後処理と報酬。
今後主人公がやりたい放題するために必要なものその2。
あの後、俺たちを信じるかどうかで大いにモメた…なんてことはなく。
俺たちの話を聞いたジーグさんたちは、俺たちの話を信じてくれて、なるはやで犯人たちを街へ連行することになったのだが、街で入れ替わるために囚われていた兵士さんが発見されていたらしく、休日だった兵士さんも駆り出して応援部隊が街から向かってきていた。
道のりの半分を過ぎたあたりで合流したのだが、犯人たちを捕まえてからはMOBの数もいつも通りになっていたので、結局は過剰戦力となってしまったが。
街に着くと、住民たちの大歓声に出迎えられた。まあ、トンネルでエンヤコラエンヤコラせっせと働いた甲斐があるというものだ。元の雰囲気が沈んでいたせいか、まるで別の街にいるかのように感じる。いや、まだ2つしか街に行ったことないけど。
そのまま大通りを通って、ギルドを過ぎて5分くらいのところにある大きな屋敷に到着。
ここはセンドの領主の館で、この街の行政を担当すると同時に、裁判所や留置場、警察署(センドの警備隊の本部)としての機能があるんだとか。領主さん、絶対多忙だろ…。一日の仕事量が半端なさそう。
今日はここで様々なことが行われるらしい。
まず、俺たちプレイヤーへの事情聴取。これはまあ確認の意味合いが強い。ネタが上がっているっていうか、すり代わられた兵士さんが見つかっているしな。黒幕を探すためにも、詳細な情報が欲しいのだろう。
次に、俺たちへの報償受け渡し。今回、トンネルの復旧だけでなく、誘拐犯の犯行を防ぐことにも俺たちは大きく貢献したとして、依頼書で要相談ってされてた報酬にかなり色を付けることになったらしい。まあ、まだ中身は分からないのだが。
その間に、犯人共は事情聴取っていうか、速攻で尋問が始まるんだろう。俺が玉つぶした奴だけは南無南無しておこう。彼は十分にその罪に値する罰を受けた。え、2人目?なに、ソイツ。死ねば?
ジーグさんに話した内容と変わらないが、指示を出していたと思われる『あの野郎』ってやつの存在とか、そいつの話した内容位しか手掛かりはない。ていうか、このことはちゃんとヒスイたちにも報告だな。次に会った時にクソアマみたいなNPCが周りに増えてたらもうどうしようもない。俺の殺意が。NPCも信用できないこんな世の中じゃ。ポイズン。
そんなこんなで、屋敷のなかでも奥の方にある部屋に通された。茶色っぽい色で統一された、ザ・執務室って感じの部屋だ。書類なんかの処理をするであろう机と、おそらく応接用の大きなテーブルがあって、テーブルの向こう側には人の好さそうな30前半くらいの男の人が座っていて、テーブルの上には様々な物品が置いてある。多分この人が領主様だろう。
「今日はよく来てくれた。私はこの街の領主をやらせて貰っている。ハイト・ラウ・センドというものだ。まずは、センドを代表して君たちに感謝させてくれ。本当にありがとう」
そう言って、俺たちに頭を下げるハイトさん。ちょ、お偉いさんのハズなのに、そんなポンポン頭下げたらだめですって!
