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第百七十九話 サブヒロインがメインヒロインになることだってあるのに

「どうやってあのクソガキを懐かせたの?」


「さやちゃんのことをクソガキって言うな」


 歯に衣着せぬ、どころではない。

 湾内さんは年下だろうと口が悪かった。まぁ、この子のキャラには合っているが。


「あたし、子供って嫌いなのよ。精神年齢が一緒だから」


「精神年齢に自覚があるタイプは珍しいな……」


 自分が幼稚だと気付いているなら直せばいいのに。


「さやってすごく気難しくて苦手なのよね。話しかけても素っ気ないし、イタズラしたら不機嫌になるし、媚びても相手してくれなかったわ」


「あの子は媚びられるのが一番嫌いらしいぞ」


「はぁ? 媚びてやってるんだから、ガキらしく偉そうにしなさいよっ。ほんと、年齢の割に大人ぶっててムカつくわ。あたしを見習って、ロリはロリっぽくしとけばいいのにね。悟もそう思わない?」


「同意を求めるな」


 ……そういえば、さやちゃんも湾内さんのことは嫌っていたな。

 氷室さんに協力してくれたのも、湾内さんと敵対すると分かった後だった。この小娘が利するなら、氷室さんの方がまだマシという判断だったらしい。


 湾内さんの様子も見て、二人の関係性がなんとなく分かった。

 まさしく、犬猿の仲なのだろう。氷室さんといい、さやちゃんといい……湾内さんは敵が多いな。


「ちっ。さすが、悟だわ……さやの存在はかなり大きいわね。才賀の興味がそっちにも分散されちゃうかも」


「まぁ、あいつはシスコンだからな。さやちゃんがいれば、こちらを無視するわけにはいかない」


「――日向はここで潰そうと思ってたのに。ほんと、余計なことをするわね」


 やっぱりか。

 湾内さんがやけに敵意を見せているなと思っていたのだが……この機会に、氷室さんを完膚なきまでに潰そうとしていたらしい。


「あの女は邪魔なの。すごく正しいことを言うから、才賀のハーレムなんて絶対に認めないわ」


「俺も認めてないが」


「あんたは才賀にとってただの他人だから、どうでもいいの。悟に何を言われたところで、才賀が変わることなんてない。でも、日向は違う。あの子は、才賀の『幼馴染』なのよ」


 氷室日向さんは、真田才賀という人間にとっても影響力の大きい立ち位置にいる。

 だからこそ、湾内さんは過剰なまでに敵視しているのかもしれない。


「いくらクズゴミカス人間の才賀でも、日向の言葉だけは届いちゃうわ。幼馴染って本当に卑怯よね……ただ幼いころから一緒にいるってだけなのに、誰よりも才賀の特別な人間になっている。だから、消したいのよ」


 クズでゴミでカスな人間なのに、よくもまぁここまで愛せるものだ。

 湾内さんの愛情はどこか歪んでいる。しかしそれを指摘しても意味はないので、あえて黙っておいた。


 彼女もまた、必死である。

 自分の愛が報われるために、二番目でも真田に愛されるために、一生懸命だ。


 その手段として最上さんを利用して、真田のハーレムを構築することで、自分もその一員になろうとしている。その目的を果たすために、氷室さんはどうしても邪魔なのだろう。


「まぁ、立ち位置が特別なだけで誰にも愛されてないし、日向が消えたところで誰も悲しまないでしょ。だから、悟……邪魔しないで。あんたさえいなければ、あたしはすごく幸せになれるわ」


 はたしてそれはどうだろうか。

 君の実現したい『幸せ』は、本当に幸せと言えるのか。


 俺は決して、そう思わない。

 だからこそ、首を横に振った。


「湾内さんは、真田の恋人になることを諦めてるんだよな?」


「うん。だって、風子に勝てないもん。日向が相手の時ですらきつかったのに、風子なんて相手にしてられないわ」


「なるほど。じゃあ、氷室さんも君と同じように、最上さんには勝てないという認識なんだな?」


「……何が言いたいの?」


「――証明しよう。湾内さんが間違えていることを、な」


 最上さんが唯一無二の、絶対的なヒロイン。

 その前提条件があるからこそ、自分が愛人になることでしか愛が得られないという歪んだ結論が生まれるのだ。


「氷室さんは、最上さんに勝てるぞ」


「ぷぷーw 現実が見えてないの? あんな無愛想で面白みのない不人気幼馴染が勝てるわけないじゃん?」


「いいや、俺はそう思わない」


 それと、あと一つ。

 これもちゃんと、伝えておくとしようか。


「……湾内さんだって、最上さんに勝てるかもしれないぞ? 諦めなければ、真田の恋人になれるかもしれないのに」


「は? そんなのありえないでしょ。ばーかw こんな胸も身長も小さい、ただ都合が良さそうなだけのナマイキな小娘が風子に勝てるわけないけど?」


「と、君が思い込んでいるだけだな」


「事実だもーん」


 ああ。こうなるよな。

 話は平行線だ。湾内さんは俺の言葉を聞いてなお、へらへら笑っている。


 そんな彼女を見て、思わず苦笑してしまった。


「だから、証明するよ。最上さんが絶対的な存在でないということを」


「やれるものならやってみなさいよ」


「ああ。やってみせる……その時にまた同じ質問をするから、答えを聞かせてくれ」


 サブヒロインがメインヒロインになることだってある。

 最上さんがまさしくそうだった。


 それなら、湾内美鈴にも同じことが言えるのでは?

 君が報われる物語のルートがないと、まだ確実に決まったわけじゃないんだ。


 だから、諦めないでほしい。

 俺はそう思っているよ――。


お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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