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元英雄で、今はヒモ~最強の勇者がブラック人類から離脱してホワイト魔王軍で幸せになる話~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第三章◇ヒモでいるために 

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83◇愛の日、準備編

本日複数更新。

こちら3話め




 俺がメイジと遭遇した件は瞬く間に知れ渡り、『七人組』全員の警戒心を煽ることになった。


「わたくしのレイン様との子作り計画を堂々と語るのは、ふ、ふふ、いい度胸ではないの。メイジ、彼女を敵と認めねばなりませんわね」


 と語ったのはフローレンス。


 彼女は優美に微笑みながら、こめかみをひくひくさせていた。

 内心怒っているようだ。


 俺はその日、フローレンスが建造した『レイン邸』にお邪魔していた。

 俺の家なのでお邪魔するとは変かもしれないが、まだ正式に譲り受けたわけではない。

 彼女の気持ちは嬉しいが、保留としてもらっていた。


 庭で花をぼんやり眺めながら、お茶を飲む。メイドのセリーヌが運んでくれる焼き菓子はとても甘くサクサクしていて、美味しい。


「フローレンス、『わたくしのレイン様』というのは撤回するべき。レイン様は誰のものでもない。強いて言えば私の生涯の護衛対象」


 俺の側に立っているのは、マッジだ。


「貴女を呼んだ覚えはないのだけれど?」


「客を招待すれば、パートナーや護衛がついてくることは珍しくない。違う?」


 フローレンスの指摘に、マッジは即座に返す。


「……まぁ、そうですけれど。いいでしょう、わたくしは寛大ですから? 貴女をレイン様の『護衛』と認めてあげてもよくてよ?」


「フローレンスの承認は必要ない」


『パートナーってのはあたしね! 唯一無二の相棒だもの!』


 その後、しばらく世間話をして。

 セリーヌが茶のお代わりを注いでくれたあと。


「それよりも、レイン様を呼び出した理由を語るべき」


「え? お逢いしたかっただけですけれど?」


「……」


 マッジがナイフに手を掛けた。


「ちょっと!」


 フローレンスは目を見開くものの、驚いているだけで慌てた様子はない。


「マッジ様、どうかお戯れはそこまでに」


 気づけば、羊の亜人メイドのセリーヌがマッジの腕を掴んでいた。


「――――」


「確かにお嬢様は息を吐くように人様の神経を逆撫でする天才ですが、我が主でもあります。御冗談であっても、害意を向けられるのは困ります」


 マッジがナイフから手を離すの確認すると、セリーヌは数歩後退してから一礼した。


「セバスちゃん……わたくしの為にそこまで怒ってくれるなんて……」


 フローレンスは感動した様子だ。


『その前にだいぶ馬鹿にされてたけどそこは良いのかしら……』


「……短い間に随分と忠誠心が上がった。雪の時は守らなかったのに」


 そういえば、マッジはその時からフローレンスにナイフをちらつかせていた。

 マッジの問いに、セリーヌはあっけらかんと答える。


「あ、はい。昇給しましたので」


「セバスちゃん……!?」


 フローレンスのカップを置く手が震えた。


「お嬢様、仕事が報酬相応になるのは当然のことです。ぶっちゃけ『七乙女』に歯向かうのは今のお給料でも厳しいので給与アップをお願いいたします」


「わたくしの感動を返して頂戴!」


 今日もこの主従は変わらずだ。


 マッジがちらりとセリーヌを見ていた。すぐに視線を逸らし、正面を見据える。


 先程の動き、マッジが本気であればセリーヌも反応できなかっただろう。

 冗談だからこそマッジは見せびらかすようにナイフに手を伸ばしたのだし、セリーヌはそれを理解した上で過ぎた戯れだと判断して止めた。


 それらを考慮しても、マッジのあの動きに対応できたセリーヌは中々やり手だ。

 レジーやアズラと同じで、ただの執事ではないのかもしれない。


「ふむ。マッジとフローレンスの仲もあるから口を挟むことじゃあないかもしれないけど、武器を冗談に使うのには俺も反対だな」


『そうね、アルケミの「聖剣破壊ジョーク」とか最悪だしね』


「……気をつける」


 マッジの表情は変わらないが、しょぼん……と落ち込む気配が伝わってくる。


「でも、俺のために怒ってくれたのはありがとう」


 マッジの表情が変わらないまま、ほわわ……と雰囲気が華やぐのが分かった。


「……レイン様の護衛。なるほど近くにいるにはこれ以上ないポジション。マッジ……我が友ながら中々やりますわね」


 フローレンスがぶつぶつ言っている。


「それで、本当の用件は」


 マッジが改めて尋ねる。

 フローレンスおほんっと小さく咳払い。


「レイン様、明後日が何の日かご存知?」


「明後日? 何かあったっけ」


 椅子に立て掛けたミカの方を向く。


『いいえ、あたしもわかんないわ』


「お二人がご存知ないのも無理はありませんわ。この国の記念日ですから」


『記念日?』


「えぇ。かつて、種族を超えて結ばれた二人がいました。その二人の深き愛は、多くの者を勇気づけ、それが今の時代の自由な恋愛観を築くきっかけとなったのです」


「へぇ、いい話だな」