「い、いえ、そんな、領主様自ら頭を下げていただくようなことはしていません!」
「そうですよ。やりたくてやったことですし」
これを言ったのはアミカさん。普通にしゃべれるんじゃないいですかヤダー。
「いいや、私の大切な街の民を救ってくれたのだ。このくらいの誠意は示させてほしい」
ヤバい。この人ダイと同じ匂いがする。具体的に言うと、ダイと同じく申し訳なさで人を殺そうとしてるレベルのいい人だ。
「今回与える報償として、当初こちらは100万ジェネ用意していたのだが、7名では割り切れないのだ。よって、少し加算して、1人につき15万ジェネを受け取ってほしい」
そう言って、机の上にあった重そうな袋を一人ずつ手渡ししていく。こういうのって普通周りの人がすることじゃないの?と思って周りの兵士さんを見るが、「いつものことなので諦メロン」という感じの顔をしている。
申し訳なく思いつつも、袋を受け取る。レイさんたちを見ると、やはり少し気まずそうだ。
「そして、誘拐を防いでくれたお礼は、申し訳ないが私が個人的にすることにした。最近持ち直したとは言っても、この領の経済はまだまだ危ういのだ」
流石にこれ以上の大金を貰っても、まだまだ序盤なので使う機会がないだろう。ないといいな。
「だから、個人的な礼として、私の私財から一人につき20万ジェネを支払う。」
ちょっ、言ったそばから更なる大金がががが。
「あの、貰い過ぎだと思うのですが」
「…実はな、領主になってから、趣味に使える時間がほとんどなく、20年勤めてきた中でも金というものを使ったことがないのだ。それに、下手に私がモノを買うと、『領主に認められた』などと勝手に言い出す者も出る。私財を公共の事業の資金源にするわけにもいかんので、私の私財は貯まる一方なのだ。だから、私に代わって、君たちにこの金を使って貰いたい。多少は復興の役に立つだろう。なに、今回渡す額程度では困ることはない」
そういうことなら、この街で思いっきりMPポーションを買い溜めておこう。金があって困ることはない。
「そうか、そう言ってくれると、こちらも気が楽だ。もう一つ、私からの個人的な報償なのだが、私が冒険者の時に使っていた装備品や、収集した貴重品の内から、1人に1つ、差し上げたい。どれも古いものだが、手入れはきちんとしているし、選りすぐったものだから、きっと満足してもらえると思う。性能面でも、まだまだ通用するはずだ。これらも、使う機会がなく倉庫で死蔵されていたものだから、遠慮はいらん」
そう言って、机の上にあるものを1つずつ説明してくれるのだが…
「これはMP回復速度上昇が付加された魔法発動用の杖だ。水魔法の威力を1.5倍上げる効果もある」
「この鎧は自動修復機能が付加されていてな。耐久度が60を下回らない限りは毎日20ずつ耐久値が回復していくのだ」
エトセトラエトセトラ…
今出回っているものと比べるとシャレにならない性能のものばかりだ。
しかも、俺が欲しているグローブはなかった。というか、正直装備品は自分で作り上げたい。だから、装備品以外が欲しい。
装備品以外だと、エリクサー的な効果のポーションとか、一時的に自分のステータス値を大幅に上昇させる丸薬なんかもあったが、俺は自分がエリクサーを使わずに全クリする側の人間だとよくわかっているので、そういう消費系アイテムにもそそられない。
最後に紹介されたのは、このアイテムだった。見た目は40センチくらいの金属の立方体だ。
「これは、実を言うと私にもよくわからない物なのだ。ただ、これを遺跡で手に入れてすぐに知り合いの生産者に見せた時、絶対に人目には晒すなと言われてな。しかも、これがどのような品なのかは最後まで教えてくれなかった。私もたまには自分で調べてみたりするのだが、さっぱりだ。もし欲しいという者がいれば、差し上げよう。私には必要の無い物だろうから」
今までは自重しておいたが、俺はここで《鑑定》を使う。説明がないとどうしようもないもの。
古代ノ魔導製作機械 特殊 調整度:0/100
このアイテムは生産系スキルを持つ者しか使用できない。
このアイテムは、生産系スキルを行使する際、そのスキルで製作する為に必要な設備の形を取る。
ただし、起動にはMPが必要で、その設備を動かすための動力はMPに依存する。
また、採取時に特定の道具が必要な採取ポイントにおいて、その道具の形を取る。
この際も起動時にMPが必要である。
これらの起動時、稼働時の消費MPは形どる設備や道具によって変動し、更に稼働時の出力によっても変動する。
オイ、今までで一番ヤバそうなアイテムだぞ、コレ。
正直、これまで見てきた装備品が霞むレベルだ。装備品の方は同じくらいの性能のものがこの先、いつか出回ることになるだろうが、このアイテムはラスダンの宝箱から0.1%くらいでドロップするような代物だ。ホントこれよく手に入れたな。
これはもう貰うしかないよね。
「さあ、この中から1つ、選んでくれ。何でもいいぞ」
