第百七十八話 ロリコンじゃなくて良かった
「やっぱりあたし、悟のことが結構好きかもしれない」
「そうか。ありがとう。明日にでもその話は聞くから、とりあえずラーメンをくれ。そろそろ帰るから」
「――告白されたのになんで動揺しないの? 童貞なの?」
「むしろ童貞は動揺するだろ」
小娘の論理が理解できない。
突然の告白も含めて、言動が意味不明すぎて戸惑った。
「童貞すぎて、告白されたことにも気付いてないのかなって」
「気付いてはいるが、意図的にスルーしたんだ。どうせまともな告白じゃないからな」
「にひひ~。それはどうかにゃ~」
湾内さんはイタズラっぽく笑ってから、床にあぐらをかいて座り込んだ。
俺も座りたいところだが……この家、椅子がないんだよなぁ。来客というものを想定していないのだろう。
「悟は座らないの?」
「君に何かされたらすぐに逃げ出せるように立っておく」
「……てか、あたしと悟の立場ってなんかおかしくない? 普通逆でしょ! あんたが警戒してるのって変じゃない!?」
「湾内さんが肉食すぎるんだよ」
俺が変ではない。この子のキャラクター性があまりにもエロ漫画すぎるだけだ。
まるで貞操逆転系みたいである。まぁ、読者としてはこういうキャラクターも好きだがな。
「何もしないって言ってるでしょ。さっきも言ったけど、悟のことは気に入ってるのよ……普通に嫌われたくないし」
「まぁ、俺も君のことが嫌いというほどではないぞ」
「ほら。そうやって、なんだかんだ受け入れてくれるじゃん。風子も、あんたも、人が良すぎるのよ」
最上さんはたしかに、ちょっと過剰なくらいに善良だが。
しかし俺は、意外と普通だと思うがな。
「湾内さん。君が思っている以上に、俺みたいな人間は世の中にたくさんいるぞ」
「は? いるわけないじゃんw こんなに露骨に誘っても平気で断る男っているわけないでしょ。だって、男の脳みそって下半身についてるんでしょ?」
「全員がそうだと思うなよ」
真田才賀はたしかにこの子の言う通りだろう。
たぶん、湾内さんは身近な男子があいつだから、それが基準になっているのだろうか。
真田を基準に男性という生き物を理解してほしくなかった。
「湾内さんが考えているほど性欲の価値が高くない男性もいる、ということだな」
「何それ。謙虚アピール? あたしの好感度でもあげたいわけ? 今の状態でも十分に高いから安心していいけど」
「君の好感度なんて要らん。あくまで事実だ」
残念ながら、湾内さんはあまりピンと来ていない様子だ。俺の言葉を謙遜と受け取ったらしい……俺が特別な人間ではないのは事実だ。ありふれたサラリーマンでしかないので、彼女の高評価は過剰だと感じていた。
「俺はちゃんと俗物だぞ。ただ、最上さん一筋なだけだ。あの子に嫌われたくない、という一心だな」
「そのためには、あたしの誘いも断れるってわけね」
「いや。君は単純に、女性として好みじゃないんだ。すまないな」
俺はもっとムチムチ体型が好きだ。
あと、メカクレ属性で黒髪の方がいい……まぁ、最上さんそのものが好みということで。
「酷くない!? わ、分からせてやりたい……悟の体に直接聞いてやろうかしら?」
メスガキみたいなことを言うのはやめろ。本気で何かされそうで怖かった。
変なスイッチを入れられると厄介そうなので、ここは速やかに話題を転換しておくことにした。
「そういえば、ミスコンの件はどんな調子だ? 最上さんとうまくやってるか?」
「――そうだ! ミスコンといえばっ」
お。良かった、食いついてくれた。
俺に好みじゃないと言われた直後は、こちらにとびかかってきそうな雰囲気を発していたが……ミスコンというワードで何かを思い出したらしい。
「ねぇ。あんた、さやを味方に引き入れたでしょ?」
「さやちゃんのことも知ってるのか」
さすがストーカー気質。色々と把握しているらしい。
ただ、俺を尾行して情報を収集したわけではなく、今回は別の方向からさやちゃんの存在に辿り着いたようだ。
「才賀が言ってたのよ。『妹がロリコンに騙されてる』って」
「俺はロリコンじゃない」
「ええ、知ってるわ。あんたがロリコンならあたしに食いついているはずよね」
なんか、自分が幼女体型だと自覚があるタイプは不気味だな。
それすらも巧みに利用してそうな感じがする……俺がロリコンなら、とっくにこの小娘に手籠めにされていたかもしれない。そんな気がした。
とりあえず、ロリコンじゃなくて良かった――。
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