただろう。しかし俺は、元営業マンである。その経験が今は大きな力になりそうだった。
「――作る場所、調理道具、人材、予算は確保できてるのか?」
「え? それは、まぁ……まだ考えていないですわ」
俺の指摘に、尾瀬さんはハッとしたように目を丸くした。
そのあたりは今から話し合って決定するところだったのだろう。先手を打てて良かった。
未定であれば、ねじこむ余地はある。
「学校行事だからな。事故の防止を考えて火の使用は厳しいらしいぞ。うちのたこやきもホットプレートを使用する。オムライスの調理はできそうか?」
「……盲点でしたわ」
まぁ、IHなど電気でも調理する方法はありそうだが。
しかし、調理方法や道具を用意できるとしても、他に問題が出てくるわけで。
「メイド、もしくはアニマル喫茶を運営するのであれば、接客は女子が行うことになるよな。調理は男子がやるはずだが、信頼できるのか? そもそも、A組の教室で接客を行うのであれば、調理場所も他に必要となる。空いている教室がA組の近くで確保できなければ、食材を運ぶのも大変だと思うぞ」
営業とは、ただ仕事の交渉をするだけに思われているが……実は、多くの知識を必要とされる。
事業の全体を把握していなければ、交渉なんてできない。予算、人材、工期、などなど……諸々を考慮した上で、お互いに利益が出るように立ち回らければいけないので、自社企業だけではなく、相手企業のことを誰よりもよく理解している必要がある。だからこそ、A組の問題点も全体の工程を考慮して、指摘することができた。
まぁ、自慢できるようなスキルではない。営業というか、社会人なら誰だってこの思考に及ぶだろう。
ただ、さすがに学生が相手であれば、俺のような一般人でも大きな力となれるだろう。
「喫茶店というからには、ドリンクも豊富に揃えたいところだな。料理よりも、むしろここに力を入れた方がいい」
「……一理ありますわ」
「そこで、俺たちのような出店をやっているクラスが役に立つと言うわけだ。料理は外部調達方式でいいんじゃないか? うちのクラスに加えて、複数の出店をやっているクラスと交渉してメニューを揃えてもいいだろう。事前に発注をかけておけば、相手側が当日に混乱することもない」
よし。いい流れでうちのクラスの宣伝もできた。
押し付けるだけで交渉は成り立たない。お互いに利益がありますよ、と提示することができてようやくスタートラインだ。
もちろん、この程度の交渉スキルは普通のことである。
しかしながら……あの子は目をすごくキラキラと輝かせて、俺を見てくれていた。
「――しゅ、しゅごい! さすがは佐藤くんだね……!」
さすがです! なんて言われる立場になるとむずがゆいな。
でも悪い気分はしなかった。褒められて嬉しくない人間なんていないのである――。
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