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【11/5書籍発売】さようなら、私の白すぎた結婚~契約結婚のキレイな終わらせ方~  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
番外編

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ある伯爵夫人から見たカニンガム公爵夫妻

いつもお読みいただきありがとうございます!

 流行や情報に敏感な家にはその情報がもたらされていた。


「カニンガム公爵夫妻がメインストリートの宝石店に?」


 ウワサ大好き、いや耳が早い、いやいや情報に大変敏感なマチルダ・エイトケン伯爵夫人はその情報をかみ砕いた。歯ではなく、頭で。

 具体的に何を買ったかまでは分からないが、装飾品を一点購入しただけではないことは分かっている。あの店は大変格式が高いのだ。お手頃価格のものなんて置いていない。


 ふむ、これは領地で小さな竜巻が発生したレベルで対応が求められるだろう。


 購入は個室で行っているが、宝石店に入って個室に案内されるまでは人目があるのだ。そこからウワサはもたらされている。


「あの仮面夫婦で離婚寸前と結婚当初から名高いカニンガム公爵夫妻が、わざわざ揃って宝石店に? しかも先代公爵夫人はいないのに?」


 公爵夫人であるエルシャ・カニンガムの容貌をマチルダはささっと頭に描く。マチルダから見れば、公爵夫人は可愛い系だ。個人的にあの顔はとても好きだ、それにあのふわふわした栗毛はリスを思わせる。リス可愛い。うっかり餌付けでアーモンドをあげたいが、公爵夫人にそんなことはできない。


 話がそれた。婚約段階から彼女は社交界の話題をかっさらったものだ。

 カニンガム公爵は美人系が好きなのかと思ったらああいう可愛い系が好きだったのかとか、女性嫌いだから金で適当な花嫁を買ったんだとか、女性を絶対に支配したいから貧乏伯爵家の令嬢をわざわざ妻にしたんだとか。


 しかも、婚約期間は異例中の異例で数カ月しかなかった。もうちょっと長くして結婚式の準備をしっかりすればいいのにと思ったが、そこは公爵家。金に物を言わせて急がせたような結婚式でも粗などなかった。



 可愛い系なのに、社交の場で毎回毎回カニンガム公爵のファンである令嬢たちの嫉妬の視線と嫌味に耐えているのだからなかなかである。元は貧乏伯爵家出身。明らかに援助が前提の金で買われたような結婚なのに頑張っている。相手が公爵ではなく伯爵あたりだったら、あそこまでいたいけな令嬢が苦労しなくて良かっただろう。


 マチルダはウワサが大好きでお喋りも大好きだが、情にはややもろかった。カニンガム公爵のあの態度はないのではないかと密かに思っていたくらいだ。恐らく、夫で苦労してきた女性たちは皆思っている。


 思わないのは、カニンガム公爵が結婚したにも関わらず金魚のフンみたいに絡まってキャーキャー言っている阿呆な令嬢たちくらいだ。若いのはいいが、現実を見て欲しい。あ、待って、そもそも金魚に失礼だった。


 まぁカニンガム公爵家を貶すには一番手っ取り早い方法なので、社交界ではそんな態度というか分かりやすい隙を見せる若きカニンガム公爵に皆ヒソヒソしていたのではあるが。


 自分に娘がいてカニンガム公爵にキャーキャー言っていたら、頬を張っている。

 マチルダには息子たちしかいない。嫡男は金髪巨乳の頭が足りないご令嬢に最近はご執心だ。

 頭が痛い。そろそろグーパンの準備をしないといけないが「若気の至り」なんてヒゲを触りながら余裕ぶっている夫の頬を張るのが先だろうか。


「離婚する前の手切れ金として宝石を渡したのかしら。慰謝料代わり?」


 不出来な息子と中年太りの夫のことは頭から追い払って考える。いや、そんなことはない。カニンガム公爵夫人の実家はまだ貧乏貴族なのだから現金が一番だろう。現金万歳。宝石は資産である。置いておくなら宝石、すぐ使うなら現金一択だ。


「それにしても、今年最も驚いたのはバクスター公爵夫人と王弟よ」


 カニンガム公爵夫妻よりもずっと前から知られている仮面夫婦。大恋愛で結婚した成れの果て。息子に教え諭そう、あの件について。聞く耳を持つだろうか、あのバカ息子。


 まさか、内通だの税を誤魔化して着服だのしていたなんて! しかも王弟は公爵としての仕事もせずに遊び回って、すべてを行っていたのはバクスター公爵夫人! マチルダは王弟には呆れ果てたが、バクスター公爵夫人にはあっぱれを叫びたかった。


 男爵令嬢でしかなかった彼女が、公爵夫人として税の誤魔化しと内通まで行うなんて! 女性をバカにしたすべての男にギャフンと言わせたのではないだろうか。もちろん、こんなことは公では言わない。ただ、胸がスッとしたのだ。


「ん?」


 カニンガム公爵夫妻は結婚当初から不仲だったのに、つい最近揃って宝石店に現れた。離婚するするとウワサは聞くが、公爵は他の令嬢や夫人を寄せ付けるわけでもない。貴族の嗜みなんて言われる娼館に通っているわけでもない。


 子なしは三年で離婚、そんな言葉もある。じゃあ来年かと思われて気が早い家は娘を後釜にと狙っているようだが……。


 王弟の件が明るみに出る前と後。カニンガム公爵夫妻の行動は変わっている。

 王太子の誕生日パーティー以降、夜会には出席していないから何とも言えないが……マチルダの勘がこれは、と言っている。


 ピーンとマチルダは天啓を得た。

 これだ、これである。離婚するする詐欺か。


「カニンガム公爵夫人が招かれているパーティーやお茶会をすぐに洗い出して頂戴。直近のものを今すぐに」


 おそらく、王弟の件にカニンガム公爵は何か関係があった。公爵夫人が階段から突き落とされた件もそうだ。あれは何か知っているから、王弟派閥に警告されたのではないか。


 しかし、王弟の件はかなり片付いた。

 それまでカニンガム公爵夫人はほぼ外出していなかったのに、宝石店に現れた。いつも先代公爵夫人と一緒だったのに、なんと公爵と一緒にだ。これは危険が去ったことを示しているのではないか。


 実際に目で見たあの夫妻は不仲で、挨拶回りの時だけ一緒で挨拶が終わったら公爵は夫人を壁際に置いてさっさと一人になっている。ダンスもせず、仲睦まじい様子は微塵もない。階段から突き落とされた妻を助けるくらいは助けるが、それは夫というよりも紳士であることの範疇を超えない、その後の夜会でも大して変った様子はない。衣装の色が意識して合わせてあるくらいだが、態度は変わらない。


 はずだった。しかし、聡い貴族ならばこのタイミングでの宝石店への来店の意味に気付くはず。


 不仲でいつ離婚するか分からない公爵夫人にはなかなか近づけなかったが、これからはアーモンド、ではなくて媚を売らねばならない。こうしてはいられない。

 

 マチルダ・エイトケンはなんとか社交シーズンが終わるギリギリ手前のお茶会で、カニンガム公爵夫人に挨拶をすることができた。なんならアップルパイの作り方で盛り上がった。今度はお茶会に来てくれるらしい。


 そして次の年の社交シーズン、カニンガム公爵夫妻が三曲も続けてダンスを踊って周囲に激震が走る中、後方彼氏面でマチルダは偉そうな顔をしていた。


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