レイさんのパーティーから1つずつ選んでいく。
レイさんは装備時にATK、DEF、SPDが2割アップする両手剣。まだ重量値的に厳しいけど、サーズに行く頃には使えるようになっているはず…らしい。
フエンさんはさっきの水魔法強化の杖。
アミカさんは消音機能と認知阻害が付いたマント。
ニックさんは放つ矢の速度が2倍になる弓。木製なので重量値は大したことがない。
ミィさんはMPを30込めると、1度だけHPを3割以上減らす攻撃を無効化するピアス(この世界ではピアス穴をあける必要がないので、試してみたかったのもあるらしい)
イルムさんは耐久度回復の鎧。この鎧の効果、本来はできるだけ防御力の高い鎧に付加した方が良いのだが、イルギア鉱石から魔法の威力上昇を外す代わりに、軽さと硬さがアップしたような特徴の金属で作られているので、今からでも使えるし、防御力も十分すぎるほどあるらしい。
俺はもちろん古代ノ魔導製作機械。これ以外にないだろ。
「私には最後までこれの用途が分からなかった。だが、君はそれが何なのか分かったようだな」
ギクリ。
「おっと、それが何なのか聞くようなことはせんよ。もちろん、やはり返せなどと言うようなこともな。価値があるものは、正しくその価値を理解している者が持つべきだ」
ホッ。
「それでは、今回の報償は以上だ。諸君、本当に、この街の民を守ってくれて、ありがとう。」
ハイトさんが最後にもう一度俺たちに礼を言ってから、俺たちは退室した。
兵士さんに先導されて館を出るまでの間に。
「なあ…、あの人がいい人過ぎて、凄い悪いことした気分なんだが…。俺たちって、褒められたんだよな?」
「そのはずですよ。まあ、私も同じような気分ですが」
「私も~」
「…俺もだ」
「私もだね。身近にいるとちょっときついかも」
「そうだな」
「僕、身近にいますよ」
「そうか…。お前も大変だったんだな」
凄い憐れみと労りの視線を感じる。
「対処法は2つです。開き直って受け入れるか、諦めずにこの恩を返そうとするか、です。正直2つ目がオススメですね」
「1つ目の方が、人として正しいと思うんだが…」
「ああいう人たちは、あれが今回の正当な報酬だと思っているんです。そこにまた功績を積んだら、更なる申し訳なさが嵩むだけですよ」
無限ループって怖くね?
「まあ、確かにそうなるか…」
「自分がああいう人たちよりは善人じゃないって速めに割り切らないと、大変ですよ。僕も半年で諦めました。それに…」
「なんだよ?」
「せっかくのゲームです。この街でずっとハイトさんに恩返しするよりも、自分本位に生きてみたいじゃないですか。人の迷惑にならない範囲の、自分本位ですが」
「うーん、まあ、それもそうかもな。恩を返すのに一生を捧げたいかと言われたら、そこまでの覚悟があるわけでもないしな。」
「そうですね。まだ割り切れてないのでモヤモヤはしますが、今は私たちの今後の冒険のことを考えましょうか」
「そうそうあんな人もいないし、宝くじにでも当たったと思うことにするよ。」
「そうしておいてください。まあ、僕はリア友がああいう人なんで逃れられないんですけどね」
凄い憐れみと労りの視線アゲイン。
そんなことを話しているうちに館の玄関に出た。
「これからどうします?」
「俺たちは、まあ、適当にやるよ。コウ、お前はどうすんだ?一緒に行くか?」
「うーん、僕はちょっと、プレイヤーとしては変人ですし、やりたいことがあって、今はそれに集中したいので、遠慮しときます。でも、何か困ったことがあったら、お互いに相談しましょう」
レベルを上げるなら多少の無茶は必要だし、それにこの人たちを巻き込むのはイヤだ。
「そ-かあ。俺としては一緒にやっていけると思うんだがなあ。」
「パーティー人数上限超えたら結構めんどくさいことが増えますし。同じパーティーには入りませんけど、まだ未到達のレギオンのメンバーみたいな感じでお願いします。僕だって、皆さんといる時間は楽しいんですから」
「分かった。じゃあ、またな。だな」
「そうですね。ではまた」
これからまたソロに戻るか。
さあ、何から始めようかな?
ハイトさんの名前は
いい人と悪い人がくっついてる博士の名前から。
ハイトさんは貴族的なミドルネームがついてますけど、実際は世襲じゃなくて領主の指示で後任が決まって、その人がミドルネームを継ぐ形です。
ミドルネームは犯罪などに関与したり、今後登場する人たちのようになったら強制的に剥奪されます。
今回の報酬。
25万ジェネ
チート級生産アイテム
主人公にとっては土を掘って、目障りなカトンボ(精神的な意味で)を10匹つぶしただけなので、貰い過ぎに感じてます。
実際、あのまま街の人が誘拐されていたら、ポーション業の復興も進まず、街の雰囲気も悪化して、収集が付かなくなっていたので、領主さんにとってはこれくらいは感謝したいハズ。
ハイトさんはほぼそんなこととは無関係に感謝していましたが。