 この国では、たとえばケンタウロスと龍人のカップルとか、オーガとスケルトンの夫婦とか、種族の垣根を超えて結ばれている者が沢山いると聞く。

 種の繁栄という観点からすると問題もあるのかもしれないが、愛する者同士が共に生きられる世の中というのは、素晴らしいものの筈だ。


 愛のなんたるかを理解できていない俺では、ハッキリしたことは言えないけれども。


「そうでしょうそうでしょう! さすがはレイン様ですわ!」


 フローレンスは一気に興奮気味に。


「……『愛の日』とレイン様にどんな関係がある」


 どうやら明後日の記念日は『愛の日』というようだ。


「わたくしは考えました。『愛の日』を知らぬレイン様を街に連れ出し、世間に自分とレイン様の関係を誤認させようと目論む不届き者が現れるやもしれぬ、と」


『あんたとかね』


 フローレンスはミカを無視した。


「レイン様が将来的にわたくしを選ぶのは確定として、その日が来る前に別の女性との噂が立つのは、我々にとって避けたいところでしょう」


『何も確定してないでしょ!』


 俺は考える。

 確かに、いつものノリで誰かと出かけたり、一緒にいたりしたとして。


 それを魔王城の兵士や街の人々に見られたら、『あいつら付き合ってるんだ』と思われるかもしれないわけだ。


「なるほど、そういう誤解を避けるために、当日は誰とも逢わない方がいいかな」


 俺が言うと、フローレンスが絶望顔になった。

 マッジの方からもどよ~んとした気配が漂ってくる。


『……そうね。まぁ、あたしは一緒だけどね。パートナーだしね。まぁそこはね?』


 ミカの声だけが弾んでいる。


「は、話は最後まで聞いてくださいまし。たった一人の相手と過ごせば誤解も招きましょう。しかし、『恋人の日』ではなく『愛の日』と呼ばれているように、近年では恋人同士だけでなく、親しい者たちが集まるイベントとしても盛況なのですわ」


「なるほど」


 ミカ、なんで舌打ちするんだ。


「そこで、レイン様さえよろしければ、この邸宅でパーティーを開催しようと思っているのですけれど……。いかがでしょう?」


 フローレンスが上目遣いに訊いてくる。


「パーティー、か」


「だめ……でしょうか?」


 いつも自信満々なフローレンスが不安な顔をするのはとても珍しく、なんだか見ていて胸が痛くなる。


「……参加者は、どうなるのかな」


「! わたくしが手配……といきたいのですが、それだと不満を漏らしそうな厄介な連中がいますので、レイン様に直接お声がけいただくのがよろしいかと思いますが……」


「もちろん構わないけど、いいのか? 『愛の日』は明後日なんだろ? 今から俺が誘って回るってなると、そっちの準備が大変になるだろ」


 パーティーとなれば食事や給仕の手配などが必要になるだろう。何人来るかわからない状態だとやりにくい筈だ。


「ご心配感謝します。しかしご安心あれ。わたくし、レイン様の交友関係は把握しておりますので、全員が参加しても問題ないよう進めますわ」


「そ、そっか……」


『交友関係を勝手に把握されている方が心配だけど、あんたたちのことだからもう諦めるわ』


 『七人組』に限っては、それを利用して俺に害を及ぼす、なんてことは有り得ないわけだし。

 少々引っかかりはするが、触れないでおこう。


「で、では、その、ご参加いただけるということでよろしいでしょうか?」


「うん、頼めるか?」


「お任せください……ッ! セバスちゃん!」


「セリーヌです」


「聞いていたわね! 開催決定よ!」


「承知いたしました。ただちに手を回します。既にどこも忙しいと思いますが、金貨をばら撒いた上でお嬢様の名を出せばなんとかなるかと」


「よろしい! 無理を聞いてくれた業者には、この恩は忘れないと伝えておいて頂戴!」


 セリーヌが一礼してから、その場を去る。


「じゃあ、俺もそろそろ行こうかな。みんなの予定が空いてるか聞いて回らないと」


「はい。お別れするのは非常に寂しいですが、パーティーでお逢いできるのを心待ちにしていますわね」


「あぁ。そうだ、その前に、フローレンス、マッジ、それにミカ」


「はい?」


「……?」


『どうしたの?』


 二人が俺を見る。ミカも俺の言葉に反応する。

 パーティーに人を誘うなんて初めてだからか、少し緊張した。


「三人とも、明後日のパーティーには来てくれるか?」


 二人は驚いた顔をして。

 フローレンスは満面の笑みを浮かべ、マッジはさっと顔を逸らした。


「もちろんですわ」


「絶対行く」


『誘われるまでもなく一緒にいるつもりだったけど……こういうのも悪くないわね!』


 ひとまず、俺は二人と一振りから誘いを受けてもらえた。

 その日、俺は各所を回り、みんなに『愛の日』の予定を尋ねた。


 知り合い全員とはいかなかったが、ほとんどの人物が参加すると即答してくれた。


 英雄時代は祝勝会などがあっても参加することなく次の任務地へ向かっていた。

 それに、今回のパーティーは親しい者たちで集まるものだという。

 友人らしい友人を作れなかった俺にとって、こういうパーティーは初めての経験。


 俺は、自分が明後日を楽しみに待っていることに気づいた。




書籍版3巻発売まであと6日!


発売に向け毎日更新いたしますので、

よろしければお付き合いくださいませ。


ではでは!

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