10 被害
フィランダーの元へ行くと、そこには隊長が頭を抱えて座っていた。
「シェリル」
「フィランダー。……何があったの?」
「色々。何があったか説明するよ。話を整理するにもちょうど良いし」
苦〜い顔したフィランダーはこれまでの経緯を説明してくれた。
最初に話してくれたのは、意外にも冒険者ギルドの事だった。
念のためにフィランダーが確認する様指示したのだが、行くと突然副ギルド長と職員一人が失踪したそうだ。騎士がスタートレット家からの間者の疑いがあると伝えると、すぐに二人の机を調べ始めた。
すると、ギルド主催のオークションで希少価値のある品物の一部が意図的に外され、ある商会へと流れていた事が発覚した。
その商会の名はガスター商会。スタートレットを拠点とする老舗商会だった。
それとは別に。今、冒険者ギルドはある問題に頭を悩ませていた。
冒険者達の依頼不達成者が相次ぎ、一斉に辞めたそうだ。その数三十名。B級パーティー一組とC級パーティー五組。
それだけでも頭が痛いのに職員まで消え、新たな問題が浮上し、冒険者ギルドは今、混乱しているらしい。
「中級のパーティーが一斉にいなくなった事で依頼もこなせなくなっているんだ。一番多い依頼は下級だけど、その次に多いのが中級なんだよね。一応今いるB級パーティー達がこなしてくれているらしいけど……ずっとという訳にはいかないだろうなぁ」
「確かに頭が痛いわね。商業ギルド同盟は?」
「うん……そっちも同じ様なもの」
商業ギルド同盟に行くと、こちらも副同盟長と職員一人が失踪していた。冒険者ギルドと同じで手に入った商品の横流しが発覚。やはりガスター商会へと流れていたそうだ。
「やっぱり……」
「出店報告のない店にも行ってもらったけど、誰もいなくなってた。同盟にも報告して、その店の業務停止をしてもらったよ。……税金も払ってなかったらしいからね」
「痛いねぇ……」
ここまで聞いて思ったのは私は何か忘れていないかという事だった。
「……そもそもこの騎士隊に来た理由ってなんだったっけ?」
「それは……間者がいるかもしれないからでしょ?」
「それもそうだけど……」
絶対何か忘れてる。そもそもここに来たきっかけは……。
考えていると女将さんが言っていた事を思い出す。
『何か困ったら冒険者市場に行くの』
「あ……冒険者市場」
「あっ! 間者に気を取られて忘れてた……」
「冒険者市場で売ってたものが正規のものか確認できる?」
「すぐに使いを出そう」
結果、もっと頭を抱える事になった。
「冒険者市場で売っていたステータス上昇の魔道具が、実はステータス下降の魔道具だった事がわかった」
「詐欺じゃない!」
「あとポーション。幻覚作用があるものが混じってた」
「まさか……冒険者達の依頼不達成って……」
「そのまさか……かもね」
この事は冒険者ギルドにも報告。ちなみに冒険者市場を管轄していたのは、失踪した副冒険者ギルド長と副商業ギルド同盟長だとか。
「今、同盟の方では混乱状態だよ。不良品を引き取るにしてもその金が用意できるか……」
魔道具とポーションの金額を全額支払うとなるとそれなりの金が必要だが、かなりの額になるとかで他の解決策を探しているという。
「同盟が持っているポーションと交換じゃダメなの? 古いものとかあるんじゃない?」
ポーションは蓋を開けない限り劣化しないってお医者様が言ってたし。
「古いもの……一応提案しておくか」
「あと魔道具なんだけど、ステータス下降の効果って消す事が出来ないの?」
「あー……魔道具の効果を消すには中級以上の光魔法使いが必要なんだ」
「どうして?」
「詳しくは分かってないんだけど、光魔法使いの浄化をすると効果が消えるんだよ。浄化は水でも出来るけど、水では効果が消えない。だから魔道具の効果を消したかったら教会に持って行くんだよ。お布施も包んでね」
なぜ教会に行くのかというと、教会には光魔法使いも多いからだそうだ。
「お布施代が高そう……」
「だから大分金がかかるんだよ」
「……同盟員に光魔法使いはいないの?」
「それは……聞いてないな。……よし。提案してみるか」
フィランダーは手紙をしたため、同盟長宛に手紙を書いて騎士に託した。
同盟長からの手紙がすぐ届き、提案した事についてすぐに実行する旨が書かれていた。
「同盟員に中級以上の光魔法使いが二人もいるんだって。それで何とかするそうだよ」
ポーションも古い非常用のが残っていたため、それと交換するそうだ。魔道具の方は光魔法使いが効果を無償で消す事で折り合いがついたという。
全部が解決という訳ではないが、何とか対応できてよかった。
今日はもう遅くなるので、ここでお暇する事にした。
「まさかこんな事になるとは思わなかったよ」
「いえ……若が来てくださらなかったらどうなっていたか……考えただけでもゾッとします」
「警戒は強めておけ。あと、部下が減って申し訳なかった」
「いえ……ギリギリですが何とかしますよ」
朝会った時よりかなりげっそりしている隊長を見て、私は心の中で謝った。
また恋人繋ぎをして並んで歩いていると、隣から気が抜ける音が聞こえて来た。
ぐー……。
「あ……恥ずかしいな。今日は昼を食べ損ねたから……」
「あ! 私も」
「忙しかったから仕方がないね。シェリル。おんぶしようか?」
「大丈夫です」
「遠慮しないで良いんだよ?」
「遠慮じゃないから。……それより商業ギルド同盟もそうだけど、冒険者ギルドの方も大変よね」
「うん。問題は山積みだな」
「……これが視察を兼ねた新婚旅行なのね。私ちょっと気を抜いてたかも。しっかりしなきゃ」
そう言った途端私達の周りが固まった。
「シェリル。これは視察を兼ねているとはいえ、新婚旅行では絶対ないからね。特別……そう、トラブルだから。本当は気を抜いて良いんだからね」
「私、いつも王都に行く時は気合いを入れるのよ。なるべく倒れない様にね。気を抜くとすぐ熱出すから迷惑かけるし。今回は旅行だから少し気を抜いちゃったけど……やっぱり気を抜き過ぎてはダメね」
「その心掛けは良いと思うけど、新婚旅行はこうじゃないから! もっとこう……気を抜いて楽しむものだから!」
「え? この状況で気を抜けると思う?」
「あ……それは……」
「でもフィランダーと手を繋いで歩いても平気になったのは良かったね。これなら安心してデートもできそう」
するとフィランダーが真剣な顔に変わる。
「……シェリル。欲しいものがあったら何でも言って。幾らでも買ってあげる」
「欲しいもの……やりたい事でもいいの?」
「もちろん」
「なら、食べ歩きがしたい」
「やろう!」
「冗談よ。フィランダーとじゃ無理でしょ」
きっと食べている間に女性に囲まれるに違いない。
「やる! 俺もシェリルと食べ歩きしたい」
「周りの迷惑も考えて。私はこうして、ゆっくり領の景色を観れるだけで十分だから」
その言葉に周りがしんみりしていた事を私は気づきもせずに笑みを浮かべていた。




