第百八十一話 営業→転生→営業
さて、学校祭まであと一ヵ月となったところだが。
行われるイベントはミスコンだけではない。各クラス、出し物があるのでその準備も必要だ。
まぁ、俺の所属するD組はたこやき屋さんなので、大掛かりな準備は必要ないだろう。当日に出店するので、その時に頑張ればいいだけの話だ。
脱出ゲームとか、演劇とか、バンドとか、ダンスとか、展示とか、そういう準備に時間がかかる出し物は大変だろうなぁ。同じように、最上さんや真田の所属するA組はメイド喫茶も準備が大変だと思う。うちは出店だが、あっちは飲食店形式なので教室の飾りつけやメニューの考案、メイド服の調達なんかも大変だろう。
……いや、A組はバニー喫茶だっけ?
そういえばどっちに決まったんだろう。俺としてはバニーがいいのだが、旗色が悪いらしいので期待は薄いかもしれない。一応、湾内さんと尾瀬さんにはアニマル喫茶を提案しておいたが、あの二人がうまくA組を説得してくれただろうか。
と、いった感じでなぜ学校祭について思いをはせていたのかと言うと、ホームルームでその話題が出ているからだ。黒板の前では、クラス委員の進行でたこ焼き屋さんの役割分担が進んでいる。料理担当とか、食材調達担当とか、色々分かれている。俺はどの役割でもいいので、空いたところに入れてもらおうかな。
そう考えて、何もしないことが間違いだったかもしれない。
なぜか俺は営業することになった。
(……どうして学校祭に営業の仕事があるんだ)
まさか転生しても営業をさせられるとは思わなかった。やりがいはあるが、意外と給料は低いくせに残業は多い上に、出張も高頻度で発生するんだよなぁ。しかも、現場の人間には楽な仕事と思われる節もあるという。現場も大変だが、意外と営業も大変で……いや、愚痴はそろそろやめておこう。
学校祭の営業なのだ。別に大した仕事はしないはず。
……そう思っていた時期が俺にもありました。
(他クラスとの交渉ってなんだよ)
どうやら、学校祭では他クラスとのコラボが推奨されているらしい。飲食店であれば、売上が上位なら表彰もあるようだ。うちのクラスは熱意がないので上位なんて狙っていないが、他クラスから話を持ち掛けられることはあるのだろう。だから営業という役割が準備された、ということか。
「佐藤。うちのクラスが何もしてないと思われるのは嫌だから、適当に仕事を取ってきてくれ」
担任の教師にそう言われたとき、転生前のクソ上司を思い出したのは言うまでもなかった。
適当に仕事を取ってきてくれ? 簡単に言うなよ。仕事を一つ持ってくるだけでも大変なんだからな……!
なんて言っても、資本主義の企業に勤める会社員という枠組みにいない学校教員には伝わらないだろう。この世界は大抵の場合、反抗するより従った方が楽なことが多いので、諦めて言われた通りに仕事を持ってくることにした。
(よし。A組でいいや)
友達なんて最上さんしかいないので、彼女の所属するA組に話を持って行くことに。
放課後。早速向かうと、運の悪いことに真田と鉢合わせになった。
「ちっ。失せろ」
「ああ。また明日な」
「なんでうちの教室に入るんだ?」
別れのあいさつを交わして横を通り抜けようとしたが、残念ながらそうはさせてもらえなかった。失せろって言ったくせに、話しかけてくるのかよ。
「さやの件で話がある」
「俺にはない。いいかげんに妹離れしろ」
「は? 俺はさやから永遠に離れない。なぜなら、兄妹とは磁石みたいなものだからな。俺がS極で、さやがN極だ」
「うわきも」
男同士の忌憚のない和やかな会話を交わしていたら、顔見知りの面々も俺の存在に気付いたようで。
「あ。佐藤じゃん。風子、佐藤がいる! ほら、あっちに地味な童貞っぽいやつがいる!」
「童貞……佐藤くんって、やっぱりそうなのかなぁ?」
「もちろんそうに決まってるわ。匂いがするのよ。童貞の匂いが、ね」
そこの女子二人。変な会話をするなよ。
「ちょっと。さっくん、落ち着きなさい。さーちゃんのことになるといつも変になるんだから、気を付けてよ」
「日向!? 俺は悪くない。さやに手を出したこいつが悪いんだ!」
「はいはい。被害妄想はやめなさい……ごめんね。えっと、うーん……誰?」
おっと。氷室さんもまだ帰ってなかったらしく、俺を見て首を傾げていた。まずい、声で俺がサトキンだとバレたら嫌なので、無言で頷いて少し距離を取った。氷室さんが真田をうまくなだめてくれると思うので、その間に最上さんに話しかけよう――。
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